四十二回目
放課後、みんなで集まって街に繰り出そうと、校門へ向かって歩いていると、陸上部の奴が、行く手を阻むように立っていた。
こいつは、未だに俺に、陸上部に入ってくれと言ってくる。
まったく面倒くさいったらありゃしない。
ストーカーとして、安藤に通報するぞコノヤロー。
そう思って陸上部の奴を見ていると、今日はなんだか、いつもと表情が違う事に気がついた。
いつもなら、悲壮感を漂わせて、俺に入部を懇願してくるわけだが、今日はなんだか勝ちを誇ったように、胸を反らせて立っていた。
どういう事だ?
何かヤバイ物でも食べて、頭がおかしくなったのか?
俺が此処まで考えたところで、陸上部の奴が話しかけてきた。
「陸上部に入ってくれるんだって?ありがとう。俺は嬉しいよ」
何を言っているんだこいつ。
俺は陸上部に入るなんて、一言も言った事がないぞ?
やっぱりヤバイ物を食べて、頭が変になったに違いない。
何を食べたんだ?
トリカブトか?
つかトリカブトって、鳥類なのか昆虫なのか、ハッキリしてほしいぜ。
「なんて、直也くんは思っています」
おいおい、さっちゃん、手を抜きすぎですよ。
それじゃ相手に伝わらないよ。
そう思っていたら、俺の後ろにいた高橋が、説明を開始した。
「あ、私が、五人の入部を伝えておいたよ。だって、南北千住ホテルに泊まれるなら、ラスボス倒しに行くって言ったから」
そう言えば以前、南北千住マラソン大会がどうとか、聞いた事がある気がするな。
「直也くんが、「もしかして、南北千住ホテルに泊まれるのか?」と言っております」
すると佐藤、がニヤリと笑って、黙って頷いた。
なんで佐藤が、南北千住ホテルに泊まる事を知ってるんだよ。
その場のノリで頷きやがって、ややこしい。
俺は陸上部の奴を見た。
「泊まるホテルは、高くなければ、何処でも選べるぜ」
そういう事なら、陸上部に入るのもやぶさかではない。
それにしても、こんないきなりの展開に、嫌がったり疑問を持つ奴が、一人もいないのはどういう事だ?
普通なら、「私走るの苦手だし~」とか「そんな面倒な事できるか!」とか、言いだす奴がいるはずだろうが。
「私たち、マラソンしなくても、どうせ毎日それ以上に走ってるんだし」
さっちゃんの言葉に、俺は納得した。
そうだな、どうせマラソン大会で走るも、セーラー服で街を走るも、俺たちには何も変わらない。
しかし、五人でゲームのクリアはできるのだろうか。
模擬戦で戦ったが、おそらく五人で勝てるほど、甘い敵だとは思えない。
あと一人、強力な勇者を連れて行きたい。
そう思う俺の頭の中に浮かんだ人物は、当然陽菜ちゃんだった。
よし、なんとか陽菜ちゃんもつれていけるように、相談してみよう。
「あのさ、後一人、マラソン大会に参加させたい子がいるんだけど。その子の宿泊費も、部費からだせないか?」
俺がそういうと、陸上部の奴が、目を輝かせて近づいてきた。
「もしかして、陽菜ちゃんって子か?それならオッケーだぞ。顧問の井上が、是非一度見てみたいって、言っていたからな」
なんだ?どういう事だ?
何故こいつが陽菜ちゃんを知っている?
つか井上が顧問?
どうなっているんだ?
話を聞いたところ、まず、陸上部の顧問は、数学教師の井上だった。
そして、井上の妹が、俺の家の近所に住んでいて、いつも俺や陽菜ちゃんと一緒に走っているらしい。
だから井上は、その妹から、俺や陽菜ちゃんの事を聞かされていたというわけだ。
って、あのお姉さん、井上の妹だったのかよ。
どおりでどっかで見た事がある顔だと思ったら、井上に似ていたのか。
つか、その顔を見て、俺は綺麗だと思ったり、ドキドキさせられていたのか・・・
なんだか凄く騙された気がするのは、俺の気のせいだろうか。
ふと横を見ると、さっちゃんが少し怖い顔をしていた。
しまった!
俺の思っている事は、全てさっちゃんに伝わるんだった。
大丈夫、浮気じゃないから。
幼稚園児が、先生にあこがれるようなものだから。
俺がそう思うと、さっちゃんの表情は笑顔へと変わっていった。
ふぅ~セーフ。
この日の夜、陽菜ちゃんにこの事を話すと、あっさりと参加を了承してくれた。
両親には、井上のお姉さんが話をしてくれて、問題無く了解を得られた。
どうやら、井上のお姉さんも、ついでにキムタクも、この大会に参加するらしい。
こうして、南北千住マラソン大会への参加が確定した。
誰か一人忘れている気もするが、それはきっと気のせいだろう。
「俺たち」パーティは、最初からこのメンバーだったはずだ。
そして気がつけば、何故こんな事になっているのか、冷静に考える間もなく、俺たちは南北千住ホテルで眠りについていた。




