27 北の地へ行かん
マリアの容態も良くなり、ご飯も食べれるようになった頃、夜は王太子アルベールから話があると呼び出されていた。
「話って?マリアのことなら何も譲んないけど。」
初手からぶっ飛ばす夜。アルベールも困ったような顔をした。
「いや、彼女のことではなくて....。むしろ今は君に任せる方針になっているよ。正直、父上がそんなことをしていたなんて知らなくてね...。」
その言葉に嘘はない。さて、どうやってあの王を懲らしめようか。そんな夜の思惑に気づいたか気付いてないか、アルベールは話を戻す。
「君には、我が国の北にある辺境伯のところに行って欲しいんだ。これは歌姫の正式な任務だ。辺境伯から依頼があってね、北の地に広がる森で異変が起こっているらしい。」
「それで、なんで私が?調査団でも出せばいいでしょうに。」
その言葉にアルベールは難しそうな顔をする。
「知っていると思うが、北の地に広がる森は、森の守り神によって守られている、神聖な森だ。勿論、魔獣やら魔物はいるが、人間を襲ったりはしない、完璧な生態系が守られているんだ。」
それは知ってるけど...。と夜が首を傾げる。
「実は最近その森で人間の死体が見つかったらしくてな。他にも、魔物から攻撃を受けたという報告は何件も上がっているだ。おそらく、魔王の復活による影響と考えられる。」
「だから私に行かせよう、と?ていうか、私1人だけこの国に残ったのもそう言う問題を解決する為ですよね?」
その言葉にアルベールが頷く。
「わかっているのなら話は早い。今日これより、辺境伯での任務受けてくれるな?」
「そりゃ困っているんなら行きますけど、マリアに手出したら.....分かってるよね?」
夜の全く光がない瞳に気圧され、アルベールはただこくこくと頷いた。
「それじゃあ、ちゃちゃっと解決してくるわ。」
そういい、さっさと執務室から出る夜。アルベールはいまだに夜の圧にやられていた。
ーあの瞳、どこまでも光がなかった....。恐ろしい。
(聞こえてるっつーの。)
1人心の中でごちながら、夜はスタスタと廊下を進んで行く。
部屋でメアリーとマリアの事情を説明すると、2人とも目をうるうるとさせ、夜の任務を阻もうとした。
「ぐっ...かわいい...けど、働かざる者食うべからず、だからね。君のためにも、いっぱい恩売るよ、あいつらに。」
2人のうるうる攻撃に耐え、マリアの頭をそっと撫でる。
「....待ってるね?」
そう言って頭を夜に預けるマリアのなんと可愛いことか!そんな可愛らしいマリアをメアリーによろしく頼み、夜は外へ飛び出した。
(早く任務終わらせて、マリアとお茶しよ!)
意外とこちらの世界を満喫している夜。新しい場所への適応力はさることながら、やはり妹のいる夜にとって、マリアは雪を思い出させてくれる、可愛らしい子だった。
そんなこんなで馬車に飛び乗り、北にある辺境伯の元へ向かう夜。影は薄いが、夜の護衛騎士も共に向かう。
マリアとのお茶会に胸を馳せながら、北の地へと向かうのだった。
実は護衛騎士がいました...。一応、国の重要人物なので。ようやく冒険っぽくなってきて個人的に嬉しいです。早く冒険させたくて今回だいぶかっ飛ばしました。




