73話 呪いと祝福を産む場所
見事なまでに館の中から人は消えていた。
たまに見張りに出会うが......
「うらァッ!」
リバーの片手間の一撃で倒れてしまう。
「こいつもギフテッドじゃねぇのか。つまんねぇ」
つまんねぇ、という言葉には同意できないが、思っていたほどの手ごたえがないということは自分も感じていた。
そしてそれと同時にある一つの疑問が次第に大きくなりつつあった。
「3の祝福を持ったギフテッドを産む方法があるというのは噓だったのか?」
ギフテッドを人工的に産む方法があるのであれば館の中を守る見張りがギフテッドでないのはおかしい。あの話は噂に過ぎなかったのか?
そんなことを思いながら探索していると地下に続く道を見つけた。中はとても暗い。
「ふわぁ」
前方に見張りが見える。この暗さの中で見張っているかどうかは定かではないが。
「寝てろ」
「ごふっ!」
見張りはこちらに対応する間もなく倒れてしまった。
俺たちは奥にある扉を開く。半分扉を開けたところで、その異様さに気が付いた。
「臭い」
「吹き溜まりでもここまでじゃなかったぜ」
濃厚な呪いの臭い。今まで嗅いだ中で一番臭いと感じた、宵橋教会の地下よりも生臭い。吐き気がする。
「ここは......」
だんだんと暗さに目が慣れてくる。ほのかな明かりがその中に何があるのかを見せた。
そこでは幾人もの人がうずくまっていた。
よく見ると彼らは何かを手でもんでいるようだった。それが動物の皮だと分かったのはそれから少ししてからだった。
部屋の中に押し込められた人は同じ体制のまま、動物の皮をもみほぐしていた。
すでに、俺の内側からはふつふつと熱いものがこみ上げていた。
俺はしゃがんで皮をもむ女性と目を合わせる。
「君はここで何をしている?」
「え? あ、誰、ですか?」
「俺はレジスタンスのダクだ。貴族領の領主を倒しに来た」
「りょ、領主?? あ、えっと......」
「君はどうしてここでこんなことをしているんだ?」
いきなりレジスタンスと言われても理解できるわけもなく、女性は動揺していた。俺は動揺した女性に話を聞くため問いかけた。女性は枯れた声で状況を説明し始める。
「ここで領主様に働かせてもらっているんです」
その声から領主に対する不満などは一切読み取れなかった。ただ沈んでいた。ただただ黒く重い。
絶望。
「何のためにここで働いているんだ?」
「何のため......? アンプルをもらうため、ですかね。ここで働く代わりにアンプルがもらえることになっていますから。働かずにここを出ていくこともできますが、アンプルがなければ死ぬしかないので」
アンプル。食事が食べられなくなる三の呪い。食事に代わり栄養を取り入れるために必要なもの。
つまりここにいる人は三の呪いを持ったルーザーである。
「殺すか?」
リバーが唐突に発したその一言。
「ルーザーごときが今更生きててもしょうがねぇだろ」
驚きはなかった。「ルーザーごときが」という言葉はあまりに言葉足らずだが、言いたいことは分かる。わかってしまう自分が嫌だが、それも一つの選択肢であると思ってしまう。
多分、この人たちの生活に未来はない。三の呪いは上位の呪いだから努力によって影響を抑えることはできないとされている。俺はどうやら例外みたいだが、そんな俺でも未だ食事をとることは出来ない。
一生アンプルが必要になる。それをネタにこき使われるしかないのなら、いっそここで命を絶っておくのも一つの選択肢だろう。幸いというかなんというか、隣にいる火力バカなら痛みすら感じる間もなく死ねるだろう。
「それも、良いかもしれませんね」
暗闇の中に明かりがバチバチと光る。
「ですが」
ぽつりとこぼす。
「息子はどうかここから救ってください」
座ったまま首を差し出すように頭を下げる。
その一言ですべてが分かった。
三の祝福を作り出す方法。否、この女性たちに三の祝福を差し出させる方法。
その非人道的で、吐き気がするほど合理的な方法を。
俺が明確にこの世界から消さなければならないと思ったものはこれまでに二つある。
一つは、この世界を取り囲む魔獣。
そしてもう一つが、ここの領主、金帝だ。
金帝は必ず殺さなければならない。
俺はリバーを制止する。
「このまま死なせるのは違う気がする」
「は?」
「この屋敷からアンプルを奪って、ここの人を開放する」
「馬鹿か? それ意味あるかよ?」
「それからのことはそれをしてから考える。今の状況じゃ、領主の思い通りだ。この選択肢は領主に制限されている。自由じゃない。自由に選べる状況になってから選ぶべきだ」
「まァ、どうでも良いか」
祝福の光が収まる。
「あの、私はどうなるのでしょうか......出て行ってもどこにも行く場所なんて......」
「またここに戻ってくる。その時、死にたいか生きたいかを聞くから、その時どうしたいか決めると良い」
俺はそう言って部屋から出た。
そこに人が立っていた。人が居ると思っていなかったので、慌てて身構える。
しかし、そこにいたのは見知った顔だった。
「どうしてここにお前が居る。ハタヤ」
「ダク君......」
ここでハタヤを見たくはなかった。
「お前がなぜここに居る? お前はここがこういう非人道的なことをしていることを知っていたのか? お前はここの人間の味方なのか? 何も思わずにここに居られるのか? この状況をどうにかしようとは思わないのか? お前は──」
ダメだ。聞きたいことが多すぎる。
頭を手で押さえながら聞くべきことを整理していると、ハタヤが口を開いた。
「そうだよ。俺はここに居る人間が何をしていたかを知っていた。それでいて、ここで行われていることを止めようとしてこなかったんだ。」
罪を認めた。
そのことに怒るよりも先に、その姿があの時のセイと重なってしまった。
塔の上で疑問をぶつけた時のセイ。俺の言葉を否定しようともせず、自分の非を認めたあの時のセイの姿。
「ハタヤ──」
声をかけようとした瞬間、隣で祝福が弾けた。
「『陣影・降神爆誕』」
リバーはタケミカヅキを手にはめて、両手を合わせた。
石畳に祝福がいきわたり、ドクンと鼓動するように動いた。
ハタヤが懐に手を伸ばす。
「はぁ!?」
「アガって来たぜ!! ようやく殺りあえる!!」
ハタヤはその圧倒的な威圧感に考えることをやめた。相手がやってくるより前に懐から爆弾を取り出して、両手を合わせるリバーに投げた。
「その攻撃はもう見たぜ?」
リバーは爆弾を素手で受け止めた。
次の瞬間、爆弾が破裂する。しかし、その爆風は彼の拳の中を出てくることはなかった。爆弾ごとくるむように圧倒的な持影で握りつぶす。
「嘘、だろ」
「おいおい、こんなもんかよ。がっかりさせんじゃねェぞ」
俺は、迷っていた。
迷っていたが声を上げた。
「待て!」
「あ?」
「待ってくれ。ハタヤを倒すのは今じゃない。まだ聞かなきゃならないことがあるんだ」
リバーはこちらを向くと、俺の胸倉をつかんだ。
「勘違いするなよ。俺はお前の仲間じゃねェ。ここに来たら強ェやつと戦えるってお前が言ったんだ。だから来た。さっきのルーザーは弱ェからどっちでもよかったが、こいつはまだマシだ。お前が俺を止める権利は無ェ。代わりにお前が戦うなら話は別だ」
「それで良い。確かにその通りだ。俺が戦う」
リバーがにやりと笑った。
「待ってくれ!」
ハタヤが叫ぶ。
「強いやつを紹介すればいいんだろ? ここで一番強い人間を俺は知ってる! そいつと戦う気はないか!?」
その言葉にリバーが食いついた。
「そいつは俺より強いのか?」
「わからないけど、多分...... せめてもの罪滅ぼしだ。案内するよ」
リバーは俺の胸倉を離し、ハタヤについていく。
案内するハタヤの背中には迷いがあるようで、俺はその迷いがどういう意味なのか分かりかねていた。
無題
子供を人質に取ってお金では買えない祝福を手に入れる。
この世にある仕組みの中で一番合理的な仕組みだ。
この方法を考えたやつはきっと天才に違いない!
一体、誰が考えたんだ!?
俺だよ。
貴族領領主邸宅の一角にある日記より




