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第23話 新たなわがまま

 放課後。

 視聴覚室に俺(に憑依しているセーラ)、水野、桃瀬が集まっていた。


「遂に、完成しました!」


 セーラは漫画が描かれた原稿用紙を掲げた。


「ああ……先生たちの共同作を見られるなんて夢みたい」


 うっとりとした表情で原稿用紙を見つめるセーラを、俺は複雑な感情で眺めていた。傍からみたら気持ち悪い。


「感謝しなさいよね、黒田」


 いつも通りツンな水野に、セーラは頭を下げた。


「はい! 本当にありがとうございました! しめさば先生!」

「だから! ペンネームで呼ぶなって言ってるでしょ!」


 お決まりのツッコミを入れる水野。


「ダーリン、うちも褒めて♡」


 桃瀬はジーッと期待を込めた目で俺を見つめている。

 

「ピーチ先生もありがとうございました! アランの儚げかな顔やエドガーの優しい表情最高でした!」

「えへへ、そう? じゃあ、ご褒美にチューして♡」


 目を閉じた桃瀬に、水野がお得意のアイアンクローをかました。


「ぐはあぁっ!」


 叫び声を上げた桃瀬に、俺は同情の眼差しを向けた。あれ痛いんだよな。


「もう! 何するの! 水野っち!」


 涙目の桃瀬を水野はビシッと指差した。


「桃瀬さん、ここは学校なの。不純異性行為は禁止よ!」

「そんなこと言ってさ、実は水野っち、チューが羨ましいだけじゃないの?」


 桃瀬がじろりと水野を睨むと、


「そ、そんな訳ないでしょ!」


 そう言って、水野は桃瀬に再びアイアンクロー。


 「ぐわあぁーー!」と桃瀬の悲痛な叫び声が響く。


 そんな二人のやりとりを尻目に、俺は晴れやかな気持ちだった。


 これでようやくセーラから解放される!


 そう思うと同時にチクリと胸が痛んだ。


 ん? 何だ今のは。

 

 



 一ヶ月後。


「……おい」

「……」


 俺の部屋でアニメを観ているセーラは夢中になっているのか反応がなかった。


 俺がテレビ前まで行き、仁王立ちすると、セーラがようやく反応した。


「うがあ! 今いいところなのに! どいてください!」


 唸り声を上げるセーラを無視して俺は続ける。


「漫画を完成させたらお前、成仏するって言っただろ。それなのに……何で今も普通にうちにいるんだ!」


 セーラは首を傾げた。


「そう言えばそうですね。何で私、成仏しないんですか?」

「俺に聞くな!」

「うーーん、漫画作りは確かに萌えましたが、あるものが足りなかったんです」  


 深刻そうな顔をして人差し指を立てるセーラ。


「足りない?」

「それは……声です!」

「は?」


 あんぐりと口を開ける俺。またセーラが訳のわからないことを言い始めた。


「私最近、漫画動画にハマっていまして、だんだん見ているうちに、自分でも作りたくなったんですよ」


 生き生きと語るセーラに、俺は眉間を寄せた。


「まさかこの前完成した漫画を動画にしたいのか?」

「よくわかりましたね!」


 一点の曇りもない笑顔で新たな注文をしてきたセーラに、うんざりとした。


「また人探しか……。声を当ててくれる奴なんて見つかるのか?」

「いえ、それは君にお願いしたい」


 セーラは俺を指差した。こいつはどこまで無茶振りをかましたら気が済むんだ。


「俺には無理だ。芝居なんてやったことなんてない」


 俺がセーラから顔を背けると、


「白石誠太郎」


 その名前を呼ばれ、俺はハッとしてセーラに顔を向けた。


「この名前、君が子役時代使っていた芸名ですよね?」


 俺はちっと舌打ちをした。


「俺のこと知ってたんだな」

「はい。純粋無垢なイメージだったので、今の君を見てびっくりしましたけど」


 セーラは肩をすくめた。


「期待を裏切って悪かったな。俺はもう芸能界は引退した。だから芝居はしない」

「なぜ引退したんですか? あんなに活躍していたのに。ファンだってきっとあなたの演技をもう一度みたいはずです」

「ファン? あはははは!」


 俺が狂ったように笑うと、セーラは訝しげな表情を向けた。


「何がおかしいんですか?」

「おかしいよ。俺はファンに裏切られたんだから。ああ……本当におかしい」


 俺はひとしきり笑った後、セーラに顔を向けて、吐き捨てるように言った。


「俺はファンなんて大っ嫌いだ」

「……」


 セーラは一瞬、苦しげに顔を歪めように見えたが、すぐに元の表情に戻り、話を続けた。


「裏切られたというのは、あの事件のことを言っているんですか? お兄さんが君のファンに刺された……」

「黙れよ」


 俺はセーラの言葉を遮り、ギロリと睨みつけた。


「……何なんだお前は」


 こいつは本当にイラつく。何から何まで。


「いきなり現れて、俺にアニメを見せたり、漫画作らせたり。次は俺の過去でも暴きたいのか?」

「いや、私は……」

「俺のことはほっといてくれよ」


 俺は大きなため息を吐いた。もうこいつのわがままに振り回されるのは疲れた。


「……わかりました」


 そう言って、セーラは俺の前から姿を消した。普段のセーラからは考えられないほど、素直な態度だった。


「……はあ」


 俺はベッドに倒れ込むように体を沈めた。


 あの日からどれだけ願っただろう。全て夢だったらよかったのにと。

 

 

 

 


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