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95話 勝利条件

 商会と今後の作戦を立てることにした。しかしプレーズはまだ話し合いに完全に乗り気になったわけではないようだった。


「そもそも金帝を殺すことができるビジョンが見えないのですが、本当に勝機はあるのですか?」


 確かに勝機が見えないというのは分かる。金帝は祝福を重ね掛けした化け物だ。その強さについては実際に対面した俺が一番良く理解している。

 これまでしてきたようなギフテッドの祝福をルーザーの呪いで中和して攻撃を入れる、持影係数比べの勝負では勝ち目が無い。

 持影係数比べの勝負”では”。


「俺は石神に会って一の呪いの使い方を教えてもらった。だから一の呪いの力を開放すれば相手の持影係数を無視した攻撃ができる、と思う。やったことは無いからわからないが」


 ソレイユが『開放』という言葉にぴくりと反応し、不安そうに俺の顔を覗き見る。


「......それを今使ってみるというのは出来ないのですか?」


「出来ない。使うには準備が必要だからだ」


「使ったこともないのになぜそんなことが分かるのですか」


 じっとソレイユを見つめる。ソレイユは引き下がらない。

 ソレイユが聞きたいのは多分そこではない。

 俺が力を開放するということに忌避感があるのだろう。だからできるだけそれを使ってほしくない。


 でも俺は使う。そこは譲れない。


「俺は呪いを自在に操り相手に植え付けることができるようになった。そのためには自分の体の中に呪いを蓄える必要がある。だから今は出来ない」


 付け加える。


「前のようにはならない。大丈夫だから」


 石神の姿、鬼殺しの沼の骸の姿。脳裏をよぎる姿は、とても大丈夫とは言えないが。


「......分かりました」


 ソレイユは不服そうだったが頷いてくれた。

 俺はプレーズに向き直り、今回の作戦の目標について説明する。


「俺たちの勝利条件は二つ。一つ目は、俺が金帝に一撃入れること。これについては......まぁ、後で考える」


「これ、自分たちにしわ寄せが来るのでは?」

「ダク君そういうところあるからね」

「僕、真正面から金帝をどうにかできる気はしないですよ......? できるだけ無茶振りはしないでほしいです......」


「と、に、か、く! 一つ目はどうにかするとして! 二つ目は、俺をある場所に連れていくことだ。そこに行って俺は金帝を殺すための準備を整える。この喧噪の中を、傭兵の手をかいくぐりながら、目的地まで行かなくちゃならない」


「無理だろ」

「傭兵はちょっと......数が多すぎてどうにも......」

「ラスコくんって結構、暴力で解決しようとするよね......もうちょっと、あるじゃん? ほら聖女ちゃんパワーで何とかするとか」

「え!? 私が頑張るんですか!?」


「聖女の求心力が使えればよかったんだが、もうそれは使えない。そうだろう?」


 プレーズが頷く。


「そうですね......前回、聖女の力を使って商人と大地教、それに傭兵の目を引き付けましたが、その手はもう使えないでしょう。あの商談の場でレジスタンスは一度取引を反故にしています。いくら聖女の力が魅力的とはいえ、信用を失った人間と商人が取引することはありません」


 プレーズは強くそう言い切る。商人の世界では信用が一番というのはよく言われていることだ。

 彼女は溜息を吐きながら付け加える。


「それに傭兵は前回の比ではないほど増員されています。その目をかいくぐって金帝の居場所までたどり着くことはほぼ不可能でしょうね」


「増員?」


「えぇ。一度襲撃で館に押し入られたからでしょう。今の金帝は襲撃にとても過敏で、警備と呼ぶには過剰なほどの傭兵を増員しています」


「......だいたい何人ぐらいか分かるか?」


「商会できちんと調査したことはありませんが、この数日で総員は1000人に達したとか、達していないとか......」


「1000!?」


 いくら何でも過敏すぎやしないか?


「ちょっと待て。この世界の人口は何人だ。俺は眠っていたから把握していないんだが、そんなに易々と人が雇えるほど人口が増えたのか?」


「10万人ほどだとされています。ダク様が生きていた昔から考えれば増えたとは思いますが......」


 それでも10万......

 軽々と人を雇えるほど多いとは言えない。

 不自然だ。


「そもそも傭兵になりたい人間がそんなに居るものか?」


「募集を大々的に始めたのは聖女が逃げ出したのを知ってからです。食べるものに困ってどんな仕事にでも手を出すしかない人々と需要と、有り余る貯蓄を持った金帝の供給が合致した結果なのでしょう」


「......」


 ......なるほど。

 悪逆非道の金帝の考えそうなことだ。

 金帝の狙いが完全に読めた。

 これなら──


「感謝する、プレーズ。方針が決まった」


「え?」


「これで目的地まで行ける目途が立った」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ワイはニック。貴族領の参謀にして、この世界随一の天才にして、いずれ天下を取る男や。


「うひひ」


 そしてこいつは金帝、デモートリュース。この土地の領主にして、この国最強の持影係数を持つ男。ワイが仕える相手や。


「ゴキゲンなとこ悪いっすけど、最近、傭兵増やしすぎでは?」


「今なら傭兵を買うのがお買い得って言ってたのはお前だろうがよ~」


「いくらお買い得ってもやるべきことは早めにやるべきっすよ」


「あぁ~国取りのことか~。もうちょっと待ってからの方が良いと思うんだよなぁ~。お前も分かってんだろ~そのくらい」


 分かってんねん。そんなことは。

 唯一王の失脚、聖女の逃走、この国全体で大混乱が起きとる。

 どこも貧困で食料の値段は急上昇。逆に食料を手に入れるために使える体力だの他の物資の値段は急降下。財力に余力のあるワイらはやりたい放題や。

 国を取るのも難しくはないが取ったら取ったで治安の維持が求められる。そん時に治安維持ができなくて責められるのはワイらや。今はヘイト管理のためにも攻め込まん方がええ。

 分かってんねん。


「今は傭兵でもなんでも買いたい放題! 使いたい放題! どんだけこき使われようがどんな用途で使われようが文句も言えん!!」


 口角がニタァっと上がっていく。


「もはや一種のど・れ・い──おぉっと口がすべったぁ~」


 俺たちは手段を択ばない。目的のためなら。

 でもこいつの目的は俺とすべて同じではない。


「いつか背中とか刺されてもしらないっすよ」


「その時は治せば良いだけじゃん。そんなんじゃ死なないよ」


 言っても聞かへんみたいやな。

 どうなっても知らんで。


 ガチャリ


 扉を開けてビビる。


「お、お前......」


「裏切りが起きても大丈夫なんて臣下の前で言うべきじゃないと思うが」


「なんでここに......」


 目の前にはアイツがおった! 生意気なガキや! 唯一王の兄!!

 傭兵は何やっとんねん!? なんでここにおるんや!?


「ちょっと用事があってな。それを済ませたらまたここへ来る。その時は金帝を殺す」


「ちょ、ちょまてや!!! お前、どうやってここまで!!!」


 あ、アカン! あいつ聞く耳持ってない! このままどっか行く気や!!!


 唯一王の兄とすれ違いざまに傭兵の一人がこっちへ走ってくる。


「大変です! ニック様!! 傭兵たちが離反を起こしたようです!!」


「はぁッ!?」

無題


世界を変えたいとか大それた欲望も持っちゃいますよそりゃあね。

だってできそうなんだもん。


貴族領領主邸宅の一角にある日記より

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