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第9話 幼なじみのお姉ちゃん先生

「黒田君は私にどれだけ迷惑かけたら気がすむの? その髪型とピアスは校則違反だって何度も言ってるよね?」


 放課後、俺は担任の白石さゆりに教室でグチグチと説教されていた。


「いや、さゆり姉ちゃん……」


 俺が弁明しようとすると、口を手で塞がれた。


「もがっ!」

「シーッ! 学校でさゆり姉ちゃんって呼ぶなって何度も言ってるでしょ!?」


 俺と白石さゆりは幼なじみである。そのことは学校では秘密だ。さゆり姉ちゃんによると、バレたら変な誤解を生むかららしい。俺は考えすぎだと思う。


「はいはい。ごめんなさいね」

「誠意が全く感じられない! はあ……昔は素直でかわいかったのに」


 さゆり姉ちゃんは遠くを見つめた。


「過去にすがる女はモテないよ」

「うるっさいな! とにかく、ちゃんと校則は守りないさい! そうじゃないと……」

「そうじゃないと?」


 真剣な眼差しを俺に向けるさゆり姉ちゃんは堂々とこう言った。


「私の担任としての評価が下がるでしょ!」


 さゆり姉ちゃんは主張するようにバンバンと机を激しく叩いた。俺はガクッと倒れそうになる。


 全くこの人は……。


「結局、自分のためかよ」

「決まってるでしょ。評価はボーナスにも影響するんだから」

「はあ、嫌だね。これだから自分のことしか考えてない大人は。というか姉ちゃんも人のこと言えないくらい昔と変わったじゃん」


 昔はもっと素直に尊敬できるような人だった気がする。


「あのね教師は勉強だけじゃなくて、サービス残業も多いの。お金くらいきっちりもらわないとやってられないわよ……」


 さゆり姉ちゃんは床を見つめ、「ふふふ……」と不気味に笑った。死んだ魚のような目をしていたので、相当激務なのだろう。


「じゃあ、私仕事に戻るわ。明日こそちゃんとした服装してきてよね」

「へいへい」


 さゆり姉ちゃんは立ち上がり、教室から出て行こうとしたが、ドアのところで立ち止まった。


「あ、そうだ。ねえ、セイちゃん」


 俺の方を振り返り、じっとこちらを見つめた。


「何? またお説教?」

 

 俺がげんなりとした表情を向けると、さゆり姉ちゃんは首を振る。


「違うわよ。たまにはコウちゃんに会いに行ってほしいなって思って」


 俺は一呼吸置いて答える。


「……気が向いたらね」

「うん……わかった。じゃあ、また明日」


 さゆり姉ちゃんは教室から出て行った。少し寂しげな表情をしていたように見えたのは気のせいだろうか。


「話は聞かせてもらいましたよ」


 気がつくと、セーラが俺の横に立っていた。こいつ、いつのまに。


「帰ったんじゃなかったのか?」

「ずっと君と先生の様子を観察してました」


 なぜかドヤ顔のセーラ。


「ストーカーかよ」


 セーラは不服そうに口を尖らせた。


「失礼ですね。君と先生の仲が怪しいと思って、あえて観察をしていたんですよ」

「怪しいって……ただの幼馴染だよ」

「ほう。ただの、ですか」


 セーラは怪しむようにじいーっと俺の顔を覗き込んだ。


「な、なんだよ」

「いえ、別に。君がただの幼馴染というなら今はそういうことにしておきましょう。そんなことよりっ!」


 ニコッと笑顔を向けてきたセーラに、俺は嫌な予感がした。


「私、お願い事があるんです! 漫画を作りましょう!」

「唐突だな。というかなんで漫画?」

「それは、アランのためです!」


 キリッとした表情をしたセーラに、俺は首を傾げた。


「アラン? 誰だよ」


 そう聞いた瞬間、セーラの目がキラキラと輝き始めた。


「神漫画、スターフィッシュのアランです! ほら、昨日DVD観たでしょ?」

「……ああ、あれか」


 戦うために育てられた少年たちの物語だっけ?


「ダブル主人公のエドガーとアラン。愛を知らないアランは心優しいエドガーと過ごすうちに癒されていく。しかし……」


 セーラは苦しそうに胸を押さえた。


「過酷な運命から逃れらず、アランは最終回でエドガーをかばって死んでしまう! 悲しかったですよね!? ねっ!?」


 ぐいっと顔を俺に近づけるセーラに、俺はのけぞった。


「近い! 近い! てか、圧が強い!」

「ああ、すみません。思わず熱くなってしまいました」


 セーラはコホンと咳払いをした。


「私はアランの死を受け入れようとしたんです。でも、やっぱりアランには生きて幸せになってほしかったという思いは消えないんです……」


 両手を合わせて祈るようなポーズをとるセーラ。


「これは成仏できない理由だと思うんです! だから二人のハッピーエンドの漫画を作りたいって……って、どこに行こうとしているんですか!」

 

 俺はこっそり教室から出ようとしていたのだが、セーラに見つかってしまった。


「いや、ちょっとトイレに行こうと思って」

「そんなの後にしてください。これからの漫画作りの方針を話している最中なんですから」

「俺はやらないぞ」


 セーラは俺をジロリと睨みつけた。


「そんな態度とっていいんですか? 君は今、私に生かされているのに」

「なっ……!」

 

 こいつ今そのことを言うか!?


「憑依すれば私はいつでも君を殺せるんですよ」


 勝ち誇ったように微笑むセーラ。


「ぐっ……」


 セーラにカッターナイフを首元に刺されたことを思い出した。 


 そうだ。この幽霊は自分のためなら俺を殺そうとする奴だ。言うことを聞かないと何をするかわからない。


「そもそも俺は漫画なんて描けないぞ」


 ぐっと親指を立てるセーラ。


「大丈夫、大丈夫〜」

「なんだその根拠のない大丈夫は」


 俺が呆れ顔を向けると、セーラは自信満々な顔で自分の胸をドンッと叩いた。


「ストーリーは私が! イラストは描ける人を見つければいいんですよ」

「簡単に見つかる訳ないだろ」  

「探してみないとわからないでしょ? やる前に諦めないでくださいよ」

「……お前な」


 俺はため息を吐いた。どうしてこいつはこんなにも楽観的なんだろう。世界は自分を中心に回っているとでも思っているのか。


「早速ですが、学校を案内してくれませんか?」

「なんで?」


 セーラはワクワクとした表情をしていた。


「漫画の内容は高校生に生まれ変わったエドガーとアランのオマージュ作品にしたいんです。だから学校のことをよく知っておきたくて!」

「わざわざ見なくても想像で書けないのかよ」


 面倒くさがる俺に、セーラは左右にブンブンと首を振る。


「だめです! 実際に見た方が想像も膨らむと思うんです! ほら、早く、早く! 日が暮れちゃいますよ!」

「はあ……面倒くさい」


 俺はセーラの勢いに押されて、しぶしぶ学校を案内することになった。


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