21 マリアの夢
夢を見た。とても綺麗で現実にはない夢。
父親がマリアの頭を優しく撫でて微笑みかける。母親もその様子を楽しそうに見つめている。1番上の兄が絵本を持ってきてくれて、2番目の兄は遊ぼう、と誘ってくれる。姉はそんな2人からマリアを隠し、一緒にお茶しましょう、と笑いかける。
でも、みんなの顔はのっぺらぼうだ。顔を知らないから。一度も見たことのないマリアの家族。マリアは今日も未練がましく夢を見る。愛されたくて、愛したくて。
その時、どこからか歌が聞こえた。一気に現実に引き戻されるマリア。そういえば今日は乳母が来ていない。昨日、お披露目式がどうとか言っていたような...
その歌は初めて聞いた歌で、どこの言語なのか何も分からない。それでも、想いが強く伝わってくる。
自由であれ、好きなことをして、あなたにそれを手折る権利はない、楽しい、踊りたい、嬉しい!
こんなにたくさんの暖かな想いをマリアが初めて受け取った。
「じゆう....?」
初めて聴いた言葉にマリアがぼそっと呟いた。すると、何処からか声が聞こえてきた。
<自由を求めるか、精霊の愛子よ。>
「.....だれ?」
<私は風の精霊王だ。そなたが望むのならどこへだって連れて行こう。>
「....あのうた、」
マリアがそう呟くと、精霊王はああ、と答えた。
<彼女はこの世界に召喚された歌姫だ。彼女に会いたいのか?>
その言葉にマリアが少し思案した。会いたい?そう言う気持ちはいつからか薄れていた。
「....会いたいのかも。」
精霊王はその言葉に嬉しそうに声を弾ませた。
<そうか...!嬉しいな、初めての愛子の願いだ。何でも聞こう。>
そうしてマリアは風の精霊王の手により、初めて外に出た。塔の周りは草花が生い茂っており、初めて見るその姿にマリアは目をキラキラとさせた。
「....すごい!こんなに綺麗な色をしてる!あ、空が遠い!、?これなんだろう」
マリアは初めてみるもの全てに興味津々で、可愛らしいく走り回っている。しかし体力がないのかすぐに足を止めて蹲ってしまった。慌てて精霊王が話しかける。
<どうした、愛子よ!?>
精霊王の心配そうな声にマリアはハッとして顔を上げる。心なしか顔色が悪く見える。
「あのね、きゅうに走ったから、びっくりしちゃったの。ちょっとねたいかも..。」
そう言うマリアはすでに寝かけていた。精霊王は慌てて彼女をベッドの上に運んだ。少女はすぐにすぅと言う寝息を立てて眠ってしまった。
<....すまない、愛子よ。我々は君の願いがなければ動けないのだ。しかし王も何をやっているのだ、魔力がないからとこんな所に閉じ込めおって!>
それから精霊王は優しい風をマリアの元へ送る。
<今はしばしの夢を。我らが愛子に幸せがあらんことを。>
その後、夜会が始まる時間まで寝入ったマリアは、夜に会うため精霊王にまた外に出してもらった。
途中、マリアの様子を見に来た乳母に外に出たことがバレてしまい、追いかけられたが、マリアは無事に夜に会えた。
夜に手を握られながら、マリアは歌声に体を預けた。優しい腕がマリアを抱き上げる。
(まるで夢みたい)
そう思いながら、マリアは眠った。初めて痛みを感じない体を夜にぴったりくっつける。
(夢なら醒めなきゃいいのに)
マリアは次に目を覚したのは2日後のことだった。
次回は夜視点です。
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