23 精霊の愛子
風の精霊王は眠るマリアを横目に話し始めた。
「どこから話せば良いのやら。まあ始まりは、創造神フィアナ様が、人間界と天界とに分けた所からだ。我々精霊族はフィアナ様に仕え、人間との橋渡しのような事をしていた。人間の中でも特に魔力を持たない物は、我々精霊の愛子として人間たちの間でも重宝される存在なのだ。」
そのはずなのだ、と精霊王は顔を顰める。
「しかし、どこで捻じ曲がったのか、魔力なしは価値のない人間という価値観が植え付けられていた。気づいた時にはもう手遅れだったのだ。」
「人間は簡単に歴史を忘れて騙されてしまうからね...。」
夜の言葉に精霊王もああ、と頷く。
「そういえば、どうして魔力なしだと精霊の愛子になるの?」
「それは、自身の魔力ではなく、精霊の魔力を使って魔法を扱うからだ。本来なら自身の魔力を使い、精霊と契約を結ぶことで精霊の魔法を使うことができる。人間のいう古代魔法というやつだな。しかし、愛子は精霊ではなく精霊王と無条件に契約が結べるのだ。」
古代魔法という単語に驚き夜はバッと顔を上げた。
「精霊王は自然の力そのものだ。願えば何でも出来る。洪水でも噴火でも、何でもな。」
「いやそれは危険すぎるでしょ。最悪死人が出るよ。」
呆れた顔をして夜は精霊王を見た。精霊王が本気でそう言っているのだ。愛子以外は死んでもいいと思っている。
「まあ、マリアのことはわかった。でも、マリアが自分で物事を考えられる様になるまでは、私が面倒見るから。前と同じように、見守るだけに留めてくれる?」
そう言うと、精霊王が少し思案し、いいだろうと頷いた。
「では、我らの愛子が健やかに育つよう努力せよ、歌姫。それまでは見守ろう。」
「感謝するわ、精霊王。」
その言葉に精霊王は満足気に頷き、何かあれば呼べ、とだけ残して消えた。
マリアと残された夜は1人じっと考えていた。
(古代魔法の謎がひょんなことでわかっちゃった...。おそらく私は精霊と契約を結ぶことで、古代魔法が使えるハズ...。)
眠気が夜を襲ってきた。夜は目をこすりながら、マリアの隣にもぞもぞと入り込んだ。
マリアの可愛らしい寝顔を見ながら、彼女の顔にかかった髪を優しく退ける。
「おやすみマリア、いい夢を。」
そうして夜の深い眠りについた。




