三十三回目
マラソンしているタイミングを狙って、どうやら一人の宝具持ち勇者が、俺に勝負を挑もうとしているようだった。
わざわざ電車でこの町にくるなんて、御苦労な事だ。
ただ、居場所がわかるのは宝具持ち勇者だけなので、仲間を連れているのかどうかは、出会ってみるまでわからない。
一人なら楽勝だろうが、おそらく六人でくるのだろう。
ちなみに宝具は、光と闇を合わせて十四種類存在するが、数は当然それ以上ある。
十四個だけだと、部屋に籠られたり、あまりに遠いところに取りに行かなければならないとなると、学生なんかじゃ、そろえる事が不可能だからだ。
待っていれば、そのうち宝具持ちなんて、沢山現れる事になるだろうし、俺としては、そこそこ出そろった所で一気にそろえるか、挑んでくる宝具持ち勇者を返り討ちにするか、どちらかでいいと思っている。
相手の能力は、戦ってみるまで分からないし、できる対策も限られているからね。
さて、夕飯が終わると、俺はスマフォで確認しながら、交番まで向かう。
カメラ越しに辺りを見るわけではないので、俺の事は、携帯をいじりながら歩いている程度に見えるだろうし、問題はない。
もし宝具持ちが近づいてきたら、走って逃げるだけだ。
ただ、宝具を持っていない者が近づいて来たら、どうにもならない。
だから二人以上で歩いている人からは、なるべく離れたところを歩くようにしていた。
でもさ、宝具持ちが若い女性だったら、夜なんか急に接近すると、悲鳴をあげられて、宝具持ちの勇者も、簡単に変態に早変わりだな。
そういう意味では、夜は女性有利のゲームかもしれない。
いや、男が男に襲いかかっても、それはそれでヤバイか。
何にしても、リアルでプレイしている以上、真っ向勝負以外は許されない気がしてきた。
思った通りと言うか、交番には無事にたどり着いた。
「坂本きゅ~ん!宝具手に入れたんだってぇ~w見せて見せて~」
相変わらず安藤の気持ち悪さは健在だった。
だけど最近、この声を聞かないと、調子がでなくなっているような気がする。
これはかなりまずい状況ではないだろうか。
きっとこれは、酒やたばこ以上に、危険な領域に足を踏み入れている気がする。
まあ、酒やたばこができる年齢ではないから、その危険さは、俺には分からないが。
「宝具使ってないから、倉庫の中」
俺はそう言って、安藤を冷たくあしらうと、安藤は嬉しそうな顔をしていたので、今日も気分良く、みんなと一緒に、夜の冒険へとでかけた。
「いいの?警察のお兄さん、凄く悲しそうな顔してたけど?」
おいおい、陽菜ちゃん、あの警察官は、お兄さんって歳じゃないだろ?
確かもう二十歳超えてるし。
「いや、俺には嬉しそうに見えたけど?」
それに悲しそうに見えるとか、陽菜ちゃんって、ちょっとおかしな子なのかな?
「だって、涙がでてたよ」
「ああ、アレはね、嬉し泣きって奴だよ。陽菜ちゃんも大人になったらわかるよ」
そうか、陽菜ちゃんはまだ子供だから、悲しそうに見えたんだね。
俺は、大人のなんたるかを陽菜ちゃんに教授しながら、今日も絶好調で夜の町を走り続けた。
ふと気がつけば、俺はこのところずっと、リアの事は忘れて、マラソンを楽しんでいる。
と言うか、マラソンしながらの会話と言うべきか。
学校ではほとんど喋らないのに、おかしな事だ。
同級生と話すのは、どうも何か遠慮してしまうのか、それとも小坊の頃からの付き合いだから、特に話す事が無いのか。
なんにしても、俺も変わったものだ。
別に同級生と仲良くなれないわけではないが、此処の人達との会話は楽しい。
陽菜ちゃんは俺が言う事をしっかり聞いてくれて、良い感じに性格が曲がってきたし、お姉さんとの会話は、なんだかドキドキする。
キムタクはキャラ自体ウケルし、ジャージー軍団は、どうでもいいから、会話の内容を気にする事なく、なんでも言える。
いやホント、俺にとって良いメンバーが集まったものだ。
あれ?ちょっと待て。
果たして本当にそうだろうか?
集まってきたメンバーによって、もしかしたら、俺が洗脳されている可能性もある。
だいたい、生まれてこの方、あまり喋ってこなかった俺が、いつの間にか喋る人間に変わっているなんて、普通はありえないだろう。
やはりこれも、リアの呪いなのだろうか。
だけど、たとえこれが呪いだとしても、みんなに洗脳されているのだとしても、楽しい事に代わりはないのだから、何も問題はない。
人生バカな方が楽しいと、どっかの偉そうな人が言っていた気がするが、俺みたいに賢い人間は、こうやって疑ってかかるから駄目だと言う事だろう。
よし、俺は賢者の上のバカになって、もう本能の赴くまま、生きる事にしよう。
と思っても、思ったままで終わるのが、俺のチャームポイントなんだけどね。
さて、気がつくと今日も、何事もなく解散の時間になっていた。
みんなと手を振って別れた後、今更ながら、宝具持ちの勇者が迫ってきていた事を思い出した。
だから一応、勇者らしき人物が接近してくるような場面があったか思い出してみたが、それらしい記憶は、俺の頭の中には残っていなかった。
だけど、帰ってスマフォを確認すると、九時頃に一人で挑んできて、俺に宝具をプレゼントしていった勇者との、戦闘記録が残っていた。
おいおい、いくらなんでも、一人で勝てるわけがないだろう。
マラソンしているようなリア充が、パーティを組んでいるわけが無いとでも思ったのだろうか。
まあなんにせよ、俺はこの日、闇の宝具「悪魔の角」を、期せずして手に入れてしまったようだ。
ようやく、闇系宝具が一つ手に入った。
俺は早速装備して、この日の冒険は終了した。




