二十六回目
今日は学校で、マラソン大会が開かれる事になっていた。
まったく、何を好きこのんで、ただ走らなければならないのか。
なんて一瞬思ったが、スマフォを持って走れば、「ザコモン」倒しができて、レベル上げができるじゃないか。
俺はスマフォをポケットに入れて、マラソン大会に参加する事にした。
そしたらパーティのみんなも、同じ事を考えていたようで、スマフォを持って参加していた。
一応パーティ登録もして、準備万端。
みんなで意味もなく頷きあうと、マラソン大会という名の冒険に足を踏み出した。
俺はいつも夜走っているようにスタートしたのだが、いきなりみんなついて来れない。
なんだよまったく、体力の無い奴らだ。
いやちょっと待てよ?
前までは、俺は吉田にも佐藤にもついて行けなくて、二人ともマラソンが苦手だというわけではない。
明らかに、俺に体力がつきまくっているって事か。
という事は、みんな夜走ったりして、レベル上げしてねぇのかよ。
まさかとは思っていたが、どおりで「俺」のレベルが、いつの間にかみんなを追い抜いていたはずだ。
とは言え、みんなよりも先に行ってしまうと、パーティから外れるし、かといってこんな遅いペースで走っていると、むしろ疲れる気がする。
俺は知らんぷりをして、みんなを置いて走る事にした。
後ろから「おい、ちょっと待てよ」とか、「直也くんはやい~」なんて声が聞こえてきていたが、俺は聞こえないフリを決め込んだ。
すぐに後ろからの声は聞こえなくなった。
「ふう~」
ようやくいつものペースで走る事ができて、良い感じで風を切る音が聞こえてくる。
それでも、これは陽菜ちゃん達と一緒に走る為に、みんなに合わせたペースだ。
その前は、もっと早く走っていたかもしれない。
俺はドンドンとペースを上げた。
そうそう、このペース。
俺は、いっぱい「ザコモン」を倒している情景をイメージしながら、気持ちよく走っていった。
コースの半分くらいは走っただろうか。
気がつくと前方に、陸上部の奴らの姿をとらえた。
おいおい、俺はどんだけ速く走っているんだ?
このまま走り続けると、優勝しちまうじゃねぇか。
一番で学校に帰ってみろ。
俺はみんなから注目され、当然女子たちからは、チヤホヤされるに違いない。
彼女がいるのに、無用な誤解を生みかねないではないか。
おまえ、俺の彼女のさっちゃんは、怒らせると怖いんだぞ。
でも俺の心配は、取り越し苦労だった。
どうやら陸上部の連中は本気ではなかったようで、俺が近づいていくと、再び俺を突き放して、はるか前方へと走っていった。
良かった良かった。
脅かすんじゃねぇよ。
陸上部は陸上部らしく、ダントツトップで優勝しやがれ。
そんな事を考えていると、今度は新たな懸念が、俺の目の前に存在していた。
どうしてこんな時間に、こんな所にリーマンが集まっているだ?
実は最近俺は、団体行動をしている人達をみると、どうも警戒してしまう。
勇者のパーティじゃないのかと。
言ってしまえば「職業病」だ。
まったく、勇者も楽じゃないって事だな。
俺は、このまま走っていくと、この狭い河川敷の道では、二メートル以上離れられないと考え、一旦近くの木の陰に隠れて、やり過ごす事にした。
その時、スマフォを通して一応確認して見る。
やはり勇者だったか。
危ない危ない。
傍から見たら、俺の行動の方が危ない人に見えるかもしれないが、その辺りは、勇者をやっているのだから気にしてはいけないと、自分自身に言い聞かせた。
勇者たちをやり過ごした後、俺は再び走り始めた。
やり過ごす間に、何人かに抜かれていたが、すぐに抜き返していた。
それにしても、俺はえらく体力がついているな。
本気で走ったらどこまで行けるのだろうか。
俺はちょっと興味がわいた。
たかだが毎日三時間、土曜日は八時間、日曜日は一日中走っているだけで、どれくらい走れるようになるのか、試してみたくなったのだ。
俺は、全力で走る事にした。
呼吸が苦しくなって、自分の息遣いが聞こえてくる。
そう言えば、昔は毎回、こんな苦しさの中で、マラソン大会に参加していたものだ。
なんだかそれが懐かしく感じて、俺は楽しかった。
気がつくと、目の前に陸上部の連中の姿を、ハッキリと捕らえる事ができる所まできていた。
また足を抜いて、いや、手を抜いて走っていたのだろうか。
そう思って近づいていくと、なんだかみんな必死に俺から逃げているように見える。
おいおい、俺はモンスターじゃねぇぞ。
そんなに必死にならなくても。
俺はなんだか楽しくなって、モンスターになりきって、陸上部の奴らを追いかけた。
間もなく、四人いた陸上部のうち、二人を抜き去っていた。
マジかよ、俺、陸上部より速くなってるじゃねぇかよ。
でも残りの二人は、なかなか抜けない。
そう言えば、地区大会では優勝しているとか、クラスの誰かが言っていたな。
と言う事は、俺も出場すれば、それくらい走れるのか?
無いな、きっとこれは冗談に違いない。
良い勝負をしているように見せかけて、最後は突き放して、嘲笑うようにゴールするに決まっているのだ。
道の向こうに、学校が見えてきた。
もう間もなくゴールだ。
前を行く陸上部の二名とは、ほとんど差はない。
あれ?抜いちゃいそうなんだけど。
抜いちゃっていいの?
どうする俺!
今まさに抜いてしまいそうな時、突然俺のスマフォが震えた。
俺は驚いて、こけそうになる。
なんとかバランスを取ってこけるのは回避したが、その間に、必死の形相で陸上部の二人がゴールしていた。
負けたか・・・
って、今「俺」、死んだんじゃね?
スマフォを取りだして確認すると、凄く強いモンスターが、この場所に配置してあった。
俺は少しの間、立ちつくした。
その間に、他の陸上部の二名もゴールし、俺は結局五位になっていた。
ぶっちゃけ、マラソンの順位はどうでも良かったが、死んでしまった事が何だか凄く悲しくて、何故か涙が出ていた。
と言うのは冗談で、ただ普通に目にゴミが入って、涙が流れていた。
それを見ていたみんなは、負けて悔しかったと思ったようで、何故か俺は大声援を受けていた。
俺は恥ずかしくなって、こそこそとゴールした。
くそ!やっぱりマジで走るんじゃなかった。
恥ずかしいは、「俺」は死ぬわで、良いところ無しだった。
更に三日間、みんながパーティに入れてくれなかったり、陸上部の奴らに部に誘われたり、踏んだり蹴ったりだった。
特に陸上部の奴らは、来年の春にある、南北千住マラソン大会に出てくれとか、意味わからないし。
下手に体力がついて、本当にろくな事がないな。
しかしそれも、一千万円の為だ。
俺は苦しくても頑張る事を、新たに決意するのだった。




