三十六回目
宝具を持つ者は、誰かと宝具をかけて戦う時以外は、アプリを起動しないのが、スタンダードになっていた。
まったく、そんなやり方でゲームに勝ったとして、楽しいのかね。
俺なんて、寝ている時以外は、ずっと起動しているっての。
それもまた、「俺たち」パーティのこだわりであり、俺のゲーマーとしての意地だった。
いつからこんなに、俺は熱くなったのだろうか。
でも俺は、ゲームにもこだわりを持って、熱くなれる方が好きだ。
俺は朝食を食べながら、そんな事を考えてニヤニヤしていた。
すると母さんが、太陽も凍りそうな冷たい視線で、俺を見ていた。
そんなに見つめられると照れるじゃないか。
俺は一つ、ウインクを返した。
すると母さんが何やら険しい顔をして、俺のトーストにワサビを塗り始めた。
今日もまた、我が家は平和だった。
しかし、我が家を一歩外に出ると、そこは戦場と化していた。
電信柱の陰には、六人の勇者が、俺が家から出てくるのを待ち伏せしている。
いい大人が、通勤前に何をやっているのだろうか。
俺はダッシュで逃げる。
するとスーツ姿のサラリーマンが、世間の視線も気にせず、俺を追いかけてくる。
此処で幼気な美男子の俺が、「助けてー!」なんて叫べば、一体どうなるのだろうか。
ちょっと面白そうだが、奴らにも家族はあるのだろう。
慈悲深い俺は、ちゃんとゲームの中で、お前たちを屠ってやるぜ。
俺は、駅にまっすぐ向かわず、少し脇道に入る。
するとそれを追いかけてくるサラリーマン六人。
俺が本気で走ると、奴らはついて来れないので、ついて来れるように絶妙に調整する。
よし、かかった。
俺の後を追っていたサラリーマン達は、急に立ち止まり、スマフォを取りだしてた。
実は、裏道には、何匹か強力なモンスターを配置してある。
俺たちのパーティでも、ギリギリ倒せたような強力な奴だ。
「俺たち」のレベルは、おそらく全国でも上位。
なんせ、親の買い物を手伝ってアイテムを集め、朝から晩までゲームを起動し、走れる時間は全て走って、レベル上げをしているのだから。
レベルが全てでは無いが、俺たちは今や、優勝候補だと言っても過言ではないはずだ。
俺は、ガックリと膝をつくサラリーマンを背に、意気揚揚と駅へと向かうのだった。




