三十五回目
バカな奴らから手に入れた宝具は、再び「ルシフェルの翼」だった。
ダブリができるのも仕方はないが、少しガッカリだった。
俺は早速、みんなにそれを報告した。
「ダミー装備が増えてラッキーじゃねぇか。これで後二回負けでも大丈夫って事だろ?」
確かに吉田の言う通り、これを使わずに倉庫に入れておけばそういう事になる。
だけど俺は、使わずに持っているのも、もったいないと思えた。
「さっちゃん、上げる」
俺はゲットした「ルシフェルの翼」を、スマフォを操作してさっちゃんに渡した。
さっちゃんはそれを笑顔で受け取ると、
「貸してあげる」
と言って「悪魔の羽」を佐藤に渡していた。
ダミーなら一つ、光の宝具もあるし、どうせパーティで戦う事になるのだ。
一人の時の逃げ足は、自分で言うのもなんだけど、俺メッサ速いし。
こうして俺たちは、パーティとして、ますます強くなっていった。
ただ、みんなが別れる時には、さっちゃんは「ルシフェルの翼」を俺に返してきた。
「パーティ組んでる時だけ貸してくれれば、きっとその方がいいから」
さっちゃんに言われてみて、その通りだと思った。
さっちゃんが襲われたら、負ける事もあるもんね。
俺は「ルシフェルの翼」を受け取ると、みんなと手を振って別れた。
今日は、昨日のバカな奴らは姿を見せなかった。
もう宝具は持っていないのだろうが、俺が持っている事は知っているのだから、襲ってくる事があっても、おかしくはないと思っていたのだが。
まあ流石に、あんな風に二回も負けたのだから、恥ずかしくて俺の前には出てこれないのだろう。
俺はそう結論付けて、今日も交番へと出かけていった。
交番につくと、いつものように安藤が、気持ち悪い挨拶をしてきたようだが、俺の耳にはもう聞こえなくなっていた。
「俺たち」パーティのメンバー、佐藤の言葉も、こんなふうにいつの間にか聞こえなくなったものだ。
どうやら俺は、気持ち悪い喋り方をされると、だんだんと耳に入ってこなくなるようだ。
要するに安藤は、「マスタークラス」になったって事だ。
おめでとう安藤。
これでもうお前は、一生結婚する事はできないだろう。
結婚したければ、メス猿を力ずくで手に入れてみろ。
そんな最後通告を、俺が心の中で安藤に伝えていると、知らない男が、俺の顔を見てニヤニヤしていた。
なんだ?もしかしてまた、マラソン仲間が増えてしまうのだろうか。
それともこの笑い方は、どう考えても悪役だ。
俺に戦いを挑む、ラスボス気分の勘違い男なのだろうか。
するといつものように、安藤が説明をしてくれる。
「こちらの方が、坂本くんに、話があるみたいだよ」
あれ?安藤の言葉が分かる。
どうやら気分によって、安藤は完全体を維持できない事もあるようだ。
良かったな安藤。
これならギリギリ、猿くらいとなら結婚できるかもしれないぞ。
「そなんですか」
俺は安藤の言葉を受けて、その男に再び視線を送った。
するとその男は、相変わらずニヤニヤとしながら、俺に話しかけてきた。
「こんちは」
今はもう夜だから、挨拶するなら「こんばんは」だろうが。
俺はその辺りを強調するように、その男に
「こんばんは」
と、挨拶を返した。
するとその男は、ニヤニヤする顔を少し歪めて、軽く舌打ちをした。
おいおい、何か話があるって言うから聞いてやろうとしているのに、こいつはトンデモなDQN野郎だな。
「あのさ、きみぃ~、宝具持ってるんだってぇ~?俺っちの友達も、光の宝具集めててさぁ~、君の宝具、百万で貸してくれない?俺っちの友達が一千万手に入れる事ができたらさぁ~百万上げるって事でさぁ~」
こいつ何言ってるんだ?
金で宝具集めて、最初のクリア目指すつもりか?
それはゲーマーに対して、このうえない侮辱だろうが。
ゲーマーはなぁ、どんな時もゲームを楽しまないと、ゲーマーじゃねぇんだよ。
こういうゲーマーの風上にもおけない奴には、俺は全く協力するつもりはない。
むしろ、お仕置きしてやりたいくらいだ。
そこで俺は、ちょっと思いついてしまった。
「そうですか。では、アイテムを渡す事は構いませんが、誓約書を書いていただけますか?一番にクリアして一千万円貰ったら、百万円を俺に譲渡すると」
俺がそう言うと、その男の歪んだ顔は、ますます気持ち悪く歪みまくった。
それでも、目的の為には仕方がないと思ったのか、しぶしぶ了承してきた。
「分かったよ。ちゃんと払うっつーの!」
男はそう言って、何やら書き始めた。
男が誓約書を書いている間に、俺は陽菜ちゃん達についてきてもらって、郵便ポストから、光の宝具を取りだしてきた。
交番前に戻ると、すぐにアイテムの受け渡しを完了し、誓約書を受け取る。
警察官が承認だから、問題ないだろう。
アイテムを受け取ると、男は「ふんっ!くそが!」と、負け犬のような捨て台詞を残して、交番前から立ち去って行った。
いや、立ち去ろうと、駅の方へと歩いて行くところを、俺たちパーティは、後ろから「やんのかこらモード」で追い抜き、その男を倒して、宝具を取り返した。
バカな奴だ。
受け取ったら、とっととアプリ終了して、安全に持って帰れば良いものを。
後ろで男が何やら叫んでいたが、俺には猿が騒いでいるようにしか聞こえなかった。
「お兄ちゃん、後ろでゴキブリが鳴いてるよ」
陽菜ちゃんの表現は、俺以上に酷かった。
俺は、陽菜ちゃんに対する自分の教育が間違っていなかった事を確信し、感動して目には涙があふれていた。
キムタクも、強くなった陽菜ちゃんを見て、涙を流していた。
お姉さんなんかは、目以外のところからも、涙を流していた。
俺が、「それは汗だ」と気がつくまでには、三年の月日を要した。
こんな面白おかしい事もあったが、この後はいつもと同じように時間が流れていった。
とりあえず、今日も愉快な一日だった。




