二十五回目
今日も、陽菜ちゃんと冒険の旅に出る為に、俺は交番へと向かった。
毎日交番に通う人って、傍から見たらどう思うのだろうか。
冷静に考えると、俺は恐ろしい事をしているのかもしれない。
そんな気持ちがわき上がる中、俺はいつの間にか、いつもの交番に到着していた。
交番の前には、六十歳を超えていそうなジャージのじいさんと、何処かで見た事があるような、スウェット姿のOLっぽいお姉さんが立っていた。
「坂本きゅ~ん。待ってたよぉ~」
おえっ!
日に日に安藤が気持ち悪く進化していくのだが、この流れは止められないのだろうか?
まあそれは軽く無視するとして、一体この二人はどういう事なのだろうか。
ニコニコしながら、俺の顔を見つめている。
こっちのOLっぽいお姉さんに見つめられるのは一向に構わないが、こっちのじいさんに見つめられるのは、ちょっと怖いのだけれど。
とにかくこのままでは埒が明かないので、俺はどういう事か聞こうとした。
するとやっぱり、その前に安藤が話し始めた。
「この二人も、一緒に夜の町を走りたいそうだ。最近物騒で、一人じゃ不安だからね」
物騒なのは、貴様がこんなところで、情報屋なんてやってるからだろうが。
ちゃんと、不審者という名のモンスターを、捕まえにいけよな。
それにしても、やっぱり、俺の予想は当たっていた。
でも、お前ら大人だろうが。
一人が不安なら、二人で走れば良いんじゃね?
なんで俺なんだよ。
陽菜ちゃんと二人も、世間の目が怖かったし、俺にとっても救いと言えば救いだけどな。
よし、一人も二人もかわらない。
「ああ、いいよ」
俺はあっさりとオッケーしたが、よく考えたら、三人じゃねぇかよ。
でも、じいさんとお姉さんと陽菜ちゃんの笑顔を見ていたら、こんな微妙なメンバーで走るのも、意外に面白いかもしれないと思った。
とりあえず俺は、ちゃんとついて来れるのかどうか、様子を見ながらゆっくり走った。
どうやらこのペースなら楽勝のようだ。
ではもう少しペースを上げてみるか。
それでもみんな楽勝でついてきていた。
陽菜ちゃんはお姉さんと何やら喋っていて、小三とは思えない余裕だ。
そんな二人を見ていると、じいさんが話しかけてきた。
「君は、名前なんていうのかな?」
「あ、坂本っす」
「ほう~はらぐちくんかぁ」
いや、ちげえし。
メッサ坂本ってゆったし。
まあ走りながら喋っているから、こっちの声も聞こえづらかったのかな。
でも訂正するのも面倒だし、原口でいいや。
「わしは、木村琢磨ってゆうんじゃ。キムタクって呼んでくれていいぞ。はははは」
なんだかなれなれしいじいさんだが、微妙に面白いぞ。
俺はこういう変なじいさんは好きだ。
「じゃあキムタクで」
俺がキムタクと呼ぶ事を宣言すると、じいさんは凄く嬉しそうだった。
だからだろうか、走りながらも、やたらと話しかけてくる。
「原口くんは、マラソン選手なのかな?」
「いえ、勇者です」
「ほう~それはなかなか大変そうじゃな」
「はい、日々モンスターとの戦いです」
「いつ戦っているんじゃ?」
「今もモンスターと戦っています」
「わしがモンスターと言いたいのか?これはウケル!はっはっは」
「いや、違うんですが・・・」
そんな会話を続けていると、どうやらお姉さんも後ろを走りながら聞いていたようで、興味を持ってしまったようだ。
そこでランニングは一旦休憩って事で、公園のベンチに座って話す事になった。
俺と陽菜ちゃんは、スマフォのゲームの事を話した。
「って事は、モンスター倒す為に走ってるんだ?」
「うん、そうなの!お兄ちゃんと一緒だと、強いモンスター倒せるから、とっても良い感じなんだぁ」
お姉さんに対して、陽菜ちゃんは嬉しそうに話していた。
しかし、ちょっと照れるな。
「お兄ちゃんと一緒だと」とか言われて、鼻が高くなりそうだ。
「アイテムとかは、どうやって集めるの?」
お姉さんの質問に、俺は少し照れていた。
だってこのお姉さん、よく見ると結構綺麗なんだもん。
「えっと、モンスター倒したり、宝箱開けたり、店で買ったり、リアルの店で買い物すると貰えたり・・・」
「へぇ~。お店で買い物すると貰えるって、どういう事?」
お姉さんの疑問ももっともだ。
普通のRPGなら、店での買い物ってのは、ゲーム内での事だ。
このリアルとリンクしたバーチャル世界の中で、どんな買い物ができるのか気になるのだろう。
だから俺は詳しく説明した。
「実は交番が、アイテムショップだったりするんですよ。だから交番前にみんな集まって、売買してるんです。後は服屋とか、電気屋とか、ゲーム会社と提携している店で買い物すると、アイテムが貰えたりします」
俺が久しぶりに頑張って長々と話すと、何かスイッチが入ったのか、キムタクがいきなり、身を乗り出して話しかけてきた。
「わ、わしでも、アイテム貰う事ができるんかい?」
なんのスイッチが入ったのかは分からないが、俺はキムタクの迫力に押されて、再び長々と話した。
「ええまあ。まず店は、このマークのあるお店が、アイテムをくれる店です」
俺はそう言いながら、スマフォに映る、提携店に貼られたシールの映像を見せた。
するとキムタクは、「おお、見た事あるぞ」なんて言いながら、頷きまくっていた。
俺は更に話を続ける。
「その店で買い物をする時にですね、スマフォ・・・これの事ね。これについているお財布機能で買い物をします。千円以上の買い物をすると、自動的にアイテムが貰えるようになっています」
「そうか。お財布ケータイてやつだな。でもそれじゃ、スマフォが無いと貰えないのか?」
キムタクは、やたらと寂しそうな顔になった。
ゲームはやっていないのに、なんでそんなにガッカリしてるんだ?
でもまあ、貰う方法もあるんだけどね。
俺は尚も話を続けた。
「スマフォが無いとアイテムが貰えないでは、店も儲からないので、買い物した時に「アイテムチケットください」って言えば、番号の書いてあるレシートが貰えます。その番号を、後でスマフォで登録すると、買い物したのと同じように、アイテムが貰えます」
キムタクの顔は、何故か輝いていた。
そんなにアイテムが欲しかったのか?
俺はこの時、キムタクの本意が分からなかった。
だけど、横で話を聞いていたお姉さんは、それが何やら分かっているようで、終始ニコニコしていた。
この後も俺たちは、町中や公園を走った。
途中、あのトレードした兄ちゃんとすれ違ったが、俺のスマフォが震える事はなかった。
どうやら又、やっちまったようだ。
悪いけど、俺かなり強くなっちゃってるから。
こんな感じで、楽しくみんなで走った後、夜の十時前に、今日のランニングは終了した。
って、だんだん何の為に走っているのか、分からなくなってきたよ。




