二十九回目
今日も、俺がいつもと同じように交番に行くと、ジャージを着た人が集合していた。
気のせいかもしれないが、その数は三倍くらいに増えているように見える。
俺が目をこすって、理解できない風を装っていると、安藤がいつものように、気持ち悪い事を言いながら近寄ってきた。
「さかもときゅ~ん。こんばんワン!」
言葉だけではなく、その動作も気持ちが悪い。
手を軽く握って頬の横辺りにもっていき、犬のマネをしている。
つかそれ、猫マネじゃねえのかよ!
とにかくこれはマジで兵器だぞコノヤロー。
俺は、右手で口を押さえ嘔吐を我慢し、折れそうになる膝を左手で支えて、なんとか死亡フラグを回避した。
「こ、こんばんは」
こんな時でも、俺は挨拶を返す。
挨拶は大切だからな。
すると集まっていたジャージー軍団が、一斉に俺に対して、「こんばんは!」と挨拶してきた。
その迫力に、俺は一瞬たじろいだが、勇者がこんな挨拶に負けてはいられない。
俺は必死に、ダンディな勇者を演じた。
ふぅ~、なんとかこれで、この辺りのナンバーワン勇者の体裁は保たれただろう。
それはそうと、このジャージー軍団は、いったいなんなんだろうか。
きっと俺が疑問に思えば、安藤が説明してくれるはずだ。
俺は安藤に視線を送る。
すると安藤は、頬を赤く染めた。
「って、なんでやねん!」
しまった!
ついうっかりツッコミをいれてしまった。
くそっ、最近なんだか、からかわれている気がする。
俺は屈辱に思えて、心の中で爪を噛んだ。
すると、ジャージー軍団の一人が、俺に話しかけてきた。
「あの~僕ら、近所の「走れ走れ運動」の者なんですが、こちらでリア充なリアの勇者がいると聞いて、一緒に走れたらと思ってきたんですが・・・」
ほう~、此処にリア充なリアの勇者がいるとな?
一体誰の事だろうか?
「そ、そうなんっすか」
俺はどういう反応をすればいいのか分からず、目を泳がせた。
助けを求めて、俺は陽菜ちゃんやキムタクに視線をロックオンする。
すると何故か、陽菜ちゃんやキムタクまで、俺に注目していた。
「リア充の坂本く~ん。そういうわけだから、一緒に走ってあげてはくれまいか」
安藤、またお前の差し金か!
だいたい俺はリア充じゃないぞ?
あれ?彼女がいる時点でリア充か?
でも俺の場合、ぶっちゃけ腐れ縁で、彼女と言えるかどうかも微妙な女なのだが。
まあ、そんな事を考えていても仕方がない。
このジャージー軍団が俺に向ける視線は、明らかに何か期待している。
もしかして、こいつらも、リアの勇者という事か。
俺はスマフォを取りだし、カメラレンズをジャージー軍団に向けた。
俺、陽菜ちゃん、そして他に勇者は四人いた。
これは明らかに、パーティ組んで走りましょうって事だな。
でもそれは、俺にとっても都合が良いだろう。
なんせこの四人を、敵に回さなくて済むのだから。
「じゃあ、仲間登録しますか?」
俺がそう言うと、ジャージー軍団が集まってきて、みんなと仲間登録、そしてパーティ登録をする事になった。
登録を済ませ、俺たちは良い感じに一体感を楽しんでいたら、安藤がいきなり、自分のスマフォをつきだしてきた。
見ると安藤も、リアを始めた事が分かった。
おいおい、警察官が勤務中に、ゲームしていいのかよ。
でも俺は、そういう警察官の方が好きだ。
仕方がないから、俺は安藤とも、仲間登録をしてあげた。
すると安藤は、大喜びで涙を流しながら、暴言をはいた。
「坂本く~ん。ボクちん弱いから、怖い人が来たら守ってね」
おいおい、警察官が、町の一学生捕まえて、「守ってね」はないだろう。
ほらみろ、道行く犬が、凄く白い目で安藤を見ているぞ?
あっちのおばちゃんなんて、いきなり着ている服を抜きだしたじゃないか。
えっ?なんで?
ああ、服屋で試着をしようとしていただけか。
ビックリさせるなよおばちゃん。
まあそんなハプニングもあったが、俺たちは連れ立って、夜の町へと走り出した。
走りだして間もなく、「走れ走れ運動」の、リーダーっぽい兄ちゃんが話しかけてきた。
「結構速いペースで走るんだね。こんなんで何時間も走れるの?」
俺はぶっちゃけ、今日はペースを少し落としていた。
これくらいなら、キムタクも陽菜ちゃんも楽勝だろう。
だから俺は、素直にそれを伝えた。
「いつもよりも遅いっすよ。キムタク・・・あのじいさんも、小学生の陽菜ちゃんも、もっと速くても大丈夫っすよ」
俺の言葉に、兄ちゃんは少し驚いていたが、すぐに
「じゃあ、いつものペースで走ってよ」
なんて言ってきた。
気を使って、スピードを落とす必要はなかったようだ。
俺はペースを、いつものペースに戻した。
なんとなく、これくらいで走っている方が調子が出てくる。
そう思っているのは、俺だけではなかった。
「お兄ちゃん、今日もいっぱい「ザコモン」倒せそうだねぇ」
陽菜ちゃんは、速く走れて嬉しいようだ。
でも、陽菜ちゃんの言う言葉は、そろそろ違うかもしれないと思った。
「ザコモン」は、プレイヤやパーティのレベルよって、強さが変わってくる。
これだけの面子がそろったのだから、中ボス級のモンスターが、いっぱい出てくるに違いない。
俺は強敵を次々と打ち破る「俺」を想像し、ノリノリで夜の町を疾走した。
夜の九時を過ぎた頃、「走れ走れ運動」の方々は、かなり疲れているようで、ついてくるのがやっとになっていた。
俺はもちろん、キムタクも陽菜ちゃんも、そしてお姉さんも、疲れた様子は無い。
そういえば、最初はみんな、ついて来れなかったかな。
俺、もしかして、めちゃくちゃ体力ついてないか?
そんな事を考えていると、兄ちゃんが話しかけてきた。
「君、陸上部なのかい?この体力、凄すぎるよ」
いや、それを言うなら、キムタクと陽菜ちゃんの方が凄いでしょ。
キムタクはともかく、陽菜ちゃんはきっと、将来オリンピック選手になるのだろうと、俺は確信していた。




