30 潜んでいた悪
翌日、朝早くからエイダン、エドワード、夜は馬車に乗り込んだ。例の森へと向かうためだ。夜の護衛騎士キリヤも馬で同行している。
(相変わらず鍛え抜かれた体だ。)
エイダンは夜よりも護衛騎士に夢中だ。
(どんな訓練を受けているのか、知りたい..。)
ふと視線を感じ、前に顔を戻すと夜とばちっとまた目が合った。今度は夜の方からふいっと目を逸らす。
「そういえば、辺境伯様はフェンリルを見たことはありますか?」
あからさまに話を持って行かれた。フェンリルは伝承上の生き物だと言うのに、彼女は何を言っているのだろうか?
「いやぁ〜フェンリルは伝承上の生き物ですからな。最後の目撃例も何百年も前という話ですし...。」
「ではあなたは会ったことがないんですね?」
「ええ、一度でいいから見てみたいですね。」
それまでにこやかだった夜の顔が一瞬真顔になり、すぐ笑顔に戻った。
「そうですか、いやぁー私も会ってみたいなぁと思いましてね。」
何だろう、彼女のこちらを見透かしているような感じは。何だか、心の声でも聞こえているかのような...
そこまで考えてエイダンは自分の考えを打ち消す。その間も話は進み、気づくと好きな馬の部位の話になっていた。いや何故。
そんなこんなで馬車は目的地に到着した。エイダンがドアを開けるより先に夜はさっと扉を開け、外へ駆け出した。
「え、ちょ、ちょっと、、!」
慌ててエイダンも外へ飛び出す。と、すぐに息苦しさを感じた。以前は光に満ち溢れ、気持ちの良い空気で一杯だった森は、暗く澱み、変な圧さえ感じた。
「空気、、、いや魔素が濃すぎるのか、しかもこれは魔族のものではないか...。」
エイダンの1人ごとに夜が反応し、ばっと振り返った。
「魔素!?これが魔素...。重苦しいわね、生き物達も苦しそう...。早く何とかしなきゃ。」
最後はほとんど聞こえないくらいの声で夜が1人ゴチる。
「辺境伯は来ましたかー?」
後ろを振り返り、エドワードを確認する夜。
「ここに!」
エドワードはエイダンの真後ろに立っていた。心なしか嬉しそうな顔をしているように見える。そんなに歌姫と森に来れたことが嬉しいのだろうか。
すると突然歌声が森に響いた。エイダンは驚き、夜の方へ顔を戻した。夜が歌う側から澱んで見えた空気は軽く、浄化されているように見える。
(この歌声は....確かに素晴らしい。)
言葉は理解できないはずなのに、どこか懐かしさも感じる。それ以上に、夜の守りたい、救いたい、という気持ちがエイダンにまで伝わっているようだった。
突然、夜がこちらに振り向いた。エイダンに向かって手を広げる。いや、正確にはその後ろにいるエドワードに向かって。
「うぐっ、うっ......。」
エドワードが苦しそうにうめき出す。
「な、何をするんだ....やめてくれ....!」
だがその切望は、次第に悲鳴に変わっていく。
「あ...あぁぁぁぁ!!!!!!」
エイダンは驚きで目を見開く。自分の声とは思えないものが口から出る。
うめくエドワードの口から黒いもやが吹き出していた。エドワードは自分の首を絞めるようにしながら、もがき苦しむ。
夜の歌声は次第に高く、大きく広がっていく。それに連れて、エドワードから出るもやも大きくなり、遂に完全に姿を現した。
小説って難しいですね...。これでエイダンの話終わらせるつもりだったんですけど....全然続きます。




