19 貴族の夜会
結論からいうと、午前のお披露目パレードは成功した。夜の突然の奇行は一瞬で塗り替えられ、言わば、夢のような時間を作り上げた。まるで天使のように歌い舞う夜の足元から、優しく暖かな草花が生えていく様はまさに魔法のそれだった。
国民は道の端で見ていたのに対し、貴族や王族の面々は王城にてユルグが映し出したスクリーン越しに見ていた。
貴族たちは幼少の頃からの教育により感じたことをすぐに表情に出すことは少ない。だが、今回の夜の行動には、どの貴族も目を見張り、ある者はその歌に自由を見出し、ある者は夜をものにしたいと望んだ。
そんな貴族たちの思惑が張り巡らされている夜会で、今、夜は隣国ラピス王国の王子に口説かれていた。
「お前の歌はとても素晴らしかった。聞くところによると、アルベール第一王子とは婚約していないそうだな?どうだ、我が国にくれば一生分の富と平穏を約束するぞ?」
それに夜は二ヶ月のうちに鍛えられたご令嬢スマイルで返した。
「私、すでに恋人がおりますので。あなたの国に住むことなんてありえません?」
気持ち良い程の笑顔で一刀両断する夜。笑顔を貼り付けてはいるが、内心すっかり疲弊し切っていた。
それは何も夜だけではない。勇者や剣聖に取り入ろうとする貴族の子女に囲まれ早くも疲労困憊な黒井と白木。
一護も例によって貴族男性に囲まれている。清水は自ら食べ物に囲まれに行っていた。清水の周りは食べ物で覆い尽くされ、本人の姿が見えない程だった。
そんな時、夜はいつかどこかで聞いた声を近くで感じた。
ーあの人に会わなきゃ....!
切羽詰まったその声の主は、すぐに見つかった。
「....おい、何だあれは。小汚い娘が走っているぞ。」
その声を皮切りに周りに動揺が広がる。それもそのはず。この夜会には決していないであろう、薄汚れた服を着た少女が会場を裸足で走っていたからだ。
先ほどまで夜に一刀両断されていたラピス王国の王子もそれに気づき、眉を顰めた。
「なんだ....あれは?この国では貧民が王城に侵入できるのか?」
衛兵が少女を捕まえようと動き出す。すんでのところで、少女は夜の前まで辿り着き勢い余ってぶつかった。
「大丈夫、、!?」
慌てて少女に手を差し出す夜。少女は小さく、ごめんなさいと謝り顔をあげた。その表情は夜のよく知るものだった。全てを諦めたような、光を含まない瞳。
突如として、少女の腕が上がり、体が強引に起こされた。少女の腕を強く握るのは、彼女の乳母。そして近づく衛兵。少女はだらんと体を乳母に預けてしまっている。
夜は密かに息を吐くと、乳母を睨みつけながら言い放った。
「その手を離して、強く握りすぎよ。」
「ほら、さっさと立ちなさい!あなたのお陰で私が歌姫様に怒られてるじゃないの。」
少女は答える気力がないのか何も言わない。しかし、夜にはその心の内がはっきりと聞こえた。
ーたすけて、、私も自由になりたい
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