33 フェンリルと契約
<天使の他に、人間界と天界とを繋ぐ存在がいます。精霊と、我々天使様の使いです。>
精霊に関しては精霊王から聞いた記憶がある。精霊は自然を司る存在で、フェンリルのように自然を治めているものは天使の御使であるそうだ。天使がいなくなった後も、こうして森の平和を守り続けている。しかし、他にも沢山の仲間がいたそうだが、長い年月と共に支える存在がいなくなったことで、言葉の通じない魔物へと堕落してしまったらしい。
<人間も初めは魔王に対抗できる力を持っていたのです。なんせ、天使との間に子供を授かっていましたから。それに精霊は自然の平穏を守る存在です。それを脅かす魔王を倒すため、人間に力を貸していました。>
「それが精霊の愛子か。確か精霊王の力を使えるっていう...。」
<それです。初めの200年程でしょうか、人間は魔王を倒せていたのです。今より魔法も強く、文明も栄えていた。それでも神には勝てなかったのです。怒りのあまり自我を失ったフィアナ様はその身を持って人間の文明を壊し、滅ぼしたのです。>
<その反動でフィアナ様はお姿を保てなくなり、今もどこかで封印されているのです。>
「封印....。てことは誰かが封印したの?」
<確か、当時の天使の子供達が封印を施したはずです。力を使い果たして弱っているところをこう、シュッと。>
シュッ?とかいう謎の擬音が出てきたが、フェンリルはいたって真面目な顔をしているので夜はツッコまないでおいた。
<しかしそれは余計にフィアナ様を怒らせ、封印されていても、その気持ちが黒い魔素となって漏れ出ているのです。今の魔王が倒されても復活するのは、その魔素の所為なのです。>
「てことは魔王倒しても意味ないじゃん、フィアナ様を救うまでは。」
夜の救う、という言葉に驚いたように目を見開くフェンリル。
<そうですね、いい加減フィアナ様を救って差し上げなければ。あなたが歌姫として召喚されたのは、フィアナ様を救うためですよ。>
「むしろそっちの方が大事だよね、てか今までも歌姫って召喚されてたよね?何でフィアナ様を救えなかったの?」
<そうですねぇ....実はこの話をするのは初めてなのです。この森に歌姫がやって来たこと自体。恐らく、人間の国できちんと伝承が伝わっていない事と関係があるはずです。何者かが邪魔をしているか、何なのか。>
これにはフェンリルも分からないようだった。森でずっと暮らしていたわけだし、それも当然だろう。ふと夜は心の声が聞こえるのって、これじゃね?と思った。
「もしかして、私が心の声聞こえるのって....。」
<あら、その力には目醒めていたのですね。天使様は様々な力を持っていて、どこまでも見通せる瞳や人の心の声を聞ける耳、そしてどこまでも飛べる翼。他にもたくさんあるんですよ。>
フェンリルは嬉しそうに話す。天使に支えていたというフェンリル。きっと彼女にも、慕っていた天使がいるのだ。
「でも心の声が聞こえるなら人間の考えることも分かってたんじゃないの?」
<多勢に無勢ってやつですよ、天使様。天使たちはたくさんの力を持ちますが、子を成したり、恋仲になることはありません。人の気持ちにも疎いですからね。元々数も少なく、天使を増やすのはフィアナ様しか出来ませんでしたから。>
<まさか人間にそのような事をされるとは夢にも思わなかったのでしょう、天使たちはフィアナ様に似て酷く純粋なんですよ。>
「そ...っか。あ、天使様じゃなくて、夜って呼んでよ。あなたも名前は?」
夜がそういうと、フェンリルは嬉しそうにその尻尾を振った。
<ヨル様!私に名前はありません。天使様がつけていた名前はありましたが、あれは天使様のものですから。よければ、名前をつけてくださいませんか?>
「んん....名前かぁ。うちの家、名前のセンスないんだよね、私の名前は夜に産まれたからっていう理由だし....。じゃあ雪みたいに真っ白だから白雪とかどう?」
<しらゆき....可愛らしい名前ですね!気に入りました。では、これで契約は成立です。>
「へ、契約?」
夜の声と共に白雪が自分の額を夜の額に押し当てた。すると、光に包まれ、次の瞬間には白雪の額に刻印が刻まれていた。
<我々のような守護者は主を持って初めてその力を発揮できるのです。名前を名乗り、相手に名前を与えたら契約は成立するのですよ。>
白雪はドヤ顔を決める。えぇ、聞いてないんだけど...と呟く夜の頬にその柔らかな毛を押し当てた。
(まいっか....白雪可愛いし、柔らかいし、もふもふだし....。)
そんな感じで無事流された夜は白雪のもふもふを堪能する。あゝ、幸せなり。
なんかすごい長くなってしまった....。いつもは1200字前後なんですけど、2000近くいってしまいました...。どのくらいが丁度いいんでしょうね、難しい。




