12 ギブ&テイク
ユルグの体が前のめりになり、目は大きく見開かれる。おやつを目の前に出された犬のようだ。この場合、夜がおやつになるが。
思案しながら夜は口を開いた。
「私が研究に協力したとして、対価は?」
その言葉にユルグは椅子に座り直し、ふむと顎に手を添えた。
「そうだな、古代魔法とは古代の今より発展した文明において使われていたものだ。ただ、文明が滅びると共に古代魔法の文献も失われ今では幻の魔法とも呼ばれている。」
そして、!とまた体を前のめりにするユルグ。
「古代魔法には、神にさえ及ぶ魔法があったと言われているんだ。例えば、新たな生命の生成や死者の蘇生、異世界への転移....とかな。」
夜ははっと息を呑んだ。異世界への転移ができる?ならもう帰れるのでは?さっきもイメージ1つで的がなくなった。
目をキツく瞑り、家を想像しながら強く祈る。
(帰りたい....!)
しかし現実はそう簡単にはいかない。目を開けば目の前には新たな紅茶をビーカーに注いでいるユルグがいた。
「言っただろう?古代魔法には文献がない。正直使い方もわかっていない。現在の魔法はイメージがメインだ。頭の中の想像を魔力に込めることで魔法という現象を起こす。だが、古代魔法はそうではないようだな。」
今ナツメがやったことで俺の仮説が証明できた、と嬉しそうに声を弾ませる。
「私が古代魔法を使おうとしたってなんでわかったの....?」と夜が問うと、ユルグは目を集中させろ、と言った。
「目に魔力を流すイメージで、そう。そんでほれ、今俺が出してる火のまわり、何か見えないか?」
そう言われ、目を凝らしてユルグが浮かべている火の周りを見てみる。火の周りには濃い紫色のオーラのようなものが揺れている。
「なにか...紫のオーラ?みたいのが揺れてる...。」
そういうとユルグはパッと火を消してそれだ!と声を上げた。
「それは、魔素の流れだ。魔素は体内で流れているが、魔法を使う時にはそれが外に漏れる。人によって色は変わるが、色が濃いほど多くの魔力を持っていると言う証になる。さっきナツメが魔法を使おうとしたのも魔素の流れが見えたからだ。ただ....」
そこでユルグは少し言い淀んだ。夜が視線で促すと、ユルグは続けた。
「ただ....出ていた魔素は霧散していた。空間魔法のような抽象的な魔法でも、使うと魔素は使用者の体の周りに留まる。だが、さっきは魔素が出た瞬間に空中に消えて見えなくなった。おそらくこれが古代魔法の鍵になる...」
最後の言葉は夜に向けてと言うより独り言のようだった。
ーそうだとすれば、古代魔法は魔素を使わない.....?いや、他に魔素を留める方法が....。
思考がどこかへ飛んでいく前に彼の最初の質問に答えようと夜は口を開いた。
「ユルグ、あなたの研究に協力する。代わりに、私が元の世界に帰れるように協力して。ギブ&テイクってやつ。」
その言葉に俯いていたユルグは顔をバッとあげ満面の笑みを見せた。
「ギブ&テイク、?だな?!素晴らしい、それで行こう!」
......幻覚だろうか?勢いよく手を握られ上下にブンブンと振るユルグには犬の耳と犬の尻尾が見えた。
ひとまずこれで家に帰るための道は開けた。着実に一歩ずつ進んでいる。
「.......そろそろ手、離してくれない?」
ユルグはハッと我に返りようやく手を離した。




