42 ラピス王国の窮状
「ラピス王国から歌姫へ緊急要請が届いた。川の精霊の怒りが鎮まらず、川が干上がり水不足とのことだ。セヴェルに向ったばかりで申し訳ないが、ラピス王国へ行ってほしい。」
夜がアルベールの執務室に入るなり開口一番、アルベールはそう言った。イリヤ第二王子との昼食後、図書館に戻ろうとした夜たちに背後からアルベールの侍従が声をかけた。何でも緊急の用とかで、今すぐ執務室に来て欲しいとのこと。急な別れに悲しそうなイリヤの頭を撫でてまた来ますね、と残し向かうと、冒頭部のことを言われた。
「ラピス王国は精霊の国と呼ばれるほど精霊との結びつきが強いとか。何をしたら精霊を怒らせられるんです?」
白雪も言っていた、精霊の多いラピス王国。そういえば、ラピス王国には精霊の愛子は誕生しないのだろうか。
「確かに精霊との結びつきは強い。ただ、それは昔の話だ。今では精霊を見える人間も減り、一部の王族にしか見えないそうだ。しかも、最近ラピス王国では魔鉱石の採掘が活発になっていてな。その採掘の影響で川に採掘場の汚れが流れているらしい。」
白雪が言っていた情報は少し古いのかもしれない。よく考えれば、ずっとセヴェルの森から出たことがないのだ。外の情報を仕入れる伝手もないのだろう。
「まあ正直ラピス王国の人間のせいって言いたいところだけど、人間がやらかした事は人間が尻拭いしなきゃね。行くよ、ラピス王国。」
もう完全に敬語は抜け切っていたが、夜は気にする様子がない。アルベールは指摘することも諦め、1人ため息をつく。
「ここからラピス王国の王都までは馬車だと時間がかかりすぎるから飛空艇に乗ってもらう。今回は滞在時間が長くなるだろうから、侍女も連れて行け。」
「それじゃあマーシャはどうするの?あの子を見殺しにした奴らと一緒に置いていけない。」
「もし可能なら連れて行ってくれ。その方が彼女も安心だろう。」
「なるほど、つまり旅行ってわけね。おっけー、すぐ2人に伝える!」
夜の軽い返事にアルベールが重要な任務だ!と訂正する。夜は冗談だよーと笑みを浮かべ、扉へ向かう。
「ちゃんと、ラピス王国は救う。それが私にしかできないことなら最後までやり切るよ。」
穏やかな口調とは裏腹に、夜の瞳の中には強い意志が見えた。相変わらず飄々とした笑みを浮かべているが、やると決めたことは最後までやり遂げるのが夜だ。アルベールもそれを分かっているからこそ、彼女にマーシャのことも預けている。本来なら家族である自分が責任をもって面倒を見るべきだが、未だ父から真意を聞けておらず、このままではまた監禁沙汰になる可能性があるので夜に任せるしかなかった。隣国のこと以上に自国でも問題は山積みだ。
「頼んだぞ、ナツメ嬢。」
ラピス王国のことも、マリアのことも。そう言えばマリアを愛称で呼んでいたな、と思いながら夜を見送る。知らぬ間にマリアとの仲を深めている夜が少し羨ましく感じられた。夜が来てから、初めてイリヤから話しかけられ、もう1人の妹まで現れた。あんなに帰りたがっているはずの少女が、自分の環境をこうもあっさり変えていくことが不思議に思えた。
(おかしな奴だ....だが、ああいう奴が国を変えるのかもしれない。)
アルベールも執務室を出て、父王の元へ向かう。マリアの件だけでない、ユルグから進言のあった、天使の件についてもだ。
「いい加減、次期王として動かなければな、もう二度とあのような過ちは起こさぬように。」
一人呟いた言葉は広く冷たい王宮の床に吸い込まれた。
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