第6話 おうちでDVD鑑賞、もちろん美少年もの
朝食を食べ終えた俺は、自分の部屋に戻り、棚に並べてあるDVDを手に取った。
「映画観るんですか?」
「まあな。悪いかよ」
俺は映画好きで、休日はDVDを観ることが多かった。
「いえいえ、とてもいいご趣味だと思いますよ〜」
ニヤッと笑う少女。
何だその怪しい笑みは。
「何を企んでる?」
俺はジト目で少女を見やる。
「嫌だなあ〜、ただ私はおすすめのDVDを君と一緒に観たいだけですよ。これなんですけどね」
少女は一つのDVDケースを指差した。DVDケースには「スターフィッシュ」と書かれていて、軍服に身を包んだ二人の少年が写っている。
「絶対に嫌だ」
「この物語はですね……」
俺を無視して、少女はキラキラとした表情でスターフィッシュの説明を始めた。
「戦うために育てられた少年たちの物語です。原作は漫画なんですけど、舞台化されたんですよ。私、ずっと観たくて、ついにDVDを借りちゃいました! って、人の話聞いてます?」
「見ないって言ってるだろうが。それにどうせ美少年ものだろ」
なんで俺がこの女の趣味に付き合わないといけないんだ。
「そんなこと言わずに一緒に観ましょうよ! 食わず嫌いは損ですよ!」
少女は俺に顔を近づけ、鼻息を荒くして言った。
「絶対面白いですから! ね〜え〜……ちょっと! 人の話聞いてます!? これは観ないと一生、後悔しますよ!」
執拗にDVDを勧めてくる少女。あまりにもしつこいので、堪忍袋の緒がブチ切れた。
「いい加減にしろ! お前の趣味を俺に押し付けるな!」
「……そうですか」
少女は落ち込んだようにトボトボと部屋の隅に座りこんだ。これでようやく静かになった。そう思い、DVD探しを再開しようとしたとき、
「……殺す」
ゾクリとする少女の冷たい声に、背筋が寒くなる。振り返ると、少女は無表情で床の一点を眺めていた。そして、次の瞬間、
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
ぶつぶつと呟く少女。そのおどろおどろしい雰囲気に、俺は身の危険を感じた。
「やめろ! シンプルに怖いわ!」
「……」
少女は不満げにジーッと俺を見つめた。
こ、この女……。
俺はくしゃくしゃと頭をかいた。
「あ〜もうわかったよ! 一緒に見てやるからその目をやめろ!」
俺がそう言うと、少女はぱあっと笑顔になった。さっきまでの怨霊のような雰囲気が嘘みたいだ。
「本当ですか!? やっぱり君は優しいですね♡」
俺は冷たい声でボソリと言う。
「脅したくせによく言うよ」
すると、少女はグッと親指を立てた。
「絶対、君も気に入りますよ! 楽しみにしててください」
「あー、はいはい」
俺は渋々、少女とDVDを観始めた。
数時間後。
「うっ、うう……」
DVDを観終わった俺は涙が止まらなかった。まさかこんなに感動する話だったとは……。いい意味で裏切られた。
「よかったでしょ!? ねっ、ねっ!」
目の前には少女の自慢げの顔。
腹が立つが、いい作品だったのは違いない。
「……よかった。仲間を失う辛さや美しい友情が心に刺さる」
「おお! わかってますね!」
少女は嬉しそうにパチパチと拍手した。
「役者も顔だけじゃなくて、それぞれの演技力が作品の質を高めてる。演出だって……」
「ふふふ」
少女が笑い出し、俺はハッとした。何を真剣に語っているんだ。これではこのオタク少女と同じじゃないか。
「なっ、何笑ってるんだよ! 馬鹿にしてるのか!?」
照れくささを隠すように大声を上げると、
「馬鹿になんてしてませんよ。ただ、本当に君は芝居が好きなんだなと思って。この部屋の棚だって、ドラマや映画のDVDでいっぱいですし」
少女が今までになく真剣に言ったので、俺はたじろいだ。
「べ、別に誰だってドラマや映画を楽しむだろ」
「……そうですね。君の言う通りです」
何かを思い出しているように、少女は目を瞑った。
「そうだ! 次は君のおすすめを見せてくださいよ! あと、美少年が出てくるものでお願いします!」
少女はもういつもの表情に戻っていた。
何なんだ。さっきの顔は。調子が狂う。
「わかった。人がたくさん死ぬやつにする」
「ちょ、怖いのはやめてくださいよ!」
そうして俺の休日はいつもより賑やかに過ぎていった。
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