22 精霊王
眠ってしまったマリアを自分のベッドに下ろす。思っていたより強く、夜のことを握っていたようで中々手が外れない。起きないようにそっと手を離し、布団をかけた。
メアリーが心配そうにこちらを見ている。
「ナツメ様....その方は?」
「んー私の妹?」
「まあ!こんなに可愛らしい方が!」
夜は少し驚いてメアリーの方へ振り向いた。今まで小汚いだの何だの言われていたマリアが可愛く見えるらしい。これには夜も強く同意だ。
「そう!!!可愛いでしょ!!まあ血は繋がってないけど。」
「あらあら、お名前は?起きたらお風呂に入れて美味しいご飯も用意しなきゃ。」
「マリアっていうの。何が好きかも分からないし、まずは暖かいスープね。」
「マリア、ですか。それじゃあ愛称はマーシャですね。ナツメ様、とりあえずドレスを脱いでしまいましょうか。」
ドレスを脱ぎ、湯船に浸からせてもらう。ふーと一息吐き、自分の体を見つめる。マリアの傷は治せたはずなので、夜のような傷跡は残っていないだろう。最初は風呂場にまでメアリーが入ってきそうになって焦った。
唯一の救いは背中やお腹ばかり傷跡が多いことだろうか。下着を着れば、見られることはない。
「妹って言っちゃった....雪怒りそう....。」
その頃、元の世界で雪はくしゃみをしていた。龍太郎が風邪か?と心配そうに見つめると、雪はキメ顔をして一言。
「これはお姉ちゃんが噂してるな?残念だったね、龍太郎」
ふふん、とドヤ顔をキメる雪。龍太郎はどこか悔しそうだ。
お風呂で夜がゆっくりしていると、突然目の前に人が現れた。緑のストレートヘアが足元まで伸びている。絡まらないのだろうか。端正に整った顔は、人外離れしている。おそらく人ではない。
「ちょっと、不法侵入なんだけど。お風呂に入ってる時に限って...。殴るよ?」
彼(彼女?)は綺麗な眉を持ち上げ、そこか?とツッコんだ。
「まあいい、私は風の精霊王。我らの愛子を守ってくれて感謝する。」
「うん、話し始めないで?いま上がるから、このままじゃのぼせちゃう。」
そう言うと、さっさと上がってネグリジェに着替える夜。風の精霊王は呆れた顔をしている。
「お前には乙女心がないのか、全く。今回の歌姫はどこかおかしい。」
「おかしいは余計。それで、どうしてマリアが愛子なのに、力のあるあなたは彼女を守らなかったの?」
夜の怒っている雰囲気を感じて、精霊王は困った顔をした。
「....我々精霊は人間界と天界の狭間にいるのだ。人間に求められなければ、人間に干渉することは出来ない。守りたくても守れないのだ、彼女が望まなければ。」
困り顔はいつしか歪み、怒りと悲しみが混じった顔になった。
「そもそも、あのように閉じ込められている事も最近になって知ったのだ。私の眷属が見つけてな、それから彼女を見守るようになった。」
なるほど、どうやら悪役は王1人で事足りるようだ。
「もう少し詳しく教えて、これからマリアを守るためにも。」




