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炎国の騎士と北の夜明け  作者: 紘麻 涼海
第一章 皇太子
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七、罠

 国葬は三日後に迫っている。その直後から城の門は開放され、庭園にて市民の献花も受け付ける。

 アダンは庭園から城のバルコニーを見上げた。当日はあそこから、次期皇帝リューベルトが民に言葉をかける場面もある。

 

 不気味だ、とアダンは思っていた。

 火災から何日も経っているが、ディーゼン帝に牙を剥いた者は、その後これといった動きを見せていない。それが空恐ろしかった。動いていないのではなく、アダンに見えていないだけだったなら……次の牙は一体どこまで迫ってきているのだろうか。本当に次の皇帝リューベルトをも殺害する気なのか。

 未成年の彼には、ディーゼンほどの発言力や影響力はない。もしかしたら危害を加えず即位させて、皇家の権威を低下させる狙いなのかもしれない。

 ……違う。そういう計画だったのだとしても、犯行当日に事態は変わってしまった。

 あの時リューベルトが海の塔に渡ったのは、相手にも想定外の出来事であったに違いない。その者は、犯行を知られてしまったのではないかと、きっと恐れている。

 リューベルトが沈黙しているため、今はまだ様子見をしているのかもしれない。しかし解消されない疑心は、いつ次の犯行を決断させるかわからない。


 迅速に再調査を行いたいが、担当でもなかったアダンが蒸し返すには、根拠が弱すぎた。

 まだ子どもとして見られているリューベルトは、突然両親を失い、数日間部屋に立てこもったことで、実は精神状態を危ぶむ声が多数上がっているのだ。まったく裏取りのない証言をさせてしまえば、いよいよ妄想を口にし始めたと、彼の信用が根こそぎ失われる恐れさえある。

 どんなに小さなものでも、アダンが犯行の痕跡を見つけ出して、リューベルトの証言に真実味を与えてから公にする。それしかあるまい。

 

 まず最初は厨房へ向かい、火災当日にいた者たちを探して質問を繰り返した。料理長たちはアダンの行動を不思議に思っていたようだが、問いには淀みなく答えた。

 総合すると、あの日に何らかの異変を感じた者はいなかった。いつものように、皇帝と皇后の食事は料理長が作った。食材を納めたのもいつもの者だったし、毒見も複数人で見届け、運んだのは皇帝の側仕え。至って普通の日常だったそうだ。 

 御膳を運んだという側仕えにだけは、話を聞くことができない。火災で亡くなったからだ。


 リューベルトにはまだ伝えられていないが、あの日に亡くなったのは、皇帝と皇后だけではないのだ。地上階にいた者のうち三人が死亡している。側仕えと近衛騎士は、皇帝と皇后の救出を試みて、燃え盛る階段に踏み入り亡くなってしまった。もう一人のメイドは、釜戸に火を入れた当人だ。

 命が助かった者も、無事では済んでいない。皇帝の侍従の火傷もひどく、皇后の侍女と近衛は火傷よりも煙の毒性によって、それぞれ数日間昏睡状態になり、命を落としかけた。

 

 ——彼らさえも疑うべきなのか……

 

 毒が仕込まれたのは、食事以外にもうひとつの可能性がある。塔の最上階で皇帝と皇后が嗜んでいたお茶だ。

 二人は昼食後に塔に登ることが多かった。稀にリューベルトやリミカが一緒に行くこともあったが、ほとんどは二人きりで、お茶も皇后自らが最上階で淹れるはずだ。そのため、毒見はされない。

 茶葉か茶器を汚染された可能性はある。むしろアダンは、食事よりこちらを疑がっている。 

 料理長に頼んで、皇后のティーセットを見せてもらった。今の時季が旬の紅茶葉やハーブの入った瓶も、いくつか一緒に並んでいる。

 

「茶葉を選ぶのは皇后陛下か」

「もちろん、そうです。いつも侍女が指定されたものを持って行きました」

 

 では、直前までどれが選ばれるかわからない。被害者でもある侍女が犯人でない限り、すべての瓶に毒を混入するか、複数あるティーポット全部に仕込んでおくしかなかったはずだ。未だに余ったものを処分せず残しているとは思えないが、調べる必要はある。

 夜間の厨房も巡回はされるが、住み込みの人間ならば侵入は不可能ではない。毒を見つけたとしても、誰の仕業か特定するのは困難だが、証言の裏付けにはなる。

 茶葉とティーセットの棚扉に厳重な鍵をかけ、アダンは次の行動に移った。

 生存者たちにも話を聞かなくてはならないが、塔の瓦礫も気にかかる。確認のために、片付けてある場所へ向かった。


 裏庭の隅に積まれた、焦げた臭いを発する瓦礫を見て回った。形を留めないほど壊れているため、それが壁だったのか天井だったのか階段だったのか、どう観察してもわからない。

 ほこり程度で、果たしてここまで炭と化すほどの火災に発展するだろうか。

 アダンは手や服を煤で汚しながら、何かないだろうかと、手がかりになりそうなものを探した。

 

 

 


 

 ――どれくらいの時間、瓦礫を引っ掻き回していたのだろうか。ふと気がついた時には、人影がすぐそこまで近付いてきていた。

 

「何をなさっているのですか。キュベリー卿」

 

 突然声を掛けてきたのは、バレン伯爵だった。一人で黒く汚れている侯爵を見て、さぞ不思議だろうに、微笑さえ浮かべた表情で。

 

「ああ……いや。少々気掛かりを思い出しまして」

「ほう。気掛かりとは、どのような?」

「いえ、些細なことです。人にお話しするほどのことではございませんよ」

 

 そうですか、とバレン伯爵はまた微笑んだ。ゆっくりと、一歩一歩近付いてくる。

 

「あまり奇妙な行動を取られますと、調査を担当したクリーズ伯爵への侮辱となりますぞ」

「難癖をつけているつもりはありませんよ。個人的な些事を解消したいだけです」

 

 アダンはバレン伯爵の動きを注意深く観察した。

 もしも彼が弑逆者なら、アダンはリューベルトの次に邪魔な存在であるはずだ。城の裏庭の隅、他に人はいない今、一対一であるのを好機と捉えているかもしれない。

 バレン伯爵は腰の後ろで手を組んで、瓦礫の周りを歩き始めた。

 アダンのほうを見るともなく、誰が領地から帝都に到着されたとか、あの方とは久しぶりにお会いしましたとか、誰々はそろそろご子息に爵位を譲られるそうですよとか、歩みと同じようにゆっくりと、ほぼ一方的な話を続けている。

 

 ――何をしているんだ?

 

 バレン伯爵とは、個人的な交流はない。

 アダンは、ディーゼン帝が無理を押し通してでも目指した、新しく平和なフェデルマの支持者「新派」の筆頭だ。

 バレン伯爵は、ベネレスト帝以前までのフェデルマの、帝国拡大路線の支持者「旧派」である。

 二人きりで、こんな雑談をする仲ではない。

 アダンが警戒しながら彼の動きを追い、その考えを推察しようとしていた時。

 突如、小さな爆発音が耳に届いた。

 

「――なんだ?」

 

 同じ音は連続して響いた。遥か遠くから、かろうじてここまで届いた、そんな爆発音だ。

 胸騒ぎを覚え、アダンは急ぎ城へ戻った。バレン伯爵もそれに続いた。

 

「キュベリー卿! バレン卿! 大変です!」

 

 アダンたちを見るなり、グーツ子爵が駆け寄ってきた。彼は新派ではないが、旧派でもない。言うなれば中間派だ。

 

「何事ですか? どこかで爆発音がしたようですが」

「それが、港に――」

「どこにいらしたのです、キュベリー卿」

 

 グーツ子爵の言葉を遮って、その後ろから厳しい表情をした男が現れた。ジェブロ伯爵だった。グーツ子爵は慌てて彼に場を譲った。

 

「港が襲われたのです! 交戦中なのですぞ!」

「交戦!? 一体、誰と……!?」

「ザディーノです! ザディーノの船が港に現れたのです! キュベリー卿、あなた様は何を監視されていたのですか!?」

「ザディーノが……港に……!?」

 

 東方の監視から上がっていた最新の報告では、異常なしだったはずだ。

 南東の隣国ザディーノは、フェデルマより新しく、好戦的な国だ。陸の国境を越えようとしてきたことも、海から攻めてきたこともある。

 もう皇帝の崩御を知られていても、それほど不思議ではなかった。だからこそ警戒を強めていたのに、まさかこれほど早く攻め入るための船を準備し、しかも気取られることなくフェデルマの南の海を横切って、一気にこの帝都を落としに来たというのか。

 

「港へ向かいます!」

 

 アダンは、すぐに出陣できる騎士たちをできるだけ集め、馬を駆って帝都を出た。

 フェデルマの帝都は海に近いが、面してはいない。都とは切り離し、物流の拠点としての機能だけに絞った港と作業所が、南方の海岸にある。歩くには少々面倒だが、馬や馬車を使えば遠くない。

 

 幅の広い街道を列を組んで走っていると、先にある建造物群から細い煙がいくつか上がっているのが見えた。悲惨な火災の記憶が新しいアダンや騎士たちは、ギリ、と奥歯を噛み締めた。

 港で働く作業員の姿はどこにもない。避難しているのだろう。

 アダンが波止場まで出ると、大勢の騎士団員が集まっていた。消火作業をしていたようだ。

 大海原には船が数隻浮かんでいるのが見える。もう遥か遠くで、こちらに船尾を向けていた。

 

 ——撤退したのか。良かった……

 

 アダンは少し緊張を解いた。

 か細い煙を上げていたのは、桟橋だった。たくさんある桟橋のいくつかが無残にも破壊されていた。倉庫も一棟黒く変わっているが、もう燃えてはいないようだ。

 剣や魔法による戦闘が行われた様子は、見受けられなかった。船から大砲による砲撃を受けたものの、素早い反撃によって上陸は断念させたようだ。港に備え付けの大砲に、使用した形跡があった。

 

 馬を降りたアダンを、騎士たちの中から歩み出てきたロニー・ルイガン侯爵が出迎えた。

 

「幸いなことに人的被害はございませんでした。港の状況は……ご覧の通りです」

 

 落ち着いて話すロニーの後ろには、クリーズ伯爵や数人の貴族たちがいた。つかつかと進み出てきたクリーズは、アダンを冷ややかな目で睨んでいる。

 

「キュベリー卿。貴殿がザディーノに目を光らせておられたのではなかったのですかな。これは一体どういうことです。ご説明願いたい」

「クリーズ卿」

 

 アダンに詰め寄ろうとするクリーズを、ロニーがやんわりと押し留めた。しかし、クリーズの興奮は収まらない。

 

「私はキュベリー卿の責任を問いますぞ。今だってそうです。ずいぶん遅いご到着ですが、一体どこにおられたのですか」

「……申し訳ございません」

 

 アダンにはそれ以外言えなかった。リューベルトの証言や、塔の火災の不審な点の話を、こんなところで明かすわけにはいかない。まして相手はクリーズだ。

 謝るだけのアダンに追い打ちをかけたのは、後ろから来たバレン伯爵だった。

 

「キュベリー卿は、海の塔の瓦礫を掘り返していらっしゃいました。個人的な些事を解消なさりたいと」

「海の塔の……? 私が調査不足だとでも?」

「いいえ、……そんなことは」

「では、些事とは何です? 本当にあなた様の些細な都合のために、情報は滞り、この港はこんな有様になったとおっしゃるのか」

「クリーズ卿、場所を弁えていただきたい」

 

 ロニーが再びクリーズを止めた。

 周りにいる騎士や作業員たちは、政治を司る者たちの争いに眉をしかめていた。何事か囁き合っている姿も見える。皇帝が崩御したばかりの今、貴族たちの諍いまで見せつけてしまっては、国の揺らぎが大きくなってしまう。

 クリーズは続く言葉を飲み込んだものの、アダンへ向ける視線の刺々しさを隠そうともしない。

 場所を変えましょう、とロニーが提案し、無傷の集会所へ移動した。

 国葬のために、国中の貴族たちが帝都に集まってきている最中だ。今ここにいる貴族は全体の半分以下だが、それでもずいぶんな人数だった。

 

 クリーズとジェブロが、この港の被害はアダンの責任だと、再び主張を始めた。旧派の者たちは二人を支持し、新派の者は、いくら何でも言いがかりだと、アダンを庇った。

 しかし、もともとディーゼン帝がいたから優勢だっただけで、実際は新派のほうが少数派である。ディーゼン帝がいない今、旧派は絶好の機会とばかりに、言い訳をしないアダンを糾弾した。

 中間派は発言を控え、成り行きを眺めていた。彼らの多くは、政権をとるほうに寄る日和見なのだ。ディーゼン帝が崩御したのならば、多数派である旧派に政権が移ると踏んでいるのだろう。自分の利を無視してまでアダンの肩を持とうとはしない。

 

 異様な熱気を帯び始めた集会所は、まるで裁判のような様相を呈した。

 クリーズたちは、司法官を務めている旧派の者を担ぎ出した。即時の判断を強く促された彼は、もっとも責任を負うべきはキュベリー宰相であろうと発言した。

 新派の者たちは愕然とした。 

 もっとも負うべきだとしても、実際に負わされた前例はない。監視を行う国境領家や、海沿いの領主家でも、侵攻を受けた際にそんな責任を問われたことはないのだ。そもそも相手は他国なのだから、動きを読むにも限界がある。

 そんなことを争うよりも、今回の襲撃の意味を読み取ることが重要だ。再び遅れを取らないため、早急な検討と対策が求められる場面のはずである。

 それなのに、この異常な空気のうねりは何なのだ。なぜ敵の次なる行動に注意を払おうとしない。

 はっとしたアダンは、窓を顧みた。南の海に姿を消そうとするザディーノの船影が、まだわずかに見えていた。

 

 そうだ……あの船群は、一体何だったのだ。

 ザディーノはなぜ、遥々この帝都近くまでやってきておきながら、これほどすぐに撤退したのか。

 港の破壊だって、中途半端だ。帝都の物流が大打撃を被るようなものではない。そもそも、敵国の都を叩くのに、たった数隻の船で来るはずがない。

 初めから、すべてがおかしかったのだ。

 

「――あれは、本当にザディーノの船でしたか」

 

 アダンの言葉に、クリーズとジェブロは目を釣り上げた。

 

「もちろんですとも。反論に窮して、そんなことまでお疑いになるのですか、キュベリー卿」

「私には船旗が見えませんでした」

「砲撃を受けたのですぞ。敵国なのは明らかではありませんか」

「ザディーノとは限りません。フェデルマの『敵』であることは明らかかもしれませんが」

 

 怯まぬアダンの強い口調に、クリーズたちは一瞬言葉を詰まらせた。

 

「皆様、どうか落ち着いてください」

 

 黙っていたロニーが口を開いた。

 彼はすべてに平等の立場を取る人間だった。ただし宰相の彼は日和見の中間派ではなく、皇帝と旧派の間を取り持つ緩衝役を担ってきた。

 ロニーは貴族たちの中心でため息をひとつつくと、静かになった部屋にその声を響かせた。

 

「残念です……キュベリー卿。その程度の反論で終わりでしたら、もう判決は下りました。おとなしくご謹慎なされよ」

 

 ロニーは憐れみの表情で、アダンに宣告した。

 ニ公の一人が、もう一人を切った瞬間だった。

 皇帝なき今のこの国で、最高権力者である宰相が、この異例すぎる「裁判」を認める発言をしたのだ。

 新派の者たちは驚き、すぐさま抗議の声を上げた。

 

「ルイガン卿、どうなさったのです!?」

「これが、判決ですと……!?」

「こんなことが、まかり通って良いのですか!?」

 

 ロニーはどれだけ詰め寄られても、落ち着き払っていた。

 

「れっきとした司法官によるご判断です。何の問題がございましょうか」

「ここは法廷ではございません!」

「これだけの貴族の方々が集まっているのですよ。少なくとも公の場と申して差し支えないでしょう」

「しかし、こんな前例を作るのが良いこととは思えません!」

「くどいですぞ」

 

 ロニーの目が、冷徹に光った。

 彼に迫っていた者たちが、ぎくりとして後ずさる。

 

「私だけでなく司法官のご判断を非難なさるのなら、フェデルマの法に楯突くということです。それ相応の覚悟と証拠をご提示いただきましょう」

「ルイガン卿……」

 

 アダンは、やっと気がついた。

 旧派とロニー・ルイガンが、力任せにアダンを潰しにきたのだと。

 ロニーは今まで、ディーゼン帝の理想を否定したことはない。その実現に多大な協力をしてきた。ただ心から賛同しているのかといえば、そういう様子ではなかった。それには気がついていた。

 しかし、自身の考えよりも立場を優先し、感情と切り離して役目に徹することができる、実に上級貴族らしい男なのだと思っていた。アダンが尽力を惜しまなかったのはディーゼン帝を敬愛していたからこそだが、ロニーは皇帝を支え、国造りを推進する宰相という仕事に矜持があるからなのだろうと。

 甚だしい思い違いをしていた。

 彼の父親は、ベネレスト帝がそばに置き続けた、ただ一人の宰相だった。ともに帝国を広げた男だった。ロニーはそれを見ながら育ち、父親が亡くなってからベネレスト帝も亡くなるまでの間、若くして一人で宰相を任されていた男なのだ。

 彼の内面は、紛れもない旧派であったのだ。

 

「ご理解いただけましたかな……キュベリー卿。お家のためにも、司法判断には従うことです」

 

 どう足掻いたとて、この「判決」は覆させない。おとなしく従わないのならば、それも良し。キュベリー家ごと法治国家に対する叛徒として扱ってやろう。これはそういう挑発だ。


 思えば旧派とは「強い」フェデルマを望んでいるのだ。皇帝が亡くなり、連続して皇帝の考えに近い宰相まで不審な死を遂げれば、さすがに民が疑念を抱く。求心力の低下は、国の弱体化に繋がる。フェデルマが弱くなることは避けたいからこそ、アダンの命は奪わず、罪を着せて貴族としての「死」を狙ったのだろう。

 今からあの船群に追いつくことは不可能である。あれがザディーノではなく、誰かの自演だと証明する手立てはない。


 握りしめたアダンの両の拳が、ぶるぶると震える。娘と息子たちの顔が目に浮かんだ。自分のことは良い。しかし妻が遺した子たちは……


 ――リューベルト殿下……申し訳ありません……!

 

 皇帝暗殺の実行者もまた、彼らなのだろうか。あるいはそれは別にいて、彼らは事故と信じていて、新派を叩きのめす機だと思って動いただけなのか。

 それすらも掴めないうちに、落とし穴に落ちてしまった。


 誰かがアダンの肩と腕を掴んだ。まるで罪人を連行するように。

 政界引退と謹慎を言い渡された彼はもう、城に上がることはできない。

 

 ——殿下、ダイル様を頼るのです。御身の安全をお図りください……! 決して、私やエレリアのために動かれませぬよう……!

 

 もうすぐ帝都に到着するであろうダイルならば、確実に信用できる。彼ならばきっと、リューベルトを守ってくれる。

 どうかそれまで——どうか、リューベルトの身に危険が及ばぬよう……アダンにはもはや、祈る以外の手段が許されなかった。

 

 

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