五話
補足した大きな魔物は思った以上に足が速くソールに向かって来た。寝ている姉妹を巻き込まない様に魔導車から離れ距離を取る。
魔導車から少し離れた所で大きな魔物の対峙する。その姿はヘルゲーターに似ていたが小さな山を思わせる程で足や鎌の数も増えムカデに近い姿をしていた。
(保有する魔力もヘルゲーターとは桁違いですし……自分の立ち位置を知る為にもこの強者に会えた事に感謝ですね)
ゲーターが蟻でヘルゲーターが兵隊蟻なら目の前の魔物は女王蟻といった所だった。
鎌や歯をギチギチとならした後に体をバネの様にしならせソールに向かって巨大な大鎌を振る。
その攻撃をソールは自身が持つ前の世界で最高と名高い自作の杖で難なく受け止める……だが体重の軽いソールは簡単に吹き飛ばされ夜空を舞う。
元の世界の様に浮遊できる魔法は使えないので何度か空中で回った後にバランスをとり上手く着地に成功する。
「一度飛べる様になって再度飛べないのは不便で仕方ないですね……」
返事を期待した訳ではないがクイーンに向かってソールが話しかけると返事をする様に甲高い鳴き声をあげる。そして魔力の高まりと供に口元に数個の火球が形成された。
魔導車より少し大きくなった所でソールに向かって火球は放たれる。
異世界の攻撃をまともに食らえば流石のソールもどうなるかは分からないので杖をくるっと一回転させ魔法を唱える。
「マイクロシェード」
ソールの全方位に薄く発光する障壁が展開される。
その障壁に火球が着弾すると燃え上がる事などはせずに少し空間が歪んだ後に火球に籠もった魔力を強制的に中和し無効化する。
防御魔法は他の属性に頼っていたソールは無効化できた事に少しほっとする。
「攻撃関係の弱体化はまだしも、身体強化、防御系統の弱体化は要検討ですね……今の火球もまともに食らえばどうなる事やら」
ならばもう一度喰らって見るかと言わんばかりにソールに向かって何発もの火球が打ち込まれるが全て同じ様にマイクロシェードによって防がれる。
次は私の番だと言わんばかりにソールがヘルゲーター等を簡単に屠ったライトニングを唱える。
暗い夜が明るくなるほどの電撃をクイーンは浴び足が数本吹き飛んだ。だがクイーンはそれががどうしたと言わんばかりにソールに向かって突進する。
体を捻ってひらりと躱しソールはクイーンに話しかける。
「この世界の魔物はけっこう強いですね。今の魔法もかなり魔力を込めましたが……痛覚が無いのか普通に動けていますもんね。ディアナさんとティアさんしか知りませんが貴女を個人で撃破できる人はそう多くは無いとおもいますので……」
貴女を倒したという証拠を残さない程の威力で消滅させて頂きます。と丁寧に女王に頭を下げた後に魔力を更に解放する。
ソールの額にある緋色の魔石には深紅に変わり青い大空に様に青く綺麗な瞳も血のように染まった。
そして放たれた電撃も青色では無く赤黒い雷へと変わったのが女王の瞳に映った最後の景色だった。
◆◆◆
女王が倒れた事が原因だったのか、ソールの魔力に恐れたのかは分からなかったが、それから先は魔物や獣の襲撃は一切なく朝までたき火の前で静かな夜を過ごした。
そしてようやく黒い月の夜が明け太陽がゆっくりと顔を出し始めると気持ち良く寝ている二人の分の朝食の準備をし、これからの自身の課題を纏める。
攻撃魔法による火力は問題はないがそれが封じられた時の対策が現状は身体能力だけと言う事。
魔法による防御も雷属性が封印された場合などは使用できない為、代用を探す必要あり。
空が飛べない。転移出来ない。他属性の魔法が使用不可など問題は本当に多かった。
だが新たに魔術や魔導といった可能性が見えたので、街について生活が整ったらそれを学ぼうと考えた。
自分の進む方向がある程度見えてきた事を喜んだ。
朝食が完成し、寝ている姉妹を起こしにいくと本当に疲れていたようでまだぐっすりと寝ていた。
起こしても良かったがもう少しだけ寝かせておいてあげようと考え、ソールは一人で朝食を食べ始め、知らない世界で食べる故郷の味を楽しんだ。
朝食を食べ終え辺りに襲ってきそうな生物の気配は無かったのでソールは魔術や魔導の事を考える。
この世界には魔法は無く魔術と魔導が発達した世界だと言う事はディアナとの会話で少々分かったが元の世界にもあった魔術と術式を使う所などはよく似ていた。
元の世界では魔術から進化派生し魔法になった歴史があった。魔術は術を書き様々な現象を引き起こすが、戦闘になった時に悠長に術式など書いている暇がないのでそれが詠唱となり魔法となった。
(この世界の魔術も元はかなり似てるんですね……魔法に進化せずにそのまま戦闘に使える様に進化したのでしょうね。ディアナさんも術を書いたというよりは出したという感じでしたし)
石の上に座り拾った棒で地面に魔法の歴史やこの世界でみた魔術や魔導の仮説を書いていく。
(たぶんですが……魔術の方が火力は高いが発動まで少しタイムラグがあり扱いづらくて、魔導は発動までの時間は短いが威力が弱いとかそんな感じでしょう。あと魔導はアイテムと魔力さえあれば誰でも使えるとかそんなのもあるでしょうね)
顔をあげ検証する様にソールはディアナが火を出した時に書いた文字を真似し自身も宙に魔力で同じ様に文字を書く。
魔力で書かれた文字というのは魔眼を通して見ていたので分かっていたが、同じ様に書いただけでは魔術は発動しなかった。
そんな単純な物では無いかと文字を消すとそのタイミングでようやくディアナが起きた様で慌てて荷台から降りてきた。
本当に慌てている様で翻訳できる道具も荷台に忘れた様で通じない言葉を話していた。
「おはようございます。まずは落ち着かないと何を言っているか私には分かりませんよ?」
慌てて頭を上げた後に走って荷台まで戻りがさがさと探して目的の物を見つけもう一度ソールに挨拶をする。
「おはようございます……ソールさんすみません。交代で見張りをすると言っておきながら朝まで寝てしまって……本当にすみません」
何度も頭を下げるディアナにソールは起こすほどの問題は無かったので問題ありませんよと伝えたが昨夜が黒い月で魔物が強くなると言う事を知っているディアナは本当ですか? 聞き返す。
「嘘を言ってどうするんですか……貴女も妹さんも私も無事なのでそれが事実でしょう」
「それはそうなのですが……黒い月ですよ?昔、黒い月の日に街から街から出た事がありましたが……本当にそこら中魔物だらけでしたよ?」
ヘルゲーターの数も明らかに多くその上位種であろう魔物も出てきたが、それを全て無傷で倒したと言う方が確実に嘘くさいので適当に答える。
「誰も倒してないとは一言も言ってないですよ。数匹は出てきたので死闘を繰り広げた後に朝ご飯を作って起きるのを待ってました。ディアナさんも分もあるので良かったどうぞ」
「あっありがとうございます……では無くてですね。いやまぁ……すみません頂きます」
つかみ所の無いソールの性格に振り回されディアナは困惑する。
妹のティアもようやく目覚めた様で姉と同じ様に道具無しで挨拶をしていた。
そして二人の食事が終わった所でソールがディアナに質問する。
「ディアナさんはウォーカー協会で働いているとの事でしたが、ヘルゲーターとかその小型の魔物から出た素材は何処かで買い取ってもらったりするのでしょうか?」
「ヘルゲーターの小型はゲーターとかソルジャーゲーターと言われていますね。斥候がメインで倒せない獲物がいたり餌が大量にいたらヘルゲーターを呼ぶんですよ。素材ですが加工すれば武具になるのでウォーカー協会や武器防具店や商人等が買い取ってくれますね」
ディアナはソールの頭の天辺からつま先まで何度か眺めた後に自分用の装備を作る人も多いですがソールさんには必要無さそうですねと笑った。
「後は……倒せば薬や魔道具の材料になったりする物も多いので薬屋等にも売れたりしますね」
「なるほど」
「交渉が得意であれば直接商人に持って行っても良いですが……買いたたかれる事が多いので持って行く人は少ないですね」
「相手はその手のプロですからね。何処の世界でもそうでしょう」
「後は基本的に魔物を狩ったりする人はウォーカーが多いので討伐報告のついでに協会で売る人がほとんどですね。協会も買い叩く事はしませんしある程度の適正価格で買うので」
「私の様なウォーカーではない旅人も協会で買い取ったりしてもらえるのでしょうか?」
「買い取りますよ。少し手続きとかは面倒な所はありますが買い取りなどもしてます。ウォーカー協会と言えば魔物狩りの専門と考えている人も多いですが、基本的に何でも屋の斡旋所ですからね。ティアもウォーカー見習いですので都市で猫を探したり教会の掃除したりと色々な仕事を受けていますので」
ソールがティアの方を見ると一昨日は頑張って迷い猫を探しました!と自慢げに語った。
休憩も終わりディアナが魔導車を操縦し、ソールが辺りを警戒する。昨日と違うのはティアも起きていたのでソールと同じ様に辺りを警戒する。
ディアナもよく休息を取れた様で魔力の流れのスムーズになっており魔導車の速度も上がり車体も安定していた。
ソールがまた魔術や魔導の事を考えそれに没頭しているとティアが話しかけて来た。
「ソールさんは丘都市についたらウォーカーになるんですか?」
「そもそも他国の人間がなれるのですか?」
「ぜんぜんなれますよー。リーフ族やドワテラ族とかもなってたりしますし、そんな時の為に翻訳の魔道具がありますからね」
また知らない言葉が出たが異世界なんだからそのような物だし見てから考えようと思いウォーカーの事に切り替えた。
「そうですね……必要があればなるかも知れませんが丘都市についてからですね。どんな事をするかも詳しくは知りませんしのでまずは向こうで話を聞いてからだと思います」
「お姉ちゃんが職員さんなので今聞いてもいいと思いますよ?」
「周りに何もいないからと言って気を抜くと痛い目を見ますよ。それに大事な決断をするの時は心身にストレスがかかってない時にしないと駄目です」
「なっなるほど……気をつけます。ソールさんむちゃくちゃ強いですからウォーカーになってもすぐに上位ランクになりそうですね」
「なるほど……どんなランクがあるのか教えてもらえますか?」
良いですよーと返事をしてからティアは左手の人差しを立て右手を腰に当ててから話し始める。
ウォーカーは見習いからはじまり、ブロン・シバル・ゴルディー・ステイル・ミスティス・オルティアの順に並びその並びは金属から来ているとの事だ。
「なるほど。ティアさん的にそのランクの強さってどのような感じでしょうが?ある程度でいいので」
「そうですねー。見習いは私ですが、まぁ一般人が武器持ったぐらいでですね。ブロンは……熊が武器もって鍛えた強さで……シバルは熊が武器持って鍛えて十年修行したぐらいですね」
「ふむふむ」
その話を聞いていたディアナがふむふむではありませんよと呆れていたが気にせず気持ち良くティアは話を続ける。
「ゴルディーは一人相手するのにシバルランクが10熊……じゃなくて十人必要と言われてて、ステイルは百人と聞きました。ミスティスは頭おかしいから近づくなと言う話でオルティアはいるだけで戦場がひっくり返る強さらしいです。ウォーカー長曰く、オルティアクラスの数でその国の強さが決まるとか決まらないとか。あっ!ウォーカー長というのはウォーカー協会のお姉ちゃんの上司さんです」
「私の上司は間違っていませんけれど……ソールさん色々とすみません」
「お姉ちゃん!何であやまるの!?」
そんなやり取りをしていると街道は少し大きくなり分岐する道が現れ、ようやく他の魔導車や荷車を引く人が見え始める。
そして一つ大きな丘を越えるとティアが遠くを指さし大きな声を出す。
「ソールさん!あそこです!あそこが丘都市ブルトンですよ!」




