26 忍び寄る魔族の手
朝になり、眠りこけていた夜をメアリーの悲鳴が起こした。
「な、、ななな、、誰ですか!この子は!!」
寝ぼけ眼の夜を大きく揺さぶる。
「その子はぁ..........私の弟?」
「もう!!!説明がめんどくさいからって適当言うのやめてくださいっ!!!!」
その声に驚き、マリアが起き上がる。メアリーは慌ててマリアに駆け寄り熱はないか、具合は平気か、マリアに問いかける。夜はその隙に、同じく起きて目を丸くしている少年を抱き上げ、部屋を出た。
「よっしゃ、ユルグのとこ行くか!」
スタコラさっさとユルグの元へ少年を運ぶ夜。少年は声も出せずされるがままだ。
「ユルグー久しぶりー。かくかくしかじかでこんな感じだから、少年の様子見て欲しい!」
例の二ヶ月の間。勉強の合間合間にユルグと研究を行っていた夜はすっかり話し方が崩れていた。あと、かくかくしかじか、とても便利な言葉である。
突然の訪問にも慣れた様子のユルグ。彼は夜から精霊王の話を聞いてからずっと研究に没頭していた。いわば二徹状態である。
「かくかくしかじかじゃわかんねーよ!まあいい、匂い的に魔族絡みだな。見せてみろ。」
読者の方々には通じても、ユルグには通じなかったようだ。それでも、魔法に関してとても鼻のいい(物理的にも)ユルグは、魔族絡みだと一眼で見抜いた。
「まだ魔力が残ってる。こりゃ、蜘蛛系の魔族だな。アラクネ的なね。しかも、操ってる上にこいつがちゃんと喋れてたってことは、人型だ。相当強いぞ。魔王の側近並みだろう。」
魔王や魔族という言葉に少年はサッと顔を青くした。
「いまは操られてないみたいだけどな、少年何か覚えているか?」
「ぼく....勇者さまたちが見れるって言うから、母さんたちと城下町まで来たんだ。そしたら、空から紙が降ってきて....。気づいたら声は出ないし、体が勝手に動くしで、目の前には歌姫さまがいるし....。」
そう言いながら、目を潤ませる少年。夜は優しく頭を撫でてやる。
「お母さんたちのところに戻ろう、きっと君を探してる。一緒に行くよ。」
夜はユルグに連れてっていいか目配せする。よく分からないが、キリッとした表情が返ってきたので恐らく平気だろう。
少年を連れて歩き出す。はぐれないよう、手を繋ぎながら他愛もない話をする。ユルグはその後ろ姿をじっと見ていた。
ーまずいな....今回の魔族の動きが例年より早すぎる。人型が王都にまで手を伸ばしてるとなると、事態は一刻を争うやも。そういえば、北の方でも何か....
途中まで聞いていた夜は、少年に手を引かれて現実に引き戻された。
「あのねー僕の村にはねー綺麗な花畑があってー
先程まで泣きそうだった少年は、楽しそうに夜の手を引っ張りながら歩く。
(魔族、やっていい事とダメなことがあるでしょ)
少年を見ながら密かに怒りを覚える夜。願わくば、彼が2度とそんなものに巻き込まれませんように。そう願いながら、夜たちは城門を後にした。




