第15話 俺とデートがしたいって?
「私とデートして」
放課後の視聴覚室。水野は苦渋に満ちた顔で俺にそう言った。
とてもじゃないが、デートを申し込んだ奴の顔には見えない。たぶん、何か悪口を言われたのだが、俺の聞き間違いで「デート」と聞こえたのだろう。
「デデデ、デートオオォォ!?」
セーラの言葉で聞き間違いでないことが確定したので、俺は恐る恐る水野に確認した。
「お前、俺のこと好きなのか?」
「そんな訳ないでしょ。どういう思考回路してんの」
ゴミクズを見るような顔をこちらに向けている水野に、俺の肩は震え、気づけば怒鳴り声を上げていた。
「お前が、ブラコンな私で申し訳ありませんが、デートしてください黒田様って頼み込んだからだよ!」
俺の言葉に、水野は怒鳴り返した。
「そんな卑屈な言い方してないでしょ! 私だってこんなことあんたに頼みたくないわよ!」
「じゃあ、なんでデートしたいんだよ」
「それは……」
水野は俯き、両手で机をバンッと叩いた。
「書けないのよ! アランとエドガーのデートシーンが!」
頭を両手で押さえて、嘆いている水野に俺は首を傾げる。
「いや、アランとエドガーは男同士だからデートとは言わないだろ」
「そうね。デートという言い方が軽かったわね」
「いや、そうじゃなくて」
「二人が街で触れ合いながら友情を深めるシーンが書けないの!」
「……もういい。というか書けないって何でだよ。お前今まで恋愛小説で似たようなシーンを書いてきたんじゃないのか?」
水野は俺をキッと睨みつけた。
「兄妹ものならいくらでも書けるわ。でも、今回は男子高校生が親友と遊びに行くシーンなのよ! 親友ましてや友だちすらいない私にそんなフィクション書ける訳ないでしょ!」
「……友だちと遊びに行くのは現実でもありえるだろ」
呆れている俺に、水野は叫んだ。
「じゃあ、聞くけど! 黒田は休みの日に遊びに行くような友だちがこの現実世界にいるの!?」
「うっ……、いないけど」
「ほら! そうでしょ!?」
水野は勝ち誇った顔を俺に向ける。
ぐ。むかつく。
「ぼっちブラコンじゃ限界があるのよ! だから、嫌だけど、屈辱だけど、黒田に頭下げてお願いしてるのよ!」
「いや、お前一回も頭下げてねえだろ!」
俺のツッコミに、水野はふんと鼻を鳴らす。
「とにかく、黒田が私に脚本をお願いしてるんだから、協力しなさいよ!」
水野は椅子にふんぞり返り、偉そうにそう言った。
水野の態度は腹立たしいが、頼んだのは俺だ。遊びに行くくらい協力すべきかもしれない。
俺はガシガシと頭をかいた。
「わかったよ」
「えっ? いいの?」
水野はポカンとした表情をしていた。
「何だよその反応。お前が言ったんだろ」
「いや、こんなにあっさり了承してくれるとは思わなくて」
水野は頬をぽりぽりとかいた。
「じゃ、じゃあ、今週の土曜はどう?」
「空いてるけど」
俺が承諾すると、水野は嬉しそうににこーっと笑った。さっきまであんなに怒ってた人物とは思えない。
「よーーし! 約束よ! 昼十二時に駅前集合でよろしくね!」
「はいはい」
「じゃあ、私用事があるから帰るわね!」
水野はそう言うと、視聴覚室から出て行った。
「ふ~ん。女の子とデートですか。いいご身分ですね」
セーラはジト目で俺を見ていた。
「デートじゃない。ただ遊びに行くだけだ。それにこれも漫画のためだぞ」
「とか言って内心はものすごく水野さんと遊びに行くのすごーく楽しみだったりして。君、水野さんのこと、かわいいって言ってましたもんね」
不貞腐れたような表情を浮かべているセーラに、俺はため息をついた。
こいつは俺の彼女か?
「お前、もしかしてやきもち焼いてるのか」
そう俺が言った瞬間、セーラは目を大きく目を見開いた。
「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
「だったらぐちぐち文句言うなよ。うっとおしい」
こっちはセーラの漫画作りのためにわざわざ休みの日に水野と遊びに行くんだ。
それなのに、こいつは何で喧嘩を売るような態度をさっきからとるのか。感謝されることはあっても、文句を言われる筋合いはないだろ。
「そうですか! すみませんね! 人の恋路に口を挟んでしまって!」
俺の言葉が癪に触ったのか、セーラはキレながら謝ってきた。
「何だよその態度。俺はお前が漫画を作りたいって言うから協力してやってるんだろ。少しは感謝してくれてもいいんじゃないの?」
俺がムッとしながら言うと、セーラは両手をぎゅっと握り、絞り出すような声でこう言った。
「わかってますよ。そんなことはわかってはいますが……」
セーラはしばらく苦悶の表情を浮かべていたが、自分の頭をくしゃくしゃにした。
「あ~! もうわかりました! デートでも何でもしてくればいいじゃないですか! このエロ魔人!」
そう言ってセーラは消えてしまった。
「おい! ちっ。結局あいつ悪口しか言ってねえじゃん」
俺は理不尽なセーラの態度に腹が立ってしょうがなかった。
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