37 ユルグと相談
翌日、夜は、空と翠にマーシャの面倒を見るよう頼み、ユルグの研究室へと足を運んだ。白雪から聞いたあの話をユルグにもしようと考えたのだ。部屋をノックしてみると、特に反応はない。しかし、中から、
ーうるさいジャック、まだ寝かせろ…
という声が聞こえてきたため、寝ているだけだろう。それにしても彼は夢の中でも弟子のジャックに怒られているらしい。それでも懲りないユルグに、手を焼いているであろうジャックの助けを求める顔がありありと思い浮かぶ。……今度苦労性な彼のために甘いお菓子でもあげよう、と心に決めとりあえず中に入る夜。中は相変わらず雑然としていて、物であふれかえっている。唯一ベッド周りだけがきれいなのも、汚部屋所有者の特徴ともいえる。
何かよくわからないものを踏みながらベッドへずんずん向かっていく。ユルグはワイシャツを着たまま眠っており、布団にくるまっている。その布団を引きはがしながら夜は彼の耳元で叫んだ。
「あー!!あれはもしや古代魔法のなんとやらー!!」
「なに!?古代魔法!?」
古代魔法という言葉に引っ張られ一発で起き上がったユルグに夜は呆れた顔を向けた。
「はいはい、ここに古代魔法の適正者がいますよーぅだ。それで、さっそく報告したいことがあって…」
夜の姿を認識するやいなや、飛び起きたユルグ。そしてすぐに不機嫌そうな声を出した。
「なんだ、お前か。てっきりジャックかと思って焦ったじゃないか。俺は今大事な睡眠中だったんだが。」
邪魔をするなと言い、じとーっとした視線を夜に送るが、夜はそれをフル無視してビーカーにコーヒーを注いだ。
「はいコーヒー。それで話だけど、森の守護者ってやつに会ってきてね、興味深い話をしてたから聞いてほしいの。」
ユルグは素直に夜からコーヒーを受け取ると、目で話すよう促した。夜もうなずき、この国の伝承と白雪が話してくれた伝承についてを語った。ユルグは一貫して何かを考えるようにして話を聞いていたが、話し終わっても暫く黙っていた。夜は特に気にせず自分には紅茶をビーカーに入れた。最初はビーカーってどんなキャラだよなどと引いていたが、単にここにカップがないのと、ビーカーのほうが洗うのが楽だったためすぐに納得した。今更カップを置かれてもなんかキモいしな…と失礼なことを考えていると、ユルグが視線を下げたまま、話し始めた。
「つまり、魔王が現れたのも、古代魔法が使えなくなったのも、人間のせいだったってことか。さらに言えば、伝承を書き換えたやつがいるな。おそらく人間ではない、伝承を変えるってのは長い時間がかかるものだからな、それにこれで得をするのは魔族側だ。」
そうして視線を夜の顔にもっていき、じろじろと見始めた。
「え、何やめてよ。」
「お前が天使だなんて…世も末ってやつだな。」
突然失礼なことを言われ、手刀をユルグの頭頂部に決めた夜。ユルグは頭を押さえて悶絶した。魔力はあってもHPカスなユルグ、JKのチョップに一撃でやられてしまった。
「魔法使いに物理攻撃してくんなよ!!」と言いながら夜をにらみつけてきた。
「あースミマセン。それより、これで古代魔法の研究進んだりしない??」
夜のきらきらとした瞳に見つめられ、ユルグの怒りはどこかに行ってしまった。
「あーまぁ、そうだな。有益な情報ではあった。ただ、精霊王の話のときも思ったが、たぶんお前は精霊と契約して古代魔法が使えるようになったほうがいい。」
「それはそうだけど、精霊なんてどうやって見つけたら…。」
<それならいいところがありますよ、ヨル様。>
突然白雪に話しかけられ驚いた夜はうわっと声を上げ、ユルグはそれに驚きギャッと声を上げた。
<とつぜんすみません、驚かせてしまいましたね。そこの人間もすみません。>
白雪の申し訳なさそうな声はユルグにも届いたようで何だこれ!!と叫んでいる。
「私と契約した、フェンリルの白雪だよ!この子があの伝承を教えてくれたの。」
<お初にお聞きにかかります、魔法使い殿。どうぞ白雪と呼んでください。>
夜の爆弾発言と白雪の丁寧な物言いのギャップに一瞬意識を飛ばしたようだが、幸いすぐに戻ってきた。
「え、お前森の守護者と契約したの?はぁー?なんでそんな大事なこと言わなかったんだよ!羨ましい!!」
そっちかよ!と夜の突っ込みが入った。白雪は楽しそうにその会話を聞いている。しばらくギャーギャー言い合っていた二人だが、白雪が精霊の件は?と言うとすぐにおとなしくなった。
<このヒビ王国にも精霊はいます。私のいる森にも少ないながらいますよ、力が小さく弱いですがね。なので、中級精霊の多いラピス王国に行ってはいかがでしょうか。>
「精霊にはランクが決まっているのか?それに生息地も?」
ユルグの問いに白雪が丁寧に答えた。
<精霊には低級、中級、上級と分けられ、さらにその上に精霊たちを束ねる精霊王がいます。精霊は基本的に好奇心旺盛でいたずら好きな子が多いです。自然界に存在している精霊は知能の低い低級が多いですが、知能や力の大きな精霊は人間の多いところを好みます。>
「それなら、この国でもいいんじゃないか?精霊なんて見たことないが。」
<いえ、実はこの国は精霊の数が少ないのです。古くは多くの精霊の愛子がいたのですが、それらを排除したことにより精霊の怒りを買い、多くの精霊は他の地へ移ってしまったのです。残っているのは、自然に生まれた低級精霊だけ。>
<それに、もしこの国にいたとしても姿を現すことはほとんどありませんよ。精霊はいたずら好きですから、姿を見られるといたずらにならないからと姿を見せないのです。>
「んーそれじゃあ、なんでラピス王国?」
夜はあの王子を思い出して一人顔をゆがませた。
<あの国ではほかの所よりも魔素が濃いせいか、自然界でも平気で中級精霊が存在するのです。なによりあの国は精霊によって成り立っている国。代々王家が精霊と契約を交わしているお陰で精霊の愛子がいなくとも、精霊が多いのです。>
「確かにあの国では自然災害も少ないと聞く。王族だけが使える魔法があるという話も聞いたことがあったが、まさか古代魔法だったとは。」
ユルグはしばし考えたのち、よしアルベールに進言しておくといった。
「古代魔法のほうも研究はこちらで進めておく。お前は鑑定でもしてどのくらい成長したのか認識しとけ。」
そういうと、ユルグはさっさと夜を追い出した。コーヒーを入れたのになんと薄情な男!と夜は憤慨し、白雪は楽しそうに笑った。
少し長くなってしました…。あとユルグのせいでステータスを書かなきゃいけなくなった…。苦手なんですよ、あれ書くの。ど素人のステータスには目をつぶっていただけると幸いです。




