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召喚されましたが、帰ります  作者: 犬田黒
第二章 それぞれの冒険
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28 北の地セヴェル

 王都から北の地セヴェルまでは馬車で丸一日ほどかかった。魔法が進んでも科学が進んでいないからか、地味に座り心地の悪い馬車を、ふかふかにすることに成功したおかげで、夜は疲れ知らずだった。


 もうすっかり日も暮れかけ、今日はひとまず辺境伯の屋敷で休み手筈となった。馬車から降りようとすると、手が差し出される。存在感の薄い夜の護衛騎士である。名をキリヤと言った。色素の薄い髪に緑の瞳。何より彼は、夜の彼氏である龍太郎並に無口であった。


 それが夜にとっては1番居心地が良かった。本人は、ー自分のようなつまらない人間がなぜ歌姫様の護衛を... などと思っているようだが、むしろ無口だから選ばれたと言っても過言ではない。


「やぁやぁ、ようこそお越しくださいました、歌姫様。私はこの屋敷の主人、エドワードと申します。遠いところからわざわざ、感謝いたします。」


 綺麗な礼とともにダンディな顔をしたエドワード辺境伯が顔を上げる。目元の皺もいい味を出している、高身長でスタイル抜群なおじ様だ。


「こちらは息子のエイダン。さあ、日も暮れておりますし、中へどうぞ。」


 隣に立っていた息子の説明もほどほどに中に入る4人。エイダンは口を開いていないが、夜を見て疑っているようだった。


ーこんな小さな娘が歌姫?


 (小さくて悪かったな!)


 やはり身長というものは、いかに食費に金をかけ、スポーツをやり、規則正しい生活を送るかにかかっている。金が無ければ、オール必至の生活を送っていた夜にとっては夢にまた夢である。


「お腹も空いてることでしょう、晩餐を用意してありますので、このまま食堂へ案内させていただきます。」


「助かります。正直とてもお腹が空いていて...」


ー食い意地のはった歌姫だな...。


 .....先ほどからエイダンには何か恨みでもあるのだろうか。夜は会った記憶のかけらも無いが。


 食堂で案内された席に座る。入って正面から見て、テーブルの端にエドワード辺境伯、その左横にエイダンが座る。夜はエイダンの目の前に座った。


「食事しながらで申し訳ないが、今回の任務について話しても?」


「ええもちろん。解決するのは早いに越したことはありません。」


 夜がそう答えると、エドワードはでは遠慮なく、と話し始めた。


「死体が森で発見されたのは、つい先週のことです。その二ヶ月ほど前からも、森で魔物に襲われた報告が相次ぎ、ざっと50件にも昇ります。」


「それは...多いですね。」


 夜が知った顔で頷く。それにええ、と辺境伯が答える。


「この地の森には守神であるフェンリルがいるとされています。その姿を見た者は殆どいませんが、伝承は今でも伝わっているのです。我々は、そのフェンリルに何か起こったのではないかと思います。」


「.....なるほど、私にできることはないかも知れませんが、様子を見ましょう。明日にでも。」


 夜の前向きな返答に辺境伯が喜ぶ。


「おお!それはそれは、有難い。では早速明日、エイダンに森を案内させましょう。」


「いえ、森へはエイダン様とエドワード辺境伯、あなたにもお願いしたいです。」


 その言葉に辺境伯は少し顔を顰めた。


「....申し訳ないのですが、明日も仕事が色々と...。」


「あら、たくさんの被害者が出ている森でなにが起こるのか、自分の目で見なくていいんですか?」


 ニコッと微笑み夜は辺境伯を見つめる。


「あなたの治めるこの地でなにが起こっているのか、辺境伯としてきちんと責任を持って同行すべきでは?」


 夜の謎の圧に押され、辺境伯はそこまで言うなら、と根負けした。


「それでは明日はピクニックですね。」


 ふふ、と微笑み楽しそうな顔をする夜に、辺境伯親子はなんだコイツは、と目で会話した。夜には筒抜けだが。


 夜はそっと辺境伯の様子を盗み見る。今はおかしな様子はないが、さっき一瞬()()()が聞こえた。


 (魔族絡みなら注意しなきゃね。)


 未だこいつに任せて平気か、と顔で会話する親子を横目に夜は料理に舌鼓を打った。

次回エイダン視点にします

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