24 真夜中の訪問者
翌日。マリアはまだ眠っていて、熱も上がってきた。一応、王宮付きの医師が来てくれることになり、様子を見てもらう。どうやら急に傷を癒したことで体が追いついていないらしい。しばらく安静にしていれば治ると言われた。
「それにしても、まさか第二王女様だったなんて....。ナツメ様、昨日ナチュラルに嘘つきましたよね?」
メアリーは汗で赤くなったマリアの顔を冷たいタオルで拭いながら、夜をじとーっと睨んだ。
「妹みたいなもんだよ。これからは私が面倒見るつもりだし。まあ、マリアが起きたら、ね。」
そうですね、とマリアを起こさないよう小声で話す夜とメアリー。それがなんだか可笑しくて、くすっと笑い合った。
マリアは夜になっても起きなかった。ずっと夢と現実とを行き来しているようで、時々うなされているようにうめき声を上げていた。
心配そうに見つめるメアリーを何かあったら呼ぶから、と無理矢理部屋に戻らせた。
「必ずですよ?何かあったらすぐに呼んでください、ひとっ飛びで行きますからね?!」
なんとも頼もしい言葉であるが、今日一日中付きっきりで看病していたのだ。そろそろ休んでもらわなければ困る。残業ダメ絶対。
無事にメアリーを休ませることに成功した夜は、ベッドの隣に置いてある椅子に座りマリアを見つめる。
今はもう、うなされておらず、顔もほっぺがほんのり赤味がかっている程度に熱はおさまった。
少し勉強でもしようかと思い、立ち上がると、コンコンという小さなノック音が耳に届いた。
だがメアリーではない。声が違う。いつか聞いた、幼い少年の声に思えた。急かすように二度目のノック音。夜は用心しながらドアをそっと開けた。
果たしてそこには、やはりあの時、夜に“隷属の歌”を手渡した少年がいた。相変わらず、心の中は助けてーという声で埋め尽くされている。
「...て...........なかった」
「なに?なんて言ったの?」
「どうしてあの楽譜を破いた!!!」
突然の怒鳴り声に慌てて扉を閉める。マリアが起きてしまうではないか。ようやく深い眠りについたと言うのに。
「あの楽譜、もしかして王族じゃなくてあなたが用意したの?」
少年はそれには答えないで同じ言葉を繰り返す。
「どうしてあの楽譜を破いた!!!」
先程と同じ怒鳴り声。これでは埒があかない、と思った時。夜の視界を何かが掠めた。いつか見た、魔素の流れのように思えた。そこで、目に魔力を集中して見てみる。
その間も少年が狂ったように同じ言葉を繰り返す。目を凝らしてみる。よくみると、少年の体にはあちらこちらに蜘蛛の糸のようなものが繋がっていた。
(なんかキモいな....。)
直感的にそう思った夜は、一思いに糸を炎を纏わせた指で断ち切った。酷く薄かった糸は呆気なく焼き切れ、その瞬間少年は前に倒れ込んだ。
「なんか見たことあるな...この光景。」
そう呟きながらひとまず少年を中に入れる夜。いつの間にか助けて、という声は消えており、どうやら今は夢の中らしい。
明日の朝まではどうにもできないな、と思い、少年をソファに寝かせる。マリアと見知らぬ少年を同じベッドだなんて、メアリーに知られたらどれだけ怒られることか。
夜は少年に掛け布団を掛けてやり、自分は椅子に座る。本を手に持ち、勉強を始めた。メアリーが来るまであと6時間ほど、夜は子供たちを見守る事にした。
ブクマ増えてた...!嬉しいです!ありがとうございます!!
あとたくさんの方に読んでいただいているようで、感無量です!こんな言葉初めて使いました。




