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第21話 ケンカ

「やっほ! 黒田っち〜」


 翌日、学校の教室。

 昼休みに昨日の茶髪女が訪ねてきた。茶髪女は俺の席まで来ると、


「昨日はありがとうね♡」


 そう言って、ニコリと微笑んだ茶髪女を俺は睨みつける。嫌な予感しかしない。


「何しに来たんだ」

「何って……遊びに来ただけど?」


 絶対何か裏がある。俺は廊下を指差した。


「今すぐ自分の教室に帰れ。ハウス」

「え〜!? 冷たい! というかうちは犬じゃないから!」


 茶髪女は怒ったようにぷくっと頬を膨らませた。フグみたいだなと思っていると、


「黒田っちは自分の状況がわかってないみたいだね。うちにそんな態度とっていいのかな?」


 茶髪女は表情を変え、挑発的に笑った。俺はピタリと固まる。


 まさかこいつ昨日のこと言いふらすつもりか? 


「……ちょっと来い」






 俺は茶髪女を校舎裏に連れてきた。


「こんな人気のないとこ連れてくるなんて、告白でもされるのかな?」

「お前、昨日のことバラす気か?」

「うーん? 昨日のことって何かにゃ?」


 茶髪女は小首を傾げる。俺はワナワナと拳を握りしめた。

 

 こいつ、とぼけやがって。


「あはは。そんな怖い顔しないでよ。言わないから」

「本当だな?」

「お願いを聞いてくれたらだけど」


 茶髪女はチラリと俺を見る。


「お願い?」

「うちと……友だちになってよ!」


 そう言って手を差し出した茶髪女に、俺は唖然とした。


「は? なんで俺と?」

「うちさ、ぶっちゃけかわいいじゃん?」

「……」


 茶髪女はウルウルとした瞳を俺に向けた。

 やばい。こいつ殴りてえ。


「だから、女子からの嫉妬がすごいわけ。彼氏はいても、友だちいないんだよね」

「それは性格の問題じゃないのか?」


 俺のツッコミを無視して茶髪女は続ける。


「黒田っちとならオタク同士だし、仲良くなれると思うんだよ。だめっ?」


 茶髪女は上目遣いで尋ねた。


「友だちになったら昨日のことは言わないのか?」

「うんうん! 言わないよ〜」


 軽い感じの茶髪女に不安を覚えたが、友だちになるだけならいいか。


「……わかった。友だちになってやるよ」

「まじっ? やったー! あ、そうだ。改めて自己紹介するね。うちは桃瀬まりん! よろしく、黒田っち」

「その黒田っちってやめろよ」

「え〜!? かわいいからいいじゃん! そんなことより、放課後カフェにでも行こうよ!」

「行かねえよ」

「黒田っち、冷たーい! ねえ? いいでしょ!? せっかく友だちになった記念にさ! それに行ってくれないと、つい昨日のこと誰かに話しちゃうかも?」


 こ、こいつ。どっかのオタク幽霊と同じじゃないか。


「……行けばいいんだろ!」


 俺はもうヤケクソだった。


「わ〜い! まりん嬉しい!」


 こうして俺は友人ができた。








「はあ、抹茶ラテおいしい〜」


 放課後。俺は桃瀬に連れられ、カフェに連行されていた。


「黒田君! 黒田君!」


 横ではセーラがうるさい。


「ピーチ先生に漫画の絵を描いてくださいってお願いしてください!」


 そう言えばそんなこと言ってたな。


「早く言え言え言え言え言え言え言え言え」


 セーラが呪いのように呟き始めたので、俺は慌てて、話を桃瀬に切り出した。


「な、なあ桃瀬! お前って絵が上手いよな」

「え? やだなぁいきなり何? 照れるじゃん!」


 桃瀬の頬が少し赤くなり、俺は心の中でガッツポーズをした。


 よし、いい感じだ。


「俺、今漫画を描いてくれる奴を探してて、それをお前に頼めないかなと……」

「ごめん、無理♡」


 笑顔でバッサリ断られた。地味に傷つくな。


「何で即答なんだよ! 俺たち友だちじゃないのか?」

「調子いいときだけそんなこと言うんだ〜?」


 桃瀬に責めるように見つめられ、俺は言葉につまる。そこを言われると痛い。


「……いや、それは」


 俺がモゴモゴしていると、桃瀬は今度はパッと笑顔になった。


「あはは! なんてね! 本気にならないでよ。うちさ、今絵の仕事してるから忙しいんだよ。ユウ君のためにも頑張ってるの!」

「ユウ君?」


 俺は首を傾げる。


「うちの彼氏だよ〜。同じ学校だけど、知らない?」


 同じ学校と聞き、一人の男が思い浮かんだ。


「ユウ君って、もしかして……平良遊人のことか?」


 平良遊人といえばうちの学校で女たらしで有名な男だった。


「そうそう。ユウ君はね、イケメンで頭が良くて超かっこいいんだよ」


 桃瀬は嬉しそうにニコニコと笑っている。目がキラキラしていて、いかにも恋する乙女といった表情をしていた。


「へー」


 俺は力の抜けた返事をした。他人の惚気話ほど興味が持てないものはない。


「うふふ。意外と甘えたがり屋さんで、うち、よくお小遣い上げてるんだあ〜」

「ん?」


 今、お小遣いって言ったか?


「だからうち、絵のお仕事頑張ってるの♡」


 桃瀬は充実感に満ちた顔でそう言った。


「それ貢がされてるだろ」

「えっ?」


 ポカンとした表情をしている桃瀬に俺は続ける。


「お前、利用されてるよ」

「……ユウ君はそんな人じゃない」


 桃瀬は呟くように言った。


「本当に好きなら金なんか要求するか? しないだろ」

「……」


 黙り込む桃瀬。


「あのな、お前がいくら尽くしても相手は何も返してくれない。裏切ることだってある。傷つく前に早く別れた方がいいんじゃね?」


 どう見ても桃瀬は利用されている。そんな奴に付き合うのは時間と金の無駄だ。早く別れた方がいいに決まっている。


「……何その言い方」


 桃瀬は立ち上がり、俺にコップの中の水を掛けた。俺はたちまちびしょ濡れになる。


「冷たっ! おいっ! 何すんだよ!」

「ユウ君はうちを利用してないもん!」


 桃瀬は目に涙を浮かべていた。


「うちが女子にハブられたとき、ユウ君は助けてくれたの! 一緒にいてくれたの! 何も知らないのに、ユウ君のこと悪く言わないで! 黒田っちなんか大嫌い!」


 桃瀬はそう叫ぶと店から出て行った。


「あーあ、嫌われちゃいましたね」


 セーラの言葉に、俺はフンと鼻を鳴らした。


「別にいいよ。あんなバカ女。人がせっかく忠告してやったのに」

「……尽くしても何も返してくれない」


 セーラが先程の俺の言葉を繰り返した。


「それは君の経験談ですか?」


 じっとこちらを見つめるセーラに俺はハッと笑った。


「俺が人に尽くす人間に見えるか?」


 セーラは肩をすくめた。


「見えませんね。どちらかと言うと、その逆に見えます」

「失礼な奴だな。ハッ、ハクシュッ!」


 俺は盛大にくしゃみをした。寒気もする。


「早く帰りましょう。風邪を引いたら大変ですよ。まあ、君は大丈夫でしょうけど」

「おい、俺がバカって言いたいのか? ハクシュ!」

「ほら、無駄口叩いてないで早く帰りましょう」


 俺はセーラに促され、カフェを後にした。


 水をかけられるわ、セーラにバカにされるわと、全く今日はついてない。







お読みくださり、ありがとうございます。


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