09 side 龍太郎
夜が突然消えた。眩しい光に包まれた、と思うと一瞬にしてその姿は消え失せた。夜のことしか目に入っていない龍太郎は、目の前のクラスメイトが見えたことには気づいていなかった。
瞬間、嫌な予感と汗が背中を通った。
(まさか、誘拐された....のか?)
あながち間違いではない。召喚という名の誘拐である。
ひとまず龍太郎は、電話をかけることにした。何度も何度も何度もかけるが一向にかかる気配はない。それどころか、・・・・お掛けになった電話は、電波の届かないところにあるかーという流暢な機械音声しか流れてこない。
夜は何も言わずに突然どこかへ去るような真似はしない。それだけは揺るがない事実だ。
(焦ってもしょうがない、そうだ、夜の妹迎えに行こう。)
そう思った矢先、電話がかかってきた。見慣れた表記、夜。急いで電話をとる。ー無事か?そう言おうと口を開くと、夜の声が先に響いた。
「龍!私は無事!弟妹をお願い!!私の口座の暗証番号、龍の誕生日。そこにいくらかお金入ってる!面倒かけるけど、帰ってくるから!家のことお願い!!ごめん!!!!!だいすき!!!!」
ああ、いつだってこの幼馴染は強いのだ。そして人の心配ばかりする、お人好し。自分だってずっと辛い目に遭ってきたのに、それをおくびにもださない。
自分も強くありたい。彼女のように。そして、守りたい。今まで傷ついてきた分もう二度と傷つかないように。
そう言った想いを全て込めて発した。
「待ってる。」
彼女に伝わっただろうか。言葉が足りない、とよく言われる龍太郎に、夜は充分伝わってるよ、といつも言う。これも伝わっていてほしい。
そして龍太郎は保育園のある方向に歩き出す。夜が今まで必死で守ってきたものを今度は自分が守るのだ。
・・・・・・
姉の代わりに彼氏が来たことで、姉の身に何かあったことを悟った妹・雪は顔を歪めた。
龍太郎は事の顛末をありのまま彼女に伝えた。来年小学一年生になる雪は、泣かなかった。夜も龍太郎も嘘をつく人間じゃないことをきちんと知っていたからだ。
ただ、雪はひどく怒っていた。彼女は夜を母として、姉として、良き友人として慕っていたからである。簡潔に言うとシスコンである。もちろん、龍太郎のことも地味に受け入れられていない。
「どうしておねえちゃんといっしょにいたのに!まもれなかったの!」ひどく憤慨する彼女に龍太郎は言い訳もせず、謝った。そして、彼女が帰ってくるまで、自分が雪たちを守る、と。
それを聞いた雪は当然だ、という風に顔を逸らした。同時にそれは涙を見せないためでもあった。
「おねえちゃんが帰ってくるまでうわきしたら、ゆるさないんだから。」雪なりの龍太郎を認める言葉だった。
「俺には夜しかいないよ。一生待つ。」
ゆるさないんだかんね!と繰り返す雪の手を取り家路に着く。
その晩、夜の失踪を聞いた母親は喚き、弟たちは姉ちゃんが来るまで守る!と事実を受け入れた。
翌日、クラスメイト4人の失踪届が出されたが、夜は出されなかった。
夜の視点に戻ります。




