三十八回目
夜も、俺の宝具を狙う奴らは、性懲りもなく集まってきていた。
このサラリーマン達なんて、本当に仕事をしているのだろうか。
そんな疑問もわき上がってくるが、それを知ったところで、奴らを倒せるわけではない。
俺は逃げるように、なんとか交番までたどり着いた。
「さっかもっとくんっ!今日も爽やかな夜だねぇ~」
安藤がまたいつものように声をかけてきていたが、俺はいつものように聞き流し、軽く挨拶を返す。
「ばんは」
そして集まるメンバーを見回すと、いつもの顔が並んでいた。
このメンバーで走るのも、もう半年になるのだろうか。
流石に俺だけじゃなく、みんな強くなった。
学校の友達とのパーティの方が強いだろうが、こちらももう差は無さそうだ。
そんな事を考えていると、安藤が聞き捨てならない事を言っているように聞こえた。
「ラスボスの模擬戦が、北武デパートの広場でやってるらしいぞ。勝ってもクリアにはならないが、強さは同じだし、勝てば宝具が貰えるらしい」
なんて聞こえてきた気がしたわけだが、本当のところはどうなのだろうか。
俺は陽菜ちゃんの顔を見た。
すると陽菜ちゃんが
「お兄ちゃん、ラスボスと戦ってみたい。行こうよぉ~」
と、目をウルウルさせながら、祈るように俺に懇願してきた。
どうやら、安藤から聞こえてきた気がした言葉は、本当らしい。
俺は他のマラソンメンバーの顔を見た。
するとやはり、陽菜ちゃんのお願いを聞かない選択肢は無いようで、みんな笑顔で頷いていた。
「よし、ラスボス倒しに行くか!」
俺はそう言って、陽菜ちゃんの頭を二回ぽんぽんと叩くと、北武デパートへと走りだした。
「わーい!ラスボスだぁ~」
陽菜ちゃんの喜びの声に、キムタクは後ろを走りながら、涙を流していた。
「わしはもう死んでもええ」とか「陽菜ちゃん万歳」とか、そんな言葉も聞こえてきたが、流石に少し怖すぎだろうと思い、俺は気がつかないフリをした。
広場には、大勢の勇者が集まっていた。
俺は早速スマフォを取りだし、順番待ちをしている人々の先、戦闘フィールドをスマフォ越しに見てみた。
すると、ラスボスが映し出される。
流石にでかいモンスターで、いかにもラスボスと言った感じの、重量感ある龍のバケモノだった。
名前は・・・「ラスボス」・・・
全くひねりが無いあたり、俺は少し嬉しくなった。
こうでなくては、このゲームの制作会社じゃない。
俺はウキウキしながら、順番待ちの最後尾に並んだ。
きっと、この「ラスボス」を倒せるパーティはいないだろう。
俺たちもおそらく勝てない。
だけど、後どれくらいで倒せるようになるのか、目安にはなる。
ラスボスに近づいている人はいるらしいが、実際にラスボスと戦ったという情報は、まだでてきてはいない。
どうすればラスボスに近づけるかそれすらも謎だが、やっていればそのうち何処かで情報が得られるだろう。
それに今は、宝具を集めてしまえば良いのだから、このままそちらでクリアするかもしれない。
だったら今日のラスボスとの模擬戦は、良い思い出となるのだろうか。
そんな事を思いながら待っていたら、いつの間にか俺たちの番がやってきていた。
結果は、意外と善戦したと言えるかもしれない。
全てが上手く進んでいたら、或いはAI設定や装備にもう一工夫があれば、勝てない相手ではないといった感じだった。
百回やれば、いや、千回に一回くらいは、まぐれで勝てるかもしれない。
そう思わせる善戦だった。
実際は、この後少しが、果てしなく大きいのだろうが。
模擬戦だから別にそこで死ぬわけでもないし、俺たちはその後、いつものように町を走っていた。
会話は、やはり模擬戦の話で持ちきりだった。
「あたしの攻撃凄かったよね。ラスボスに三千もダメージ与えたよ」
「凄すぎるぞぉ~キムタクもビックリじゃ!」
キムタクは驚き過ぎだが、確かに陽菜ちゃんの攻撃はよく当たっていた。
陽菜ちゃんの武器は、今では「名刀、夜の女」から、「幼刀」に代わっていたが、これがまた凄い武器だった。
小学生以下しか使えない武器であり、その能力は半端なく凄い。
宝具なみかそれ以上の攻撃力を誇る。
要するに、小学生ハンデというか、小学生にも楽しんで貰えるように、配慮された武器なのだろう。
でも陽菜ちゃんは、このパーティでも二番目に高いレベルだし、学校のパーティメンバーの中に入っても、佐藤に次ぐレベルだ。
小学生ハンデなんて必要ない強さを持っているわけで、それはもう頼もしい勇者だった。
もしもこの子が、あっちのメインパーティにいたら・・・
そんな事を少し思いながら、この日も良い感じに夜の町を走った。
帰ってからアイテムを確認すると、宝具が二つも増えていた。
確かに子供も混じっているし、俺たちのパーティは弱そうに見えるだろうけれど、簡単に宝具をプレゼントしすぎだろう。
まっ、こちらとしては助かるから、いいんだけどね。




