第22話 仲直りしたけど……
「はあ、かわいい」
セーラは美少年が描かれたコースターを眺めている。俺はその様子を見ながらコーヒーをすすった。
「なんでそんなものが欲しいのかね」
俺とセーラは前に桃瀬と来たカフェに来ていた。セーラがこのカフェでコラボしているアニメ 「美少年戦隊」のコースターが欲しいと言い出したからだ。
「私にとっては価値があるものなんです! はあ……桃瀬先生も美少年レンジャーのイラスト上げてたんですよ!」
「……あぁ、そう」
桃瀬とはあれから話していない。俺の平良への言葉が許せなかったのか、学校で会っても声も掛けてこなくなった。
まあ、あっちから離れてくれるのは好都合だ。
「あれれ? もしかして、ピーチ先生のこと気にしてます?」
セーラはニヤニヤとした笑みを俺に向けた。
「そんな訳ないだろ。あいつが悪いし。あっ……」
その時、二人の少年が店内に入ってきた。二人は俺が通っている高校の制服を来ている。一人は知らないが、もう一人は見覚えのある奴だ。そいつらは俺たちの真後ろの席に座った。
「どうしたんですか?」
不思議そうな顔をしているセーラに、俺は説明した。
「今、二人組の男子高校生が入ってきただろ? 一人は桃瀬の彼氏だ」
「ほう。あれが噂の平良君ですか」
セーラは平良の方に顔を向けた。
くりっとした目に、緩くパーマのかかった茶髪。小顔で、スラリとした高身長。いかにもモテそうな奴だ。
「黒田くんと違って爽やかな少年ですね」
セーラが俺と茶髪男を見比べながら言った。
「どういう意味だ」
俺がセーラを睨みつけたとき、
「遊人。お前、彼女とはどうなんだよ」
少年の一人が平良に話し掛けた。
「うん? どうって何が?」
平良は首を傾げた。
「桃瀬ちゃんだよ」
「ああ、貢がせちゃんね」
「貢がせちゃんって酷い奴だな」
少年は呆れたようにため息を吐いた。
「しょうがないだろ。あっちが勝手に貢いでくれるんだからさ」
「それに、桃瀬ちゃんがクラスの女子にハブられたのは、お前が元カノと別れるために桃瀬ちゃんにちょっかい出したからだろ」
「だってさ、元カノ重かったんだもん。別れるのに苦労したよ」
まるで自分が被害者のような言い方をした平良に、少年は肩をすくめた。
「お前は元カノと別れた後も桃瀬ちゃん以外に手を出しやがってさ。全く、どうして女はお前みたいなクズに集まるのかね」
「いやあ、モテる男は辛いよ」
平良は自慢げに言った。
やっぱり、ろくな奴じゃないか。
「……うぐぐぐ」
目の前のセーラは般若のような形相で平良を睨みつけていた。怖い。
「何ですかあの男! クソ野郎じゃないですか!」
「平良は遊び人で有名だから……」
そこまで言って俺は奥の席に桃瀬が座っているのに気づいた。ちょうど平良たちの席からは見えない位置にいる。
桃瀬のテーブルにはこの前好きだと言っていた抹茶ラテと、美少年戦隊のコースターが置いてあった。
あいつもグッズ目当てで来てたのか……。
「桃瀬さん大丈夫でしょうか?」
「知るかよ。クソ野郎を見抜けなかった桃瀬が悪いだろ」
「でも……」
そのとき、桃瀬の頬から涙がこぼれ落ちたのが見えた。
「……桃瀬さん」
セーラは心配そうな顔で桃瀬を見つめている。
「……」
バカな奴だ。俺の忠告を聞いておけばよかったのに。他人を信じるから傷つくんだ。
「帰るぞセーラ」
そう言って俺は椅子から立ち上がった。
「えっ! 桃瀬さんのこと放っておくんですか?」
「俺には関係ない」
「おい」
俺は平良に声を掛けていた。
「えっ……黒田誠太郎!?」
平良は驚いたように目を見開いていた。
「お前、桃瀬と付き合ってんだろ」
「だ、だったら何だよ」
「あいつはな、お前のこと大好きだって幸せそうな顔で言ってたんだよ。お前のために金稼いで、貢いでさ。バカだよ」
俺は桃瀬が平良のことを嬉しそうに話していた姿を思い浮かべた。
桃瀬はバカだ。大バカ野郎だ。こんな奴を大切に思っていて、否定されたら真剣に怒って。当の本人は桃瀬のことなんてこれっぽっちも大切に思ってないのに。
「だけどさ、桃瀬は真剣にお前と付き合ってた。そんな相手をバカにして楽しいか? 誠実な気持ちにきちんと応えようとは思わないのかよ?」
「く、黒田には関係ないだろ」
そうだ。俺は部外者だ。桃瀬と知り合って日も浅いし、友だちでもない。おまけに水をぶっかけられて、大嫌いだとも言われた。
「関係ないよ。でも」
俺はギロリと平良を睨みつけた。
「むかつくんだよ。誠実な人間の気持ちをぶち壊す奴がさ」
自分でも何でこんなことをしたのかわからない。けれど、一言、言わないと気が済まなかった。
はあ。これじゃ桃瀬のことを言えない。俺もバカな奴だ。
心の中で自分に呆れていたときだった。
「ユウく〜ん♡」
後ろからテンション高めな声が聞こえた。
「……え?」
それは桃瀬だった。手をこちらにブンブン振り、笑顔でこちらに向かってくる。
「ま、まりん、いつから居たんだ?」
平良は先程の会話が聞かれていたと思ったのか顔面蒼白だった。
「え〜? うち今、来たところだよ? どうしたの?」
ニコッと笑う桃瀬に、平良は安堵しているようだった。
「あっ……いや、それならいいんだ」
「うふふ。変なの。あ、そうだ。ユウ君、ちょっと後ろ向いてくれる?」
「えっ? 何で?」
不思議そうな顔をする平良を立たせる桃瀬。
「いいから、いいから♡」
「こうか?」
平良に後ろを向かせた次の瞬間、桃瀬は平良の股間を蹴り上げた。それは清々しいほど思いっきり。
「ぎゃあぁーー!」
悲痛な叫び声が店内に響き渡った。平良はその場に倒れ、悶絶している。
あれは痛いだろうな……。
俺はブルっと寒気がした。桃瀬を見ると、満足そうに笑みを浮かべている。セーラはその桃瀬の横に立ち、「もう一発!」と繰り返し叫んでいる。
こいつら鬼か。
「なんだ?」
「カップルの揉め事か?」
そうこうしているうちに店内がざわつき始めた。
これ、まずくないか?
「桃瀬、ついてこい!」
「えっ?」
俺は桃瀬の手を取り、走り出した。
「ちょっ! 黒田っち! どこまで走るの!」
桃瀬に言われて俺は立ち止まった。
「何で黒田っち走り出したの?」
「……それは」
言われてハッとした。よく考えたら逃げる必要なんてなかった。
「……なんとなく」
「なんとなくって!」
桃瀬は「あははは!」とおかしそうに笑った。盛大に笑われてしまい、非常に恥ずかしい気持ちになる。
何やってんだ俺。
「付き合わせて悪かったな」
俺は決まりが悪くなり、頭をかいた。
「あはは。謝らないで。むしろ、うちもあの場からは逃げたかったから、ちょうどよかったよ。あとさ……」
桃瀬はじっと俺の顔を見つめた。
「さっきはありがとう。うれしかった」
「あれは……なんとなく俺がむかついて言っただけだから。お前のためじゃない」
あのとき、なんであんなことをしたのか自分でもわからない。
「それでも嬉しかった。うち、黒田っちに酷いことしたのに……」
申し訳なさそうに桃瀬は言った。
「あ〜、そうだぞ。あの後、大変だったんだからな」
責めるように言うと、桃瀬は苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、お詫びに絵を描くよ。黒田っち、漫画作りたいんだよね?」
「本当か!?」
それは助かる。これでセーラに呪い殺されずにすみそうだ。
「うん。迷惑かけちゃったし。それにうち……」
一息ついてから、桃瀬は言った。
「黒田っちのこと好きになっちゃった♡」
「はっ?」
俺は口をあんぐりと開けた。
聞き間違いか?
「好き、大好き、愛してる、アイラブユー!」
愛の言葉のオンパレードに俺は石のように固まる。
「お、おいっ! 落ち着け! お前、平良はいいのかよ!」
「あんな浮気男知らないし。それより、黒田っちの方が一千億倍かっこいい!!」
桃瀬の熱い視線に俺はたじろいだ。
「お、お前、さっき俺に助けられて好きになったのか? そうだとしたらそれは恋じゃない。勘違いだ。たまたま俺があんなこと言ったから」
「はあ……照れ顔かわいい」
うっとりとした表情の桃瀬に、俺は怒鳴った。
「照れてねえよ! 人の話聞け!」
「ダーリンかっこいい……」
「誰がダーリンだ!」
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