20 捨てられた王女と夜
少女は確かに助けを求めている。助けない選択肢などなかった。
「私は、あんたに離せって言ったの。そのくらい子供でも分かるわよ。」
スッと目を細め乳母を見下す夜。これが1番相手を煽れる手っ取り早い方法なのだ。実際、乳母は顔を真っ赤にさせ、唇をわなわなと震わせた。
ふんっと未練がましく少女を見つめながらその手を離した。途端、崩れ落ちる少女。夜は急いで駆け寄り、ある歌を思い出していた。
(前にテレビでみた、傷を治す魔法の歌....。)
少女の体にそっと触れる。痩せ細った体は皮と骨ばかりで、所々には痛々しい傷跡が見られた。
体の痛みがなくなるように、傷がなくなるように、夜は歌った。
金色の光が溢れ、少女を覆う。人々はその幻想的な光景に見惚れていた。夜が歌い終わると、少女は目をぱちくりさせ、自身の体を見やった。
「....いたくない...。」
「奇跡だ。」誰かの呟きは広いホールに小さな雫となって広がった。そこかしこで奇跡だ、と言う声が上がる。
「私は夜っていうの。あなたの名前は?」
夜は優しく微笑み、少女の体を支えるように手を添えた。
「マリアっていうの。わたし、あなたの歌を聞いて初めて外にでたの。あなたに会いたくて。こんな気持ちはじめてで.....どうしたらいいのかな」
少女は拙い言葉で一生懸命言葉を綴る。その間も夜は周りの声に耳を澄ませていた。この少女がどういう存在なのか知ろうとした。
答えは王が知っていた。
ー....あの魔力なしが何故ここに。
なるほどね、そうほとんど聞こえないくらいに呟いた夜の声に少女が顔を上げた。夜は不安気な顔をしているマリアを安心させるようにそっとハグをした。
「だいじょうぶ、大丈夫よ。私があなたのこと守るから。」
「歌姫、彼女はそこの乳母の娘だ。話してやって欲しい。乳母も、彼女を連れて早く立ち去れ。」
王が動いた。乳母はその言葉にハッとして夜を非難がましく見つめる。夜はゆっくりと立ち上がり、マリアの冷たい手を握った。
「嘘はいけませんよ、嘘は。一国の王ともあろうものが、自分の娘を監禁していたなんて知られたら不味いのでしょうけど。」
その言葉にまわりがざわつく。
ーどう言う事だ、我が国には他に姫がいたのか?
ー信じられん、あんなにも汚れているのが姫?
ーそもそも歌姫の言うことは事実なのか。
ー王が黙ったままだ.....まさか真実なのか?
王は驚いたように目を見開き夜を見つめる。王が話せないでいると、王太子アルベールが口を開いた。
「何を言うか.....!私にそんな妹はいない。私には隣に座る弟のイリヤと妹のユリアだけだ。そうですよね、お父様....お父様?」
アルベールの言葉に王は答えられないでいる。その様子を見てアルベールは、夜の言葉が真実であると思ったようだ。
夜はその様子を冷静に観察し、では王よ、と口を開いた。
「私に彼女の保護の許可を願います。見ての通り汚れが酷く、痩せ細っている。このままでは死にます。」
その言葉に王はハッとして重く頷いた。
「では私はこれで。その前に、この様な騒ぎを起こしたお詫びとして最後に一曲、歌わせても宜しいでしょうか?」
先程まで夜に求婚していたラピス国の王子もこれには喜び、会場中の人々が歓喜した。
夜はにこりと微笑むと、伴奏が流れ始めた。楽器が一人でに鳴らしている。その様子に音楽隊が気付き、驚き発狂しかけたが、夜の歌が始まるとすぐに聴き入った。
例により、テレビで見た男女のデュエット。
(あの時、雪がテレビで見て綺麗だってはしゃいでたなぁ)
懐かしく思いながら丁寧に歌う。夜のイメージは魔法となって王宮を包み、そこら中でランタンが舞い上がった。
城下町でもその灯りは見られ、皆がうっとりとしながらその光景に見惚れていた。
私はようやく光をみれた
まるで霧が晴れていくよう
まるで空が新しく見えるよう
そして暖かく、本当に輝いている
まるで世界が変わってしまったみたい
今では全てのものが違うものに見える
あなたといるから
いま私にはあなたしか見えない
英語版のを日本語訳したんですけど、ちょっとおかしいかもです。変だったら教えて下さい。
次回マリア視点です。




