31 シルバーウルフと歌姫
父の口からでるモヤが人型を形作った時、突如として二匹のシルバーウルフが現れた。体長2メートルもある体をしなやかに動かし、父の口から現れたそれに噛み付く。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ......!!!!!!!」
森に響き渡るその悲鳴は父からではなくそれから発せられているようだった。
そして遂にそれは完全に姿を現した。真っ黒な体は闇そのもので、顔は浮き出るほどに白く、隙間から覗く目だけがギョロリと動き、命を感じさせた。
恐怖で声も体も動かせないでいるエイダンをシルバーウルフはさっと首根っこを咥えると夜の背後まで連れて行った。
夜は未だ歌を歌っていた。顔は険しくなり、夜の歌に呼応するようにシルバーウルフもゾロゾロと森から出てくる。
「く....くるし....。」
魔族が辛そうに喉を掻きむしりながら咆える。その体からは毒のようなものが滲み出ていて、夜が浄化したところを黒く覆い尽くした。
シルバーウルフが夜を横目に魔法で魔族を攻撃する。夜もその助けがあってか、徐々に声を大きくしていく。夜がひと振り手をやると、魔族の左手に鎖が繋がれた。それまで喉元にあった手は地面へとぐんっと引っ張られる。また夜が一振りすると右手に鎖が繋がれ、手が地面へと引っ張られる。
「うぅぅ....このクソアマが...。ようやく...ようやくここまで来たのに....!」
そう魔族が叫んでいる間にも夜は魔族の体を鎖で雁字搦めにし、徐々にその体をキツく締めていく。
「うぅぅ...うぁああああああああ!!!!!!!」
大きな絶叫が森にこだまし、鎖が外れるのと同時に魔族の体は砕け散った。後に残るのは、その魔族の残滓のみ。エイダンはその光景に驚き茫然としていたが、エドワードの呻き声を聞くと、すぐエドワードの元へ飛んでいった。
「父上....!ご無事ですか...!!」
父は小さく呻き声をあげている。よかった、死んではいないようだ。すると、はぅぁぁぁ〜という訳の分からない声をあげて夜が倒れ込んだ。と思ったら、シルバーウルフがすんでのところで夜の下に体を捩じ込んだ。そしてそのまま立ち上がると、軽快に駆け出し森の奥へと夜を連れて行ってしまった。
「え、ちょ、なん...<おい人間>
エイダンが困惑していると頭の中に声が響く。何事かと思って周囲を見ると、シルバーウルフが怒ったようにグルゥと唸った。
<天使様はこちらで預かる。また明日、正午に来るように、との伝言だ。>
その時、エイダンはAランクの魔物はテレパシーを使えるといった文献を思い出した。
(まさか本当に使えるとは....。)
人間を襲わない高い知能を誇るAランクの魔物、シルバーウルフ。そのプライドの高さ故に人に姿を現すことも滅多にないと聞く。
<では伝言は確かに伝えた。去れ。>
そう言うと、シルバーウルフはエイダンをじっと見つめた。どうやらエイダン達が立ち去るまではここにいるようだった。
エイダンはその視線の鋭さに耐えきれず、すぐに出ます、と言って父を担ぎ上げ慌てて回れ右をした。そしてそのまま振り返らず、一目散に馬車へと戻った。
馬車まで戻ると、夜の護衛騎士キリヤは訝しげな顔をして、歌姫様はどこかと問うた。
「明日また迎えに行くことになった。今日はこのまま屋敷へ戻ろう。」
そう言うと、キリヤは渋い顔をしながらも馬に乗った。エイダンは父を馬車の中へ横たえ、自分も乗ると御者に出すよう指示した。
馬車が進み、すぐに森は遠くになった。夜が無事であるよう祈りながら、エイダンは見えなくなった道をずっと見つめた。
ようやくエイダン視点終わりました...。本当は、ここで夜が歌っている歌ちゃんと歌詞も書きたかったんですけど、いかんせんエイダンは言葉を理解できないものですから...。
それと、前話を少しだけ変えました。でも一行だけなので、お気になさらず。




