二話
目を覚まし草原の上を歩くソールは体調も気分も良く鼻歌でも歌いそうな勢いだった。
先程であった者との自分の実力差を考えると良く生きていたな幸運をかみしめていた。
あれほどの者がいる空間の事は気になったが気にした所で何ができると言う訳でもないのでせっかく渡ったこの世界の事を考え行動する。
まずは身体の魔力を流しどこか以上が無いかを確認する。どこにも以上は無かったので手を握ったりその場で少し飛んだり跳ねたりするが身体の調子は本当によくどちらかと言えば身体能力が上がっている様だった。
次は重要な魔法を使えるかどうかを試す事にする。身体を調べる時に魔力を流す事には成功し魔力の存在は確認できたのでアイテムバッグの中から杖を取り出す。
まずは辺りにどれだけの生物がいるかを調べる為に【雷の触覚】という魔法を発動させた。
この魔法は相手に感知できないような微量の電気をドーム状に飛ばし範囲内全てを調べる魔法だ。効果の範囲はソールの魔力に比例し500メートルを優に超える。ただし広げようと思えばもっと広い範囲を調べる事も可能だが正確さも失われるので基本的には100メートル行くか行かないかの距離で使っていた。
感知できる範囲に大きな反応はなく小動物や昆虫がいるだけだった。魔力の方も問題無く普段より回復も早く総量も少々増えており何の問題も無いように思えたが、魔法を試している内に問題が浮かび上がる。
それは雷の魔法以外はまったく使えないという物だった。火や水を発生させる事はもちろん土で弾を作りあげ雷と供に打ち出すレールガンの様に打ち出す魔法。合成、融合、召喚、精霊、空間や転移、身体強化といった物全てが使えなくなっていた。だが自身が元から持っている特殊能力である魔眼は問題無く発動しその状態で周りを見渡すと魔力の流れなどが手に取る様に分かりこの世界にも魔力があると再確認できた。
「ファイヤー・アイスストーム・ダイヤキュート・ばっ……雷系統以外の魔法は本当に出ませんね。困りました」
困ったという割にはその顔は笑っており雷以外の魔法が使えないこの状況を楽しんでいる様だった。
次に試した事はアイテムバッグの中から再度物を取り出す実験をしたがこれは難なく成功し、中に入っている物は全て問題無く取り出せた。
取り出したアイテムの中に友人から貰った剣があったのでそれを手に取り鞘から抜くと透き通るような白い刃のショートソードが現れる。試しにその剣に魔力を流すと問題無く流れ魔法を纏わせる事も問題無かったので魔法使いではあったが腰にその剣を装備し遠くの世界の友人に感謝の念を送った。
「何の変哲もない様な剣に仕立ててくれていますが……元の世界なら売れば王都に一軒家が買えますね。ありがとうございます」
そして最後に自身の左手薬指にはめてあるマジックアイテムの指輪に魔力を流すが……なんの反応も無かった。その事だけは本当に残念だったようで今まで楽しそうだったソールも肩を落とし寂しそうな顔をする。
ただこの草原にずっといる訳にもいかないので杖を地面に立て倒れた方向に向かって歩き始める。
「魔法防御を貼らなくても問題の無い大気ですし進めば何かしらの生物はいるでしょう」
草原を越え緩急のある丘に差し掛かると、人より少し大きな気配の生き物が雷の触角に引っかかる。
その生き物はソールを感知し獲物だと思っている様ですぐに近づいてくる。
(油断している訳ではありませんが……敵では無い可能性もありますね)
体に魔力を張り巡らせいつでも攻撃できる準備をする。
かなり近くまで接近を許した物の姿は昆虫の様な体つきで大きな二本の鎌を構え残りの四本の足で体を支えていた。
明らかにこちらを獲物と考えているようだったが自分が全く知らない世界と言う事もあったので念の為話しかけようとする。
「こんにちは。この辺りが貴方の縄張りで勝手に侵入した事に怒っているのなら謝りま……」
言葉を遮られその大きな鎌が首筋を躊躇無く狙ってきた。
ソールは魔法使いではあったがその身体能力は元より異常に高くこの世界きて更に強化されたのでその攻撃を難なく躱し魔法を唱える。
「ライトニング」
ソールが使える魔法の中では弱い部類に入る魔法だったが光と音と供に杖から電撃が攻撃者に向かって走る。
攻撃者の弱点が雷だったかは分からないが一撃の下に絶命しズズンと音を立ててその場に崩れた。
その倒れた生き物が本当に死んだかを確認する為に近寄ると灰のように崩れ落ちていった。ただ全てが崩れ落ちたと言う訳でもなく地面をさせていた足の一本だけが残った。
「元の世界でも魔族を倒すと今の様な消え方に似た感じで消えましたが……体の一部が残るのは不思議ですね」
その足を拾い叩いたり投げたり魔力を流したり電気を流したり様々な事をしてみたが最終的にどうにもならないゴミになっただけで先ほどの生き物が生き返ったりするような事もなかった。
歩きながら先ほどの魔物の事を考え自分の記憶の中にある物で仮説を組み立てていく。
(ドロップアイテムが一番近いイメージですね……)
などと考えているとまた雷の触角に反応する気配がありそれは先ほどの生き物と同じ物だった。
襲ってきた生き物を倒しその場に残った脚や鎌を回収し進んでいると少しだけ整備された街道の様な場所が見えてくる。
街道と思われる道を進んで行けば何処かに出るだろうと考え襲ってきた生き物の事を考える。
襲ってきた生き物は何種類かおり大きな虫の様な物、熊ぐらいの大きな猫の様な物、爪が発達した狼の様な物などがいた。
その全ての生き物が倒した後に消える訳でもなく狼や猫といった物は倒すと体が残り、虫の様な生き物は消えるには消えるが鎌が残ったり脚が残ったりした。
食糧が少なければ狼のような生き物を食べる事も考えたがその心配は無かったので他の生き物が寄りつかない様に電撃を流しその場で焼却していった。
残った脚には興味があったのでもし話が通じる者があれば教えていただこうとおもい、アイテムバッグに余裕があったので収納する。
(人の足跡っぽいのはありますね……車輪の様な跡もありますが……それを引く足跡がないんですね?)
街道の様な道に残った足跡を調べ、たぶん人がいる事がわかりソールは少し嬉しくなり歩みを速めた。
この世界にはどんな人達が住んでおりどんな生き物がいてどんな魔法の様な物があるのだろうと考えているとかなり遠くから争うような音と女性の叫び声に似た音が聞こえた。
常人には聞こえない様な音で雷の触角の範囲にはいない距離だった。
ソールは魔力を解放し雷の触角の範囲を広げるとようやく声の主であろう者達を見つけた。
人がいた事で嬉しくなったが、見つけた者達は生命の危機のようで先ほどソールが襲われた鎌を持った虫を更に大きくした虫、四匹に囲まれていた。
(これは……速く行かないと全滅しそうですね)
「エレクトロ・アクセル」
体に雷を纏い足に力を込め風を切るように走る。
雷雲を切り取った様なローブをはためかせ、稲妻が走る様に駆け抜ける。
だが目的地まではまだ遠く感知した人、であろう者達は一人また一人と倒れていった。
ようやく肉眼で確認できる距離まで近づくと、もうすでに二人しか残っていなかった。
残った二人も片方は足に大けがをしている様で木の根元に座り込みもう一人はその辺で拾ったような木の棒を構え大きな虫っぽい生き物と敵対していた。
その二人は女性で善人か罪人かは分からなかったが知らない世界で自分の位置を知る為にもソールは助ける事をここに向かった時点で決めていた。
魔眼でその生き物が保有している魔力を調べその強さを見切る。
この世界でも命と魔力は結びついているようで魔力が多いほど生命力が高いのだろうとソールは仮説を立てていた。
目の前にいる四匹の生き物が保有している魔力はこの世界に来てから倒した物より少し多い程度だったので、問題無く倒せると判断し魔法を唱える。
「ライトニング」
生き物の振り上げられた大鎌が彼女たちに届くより先に雷光と供に魔法が直撃しその命を奪い地響きと倒れ……そして音も無くゆっくりと崩れていった。
倒した生き物も他の生き物と似たような物で崩れた後には脚や鎌といった物が残った。
残った素材をアイテムバッグに入れると放心状態になっている二人に話しかける。
「大丈夫ですか?」
話しかけた事で緊張の糸が切れたのか、木の棒を構えていた女性と言うよりも近くで見る思った以上に若く十三~十五歳ぐらいの年齢に見えた。
少女は思い出したの様に立ち上がり何か同じ言葉を何度か話した後に振り返り脚に怪我をしている女性に何度も話しかける。
(言葉が通じないという感じですね……聞き取れないならこちらの言葉も通じないでしょう。他の魔法が使えれば何とかできますが……仕方ありませんね)
その動作にどういう意味があったか分からないが少し困った顔をした後に左手薬指にある指輪をトントンと指で叩いた。
足に怪我を負った女性も立ち上がって何かを言おうとしていたが、怪我の深さは思った以上に深く骨も切断されている様だった。
女の子が慌てながら服を破り止血をしようとするが血はなかなか止まらず女性の顔は青くなっていた。
(いつかは試さないとダメですし目の前の人達はたぶん人間だと思うので試してみますか……消費期限は大丈夫なんでしょうか?)
ソールはアイテムバッグのゴソゴソと漁り元の世界ではハイポーションと呼ばれた回復薬を取り出す。
ただ本人が心配していた様にその回復薬は何年も前の物だった。自身が回復魔法を使えたありそもそもソールに怪我をさせられる者がほとんど元の世界にいなかったと言うのもありアイテムバッグ入れて塩漬け状態になっていた。
その塩漬け状態になったハイポーションを取り出し綺麗なガラスでできた蓋をとり女性の足の怪我に振りかける。
少女も女性もソールが何を振りかけたかは分かっていなかったが静かに見つめた。
ハイポーションがかかった傷口はゆっくりと光りはじめる。そして聞き慣れない音と供に骨がつながり、ゆっくりと傷口が盛り上がり元から無かったかの様に塞がった。
女性は立ち上がり丁寧に頭をさげ何かを言っているがソールは何いっているか分からないとジェスチャーで伝える。
その女性は少し考える仕草をした後に壊れた荷台へと向かおうとするが、少し落ち着きはじめ辺りの凄惨な光景をみた少女が目を回しその場で気を失った。
ソールが倒れる少女を抱き抱えたので怪我をする事などは無かった。
女性が木の幹を指さしたのでソールは頷いてからその少女をゆっくりと座らせる。そしてソールに少し待ってくれという様な動きをした後に壊れた荷台に向かい何かを探し始めた。
ようやく何かを見つけた様でその手に収まるドーナツ型の宝石の様な物を持っていた。
その穴をソールの方に向けて声が穴を通る様に話す。
「私の声が聞こえていますか?」




