1.ある国
初めての4000文字超えの作品です。
暖かく見守って頂けると嬉しいです、よろしくお願いします!
「残業続き、はぁ〜〜! もうエナジードリンクも1箱目飲みきりそう……」
宮下墨。
そこそこ良い医療大学に進学し、医者を目指し勉強したが試験の難しさに挫折し
今は普通の会社で働いている彼氏ナシ29歳のOLである。
今、宮下墨は残業続きで会社泊まりしている。
上司に資料の提出を急に来週の月曜日にされ、先輩にやっといてと言われた資料も山積みだ。
カレンダーのバツ印は来週の月曜日に迫って来ている。今日は土曜日である。
私以外の人は居ない、皆休日に彼氏や彼女といちゃついてんのか?……このリア充め。
「エナジードリンク飲もうかなって……っあ」
開けたエナジードリンクの缶は倒れ床に転がり、タイルカーペットの床を濡らす。
「……はぁ〜〜、最悪、こぼしたし」
シミになると面倒だ、と雑巾を取りに行く為に立ち上がると視界の幅がどんどん狭まる。
歩こうとしても左に行ってしまう……この残業で私も流石に疲れているよな。
1回椅子で休憩しよう、ゆっくりと後ろ歩きで自分のオフィスチェアに向かう。
座ろうとした瞬間、ふらっと前に倒れていく。私は濡れたタイルカーペットに倒れ込んだ。
〜〜〜〜〜〜
「っは!? いかんいかん、仕事せねば!」
次に目が覚めると、私は普通に立っていたのだ。
それはまあ良い……それより私は何で中世っぽい街にいるのだろうか。
私は確か会社で残業して、倒れたはずだ。
周りを見渡すとファンタジーな人々が歩いている。
角が生えた物、羽根が生えた者、髪色が派手な者、火の玉を浮かしている人……
「私はやはり疲れているのだ」と頬を叩くが普通に痛い。
私は本当にこの街に来たのだろうか、そうだスマホ。
奮発して買った三眼レフのスマホを取りだす……生憎黒い画面のまま、充電切れだ。
本当に此処は何処なんだろうか。 果物屋だろう店に近づき、おばさんに尋ねる。
「あのぉ……すみません、一体此処は何処なんでしょうか?」
「旅行客かい? 国はポルカル、この街はポルカルの中心部だよ!」
国には詳しいはずだがポルカルなんて知らない。後日本語を他に使ってる国は無い。
とりあえずお腹が空いたし、林檎でも買うか……
「ありがとうおばさん、林檎頂戴」
「はい、110コインだよ!」
私は円しか持っていない……だが仕方がない、ある手段を宮下墨は使う。
私は財布から特別綺麗で取っていた10円玉をおばさんに見せつけ、こう放つ。
「おばさん、このコイン知ってる?」
「なんだいそれ、知らないコインだねぇ」
「これ、超超高い価値が着くんだけど……このコインしか持ち合わせてなくて、これでいい?」
「えっ……逆にいいのかい? ほら、1個サービス! ありがとね!」
……そう、10円玉が存在しないこの国でこう話せば得なのである!
まあ買取屋とか売ったら何円の価値が着くかは知らないが。
周りを見渡すと、何かの施設に繋がる階段があったのでそこに座り、林檎を頬張る。
シャリシャリ、と音を立てる林檎を食べながら私はふと思った。
私は転移したのではないか。
それなら辻褄が合うのだ。
倒れて、起きたら異世界!! ……まるでファンタジー小説の1シーンだ。
まあ、それならこの世界の事を色々調べて元の世界に戻る方法を探さなっ……
背中から誰かに蹴られ、私は背中から大きく階段から転落した。
「汚らしいお前の姿で敷地に足を踏み入れるな、愚民め。 次は剣で斬り掛かるぞ」
美形で王族の服装をした少年がそう放つ。
……顔は良いが、階段から突き落とすのは無いだろう!? そう思い反論する。
「お前が誰だか知らないが階段から突き落とすのは無いだろう! 少年!」
美形の彼に指を指す。瞬間少年は私の前に現れ、首の横すれすれで剣を持っている。
一歩間違えれば首を刺され死んでいただろう。
「この国の王にその口の利き方は何様であろう、名を名乗れ!」
「国の王ってまじ……?」
国の王になんて口を聞いてしまったんだろうか。
私の異世界転移キラキラライフが始まる流れだったのに……
私はボロボロの身体で立ち上がり、あの選択を選んだ……そう逃げるだ。
足に力を入れ、私はクラウチングスタートのポーズをしてスタートした。
実にこんなに全力走るのは16歳、13年振りかもしれない。
「早っ!? 待て! ……愚民共、彼奴を追え!」
大量の街の住民から追いかけられるが、逃げる。 それだけ考えると風の様な勢いで走れるのだ。
もしや「逃げる」これが私の能力か……?いや、 だっせー……
ードン……
痛ぇ……と言う声が出て、私は木にぶつかり止まった。
住民達は……追ってきていないな。
どうやら私は森まで走ってきた様だ。
街の終わりが見えないくらい広い街だったが、結構先まで走ってきたみたいだ。
「とりあえず、前に進むしかないよな……」
もう日が暮れてきた、夜になればファンタジー王道なら森にはモンスターが湧くはずだ。
流石に食われたり負けたりして人生終了は避けたいが……
結構進むと蛍で周りが照らされ、森の開けた場所に家があった。
家の前には畑があり、そこで作業している女の子が居た。
傷だらけで体力も消耗されていて、正直限界である。この子に頼ろう。
「あの、近くに宿屋とかはありません……でしょうか」
「此処は深い森ですからありませっ……て傷だらけじゃないですか!」
女の子が私に近寄り、花柄のハンカチで傷口を拭う。
「傷だらけで……汚れてるし、服は切れてますし……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよ」と言わんばかりに彼女の肩に倒れ込む。
「……大丈夫じゃないですよね! 肩貸します、家まで頑張って!」
彼女の肩を貸され、私はゆっくり一歩づつ歩きながら彼女の家の中へ入る。
暖かく、木の匂いがする家だ。 私が1人で虚しいマンションの一室とは大違いだ。
少女はゆっくり私を玄関へと下ろし、私を玄関に寝転ばせてくれた。
足音が近づき、私の元へ来たのは先程の少女とおじいさんだった。
「こんな姿で良く頑張りました……手当しますので、どうぞ此方へ」
少し寝転び休めた私は立ち上がり、2階のおじいさんの部屋に案内される。
座布団の上に正座で座るが、足も痛い為正直地獄だ。
「……では、リラックスして下さいね、リカバリー!」
私は水色の光に包まれ全身の傷が埋まり、疲労感が無くなっていく。
おじいさんは回復魔法だろうか、かっけー……
「……凄いですね、ありがとうございます!」
「回復出来て良かったです、ボロボロな服は孫が採寸して作ってくれると、
それでは、今日は泊まっていってくださいな」
何処まで尽くしてくれるんだ。
優しい家族に少々泣きそうになりながらも、おじいさんに着いていった。
「あっ! 大丈夫でしたか? ゴブリンスープです、どうぞ!」
シチュー見たいな見た目のスープだ。
ゴブリン……美味しいのかこれ?
「いただきます……!」
木製のスプーンでゴブリンスープを口に運ぶ。
……美味い、シチューに更に旨味が足された味だ。
「……美味しかったです、ご馳走様でした!」
「お口に会い、良かったです! 2階に私の部屋があるのでそこでゆっくりしていてくださいね!
部屋は1室しかないので多分迷わないかと思います!」
「ありがとう、ではお先に失礼します」
2階に駆け上がり、部屋を開ける。
やはり中世っぽい部屋だな。
私は床に座り窓を眺める。 夜空は満点の星空だ。
「今日は濃い一日だった……」
手を組み上に伸ばす。
ーガチャ……
「お待たせしました! パジャマと私服です!」
「あれ、採寸してないのに……?」
「私、裁縫が能力なんです! 見た事がある人の服は作れるんです!」
裁縫が能力、私の家庭科の単位は1。正直羨ましい。
私は作って貰ったパジャマに着替える。
着心地が最高に良い。 大人の私より裁縫が上手いな……
「あ、クローゼットの中にもう一個寝床があるのでそこにどうぞ! お休みなさい!」
「お、お休みなさい」
クローゼットに寝床がある……すごい家だな。
クローゼットを勢い良く開けると、広い部屋が広がり、ベッドと本が壁中に並べられていた。
クローゼットの扉を閉め、ベッドに横になる。
明日はいい日になるだろうか……
〜〜〜〜〜〜
朝の寒さに目が覚める。
眠たい目を擦り、クローゼットの扉を開けると彼女が居ない。
まさかこんな早い時間から朝食を?
クローゼットの取っ手ににかけられている私服を着て、1階に降りる。
机にはゴブリンのスープとサラダが並べられ、1枚の手紙が添えられていた。
【「私とおじいちゃんはゴブリン狩りに出ます、朝食です。 頂いてください。」】
日本語で書かれてる……字も同じなのか。
てか、朝食何て作ってくれなくていいのに……どれだけ優しさの塊なんだ……
「いただきます。」
ゴブリンのスープを口に運び、サラダを美味しく頂く。
「にしてもこの服、剣が入るポケットがある……」
もしかして戦う人とでも思っただろうか。 違う、私の能力は逃げるだ……
戦えもしないし、ただ逃げるだけ……最弱スキルだなこれ。
「ご馳走様でした」
私は深い森の奥を出て、違う場所でのんびりキラキラなスローライフを送りながら
元の世界に戻る方法を調べたいのだ。
この街にいたら美形王子に捕まってしまうから、ひっそり身を隠して生活しよう。
そうしよう。
書いた後直ぐに出たのかペンが置いたままなので裏にこう書いた。
【「朝食ありがとう。 私はスローライフを送りたいので旅に出ます。
服ありがとうございました、そしてさようなら。」】
意外とかっこいい文が書けたと思う。
私は立ち上がり、OL特有のヒールを履き旅に出かけた。
ご覧頂きありがとうございました!