第2話 服を脱ぐ……だと?
「ぎゃあぁーー!」
俺は叫び声を上げ、少女、いや、幽霊から離れ、ミノムシのようにカーテンにくるまった。恐怖で体はガタガタと震えが止まらない。
「私のこと、何だと思ってたんですか?」
幽霊の呆れたような声が聞こえたが、無視をして、必死に念仏を唱えた。
「悪霊よ、成仏したまへ。なむあみだぶつ、なむあむだぶつ……」
信仰心なんて微塵も持ち合わせていないが、ただ必死に祈った。
神様、仏様! 助けて下さい!
「ちょっ! 女の子に向かって悪霊って酷くないですか!?」
「なむあみだぶつ、なむあむだぶつ……」
念仏をひたすら唱え続ける俺に、幽霊は深いため息を吐いた。
「もう〜、何もしませんから、こっち向いてくださいよ。ほら、こんなかわいい悪霊がいますか?」
「嘘つけ! 見た瞬間、呪い殺す気だろ!」
「そんな訳ないでしょ? 私にメリットないじゃないですか」
「うるさい! いいから早くどっか行けよ!」
とにかく大声で叫んだ。さっきはバカな奴だと思っていたが、あれは俺を呪い殺すために、油断させるための演技だったとすれば納得できる。
もう騙されないぞ。そう強く決意したとき、幽霊がボソリと呟いた。
「……さっきまでいやらしい目つきで私の太ももを見てたくせに」
俺はギクリと肩を揺らした。
ば、ばれてる。
「み、みみ、みみみ、見てねえよ! 自意識過剰だ!」
「自意識過剰ですか? ふ〜ん?」
疑うような声を向けられ、俺は冷や汗が止まらなくなる。
「じゃあ、君がこっちを見てくれたら服を脱ぎます」
「ふ、服を!?」
いかん。思わず反応してしまった。
俺はコホンと咳払い。
「勝手にしろよ。誰が幽霊の裸なんかに釣られるか!」
ビシッと言い放つ俺。
そうだ。ここはクールに対応するんだ。クールに……。
「はい。今、全裸です♡」
俺がカーテンから顔を覗かせると、幽霊は制服のままだった。
クソオォ! 騙されたあぁ!
「おいいーー! 脱いでねえじゃん! 嘘つくな!」
「ふふっ。男の子って単純ですねえ〜」
幽霊は小馬鹿にしたようにニヤニヤと笑っている。こ、こいつ! 俺の純情を弄びやがって!
「お前、相当性格悪いな」
ジロリと俺が睨みつけると、幽霊は声を荒げた。
「なっ! 君こそ、さっきから失礼なことばっかり言ってますからね!?」
「それはお前の態度が悪いからだ」
俺をからかったり、気味の悪い笑顔で近づいてきたり。こいつの方が明らかに性格悪いだろ。
「ああ言えばこう言う。本当、面倒くさい。君と付き合う女の子は苦労しますね」
幽霊はやれやれと言いたそうに肩をすくめた。
「大きなお世話だ」
「まあ……誰とも話せなかったときと比べたらマシか」
何かを思い出すようにどこか遠くを見つめている幽霊に、俺は首を傾げる。
「話せなかった? もしかしてお前の姿は俺にしか見えないのか?」
幽霊はコクリと頷く。
「ええ。声を掛けても誰も応えてくれなくて。しょうがないから街をフラフラと彷徨っていました。いやあ……人に認識されないって結構きつくて、すごく寂しいものですよ」
悲しげに微笑んだ幽霊を見て、ふと思う。制服を着ているということは、きっとこの幽霊は若くして亡くなったのだろう。それなら色々と悔いに思っていることもあるかもしれない。そう考えると、少し同情した。
「そんなとき、君のおかげで寂しくなくなりました!」
俺の眉がピクリと動く。
んっ? 俺のおかげ?
今この幽霊はとても気になることを言わなかったか?
「どういうことだ?」
「君、歩道橋の階段から転げ落ちそうになりましたよね?」
「ああ……」
それは三日前のこと。俺は歩道橋の階段から足を滑らせた。「しまった」と思ったときには遅く、階段から落ちていったとき、
「危ない!」
そう女性の声が聞こえた瞬間、俺はぐいっと後ろに手を引っ張られ、助かった。
「……そうだ、お礼」
助けてくれた女性に礼を言おうと周りを見渡したが、誰もいなかった。不思議に思っていたが、まさかこいつだったとは。
「お前があのとき助けたのか?」
「ええ! 私が助けたんです! 所謂、命の恩人! 感謝してくださいね!」
「……」
恩着せがましい幽霊の態度のせいか素直に感謝できない。
「まあ、それがきっかけはわかりませんが、私、君に憑依できるようになりまして」
幽霊の言葉に俺はハッとし、握り拳に思わず力が入った。
「じゃあ、何時間も漫画を読んでたのも、アニメイトにいたのも……」
「はい! 君の体に憑依した私です!」
悪びれた様子が一切ない幽霊に、溜まりに溜まっていた怒りが爆発した。
「お前のせいかあぁーー!」
前言、撤回。この幽霊に同情する余地は微塵もない。
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