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72話 第一作戦

 太陽が真上に昇る頃、作戦の開始を告げた。

 俺たちは二部隊に分かれて行動する。片方は俺を含め、ナキ、指近衛のリバー。もう片方はソレイユ、聖女のアリーシャとお付きのラスコだ。大地教の目を盗んでラスコの家から作戦の開始場所に行く。

 ナキは別地点で待機しているのでここに居るわけではないが、ちゃんとここが見える場所には居る。


「まだ待たなきゃなんねェのかよ? イライラするぜ」


「もうちょっと待て」


 リバーが物陰に身を隠しながら歯ぎしりしている。その様子を見ながら俺はにやりと笑った。


「もうすぐ面白いものがみられるぞ」


――――――――――――――――――――――――――――――


 私たちはダク様の指示通り金帝のおひざ元にやって来た。途中、大地教の人々に見つかりそうになることも合ったけれど、アリーシャさんの顔に黒いベールを被せていたこともあり、なんとかここまでやってくることができた。


「ここで私は具体的にどうすれば良いのですか」


「そうですね......」


 私はダク様に言われたことを思い出す。


『まず、アリーシャ達は金帝のおひざもとに行ってほしい。そして商人たちから生きた家畜を買い取れ。値段はいくらでもいい。何なら商人に有利すぎる方が良い。うさん臭く思われるぐらい高値で買い取ってやれ』


 目の前に見えたのはひよこ売りだった。


「あのひよこをこれで買ってきましょう」


「これで、って......これで!? これ、家一軒買える金額でしょ!?」


「そうですね。レジスタンスの全財産です」


 私はアリーシャさんに懐から出した全財産を渡した。ダク様が『いくらでもいい』というならつまりそういうことだ。アリーシャさんは困ったような顔をして受け取った。


「これで、ひよこを一羽買わせてくださる?」


「あぁ、え? あ!? これ、え?? 嬢ちゃん出すもん間違えてるぜ!? いや、は!?」


 商人の人が立ち上がってもらったお金を凝視している。その様子を見て周りにいた商人たちもチラチラとこちらを見ているのが分かった。

 よし。一人で小さくガッツポーズ。

 私はぼそりと呟く。


「一段階目は成功ですね」


『商人たちは目ざといから、騒ぎが起こればすぐ気づく。商人たちが気づけば、まず第一段階は成功だ』


「そして、さも当たり前の行為をするように──」


 ダク様の言葉を復唱しながらラスコさんに目配せをする。ラスコさんはこくりと頷き、ナイフを取り出した。


「良いですか?」


 ラスコさんがアリーシャさんに向かって尋ねる。アリーシャさんはふーっと息を吐きだして、何やら覚悟を決めたようにきりっとした表情を見せた。


「私がやります」


「っ!?」


「私に、やらせて下さい」


 ラスコさんは渋々ながらこくりと頷いた。

 アリーシャさんはナイフをラスコさんから受け取る。手は若干震えていた。彼女は震える手でひよこを抱えた。そのタイミングでラスコさんが彼女の顔にかかっていたベールを脱がす。

 白く見えるほど輝く金髪が人の目を否応なしに引き付ける。何人か、ほんの数名だけど、その顔を見て彼女が何者であるか理解したようだった。


 ナイフを腕につつっと突き立てる。歯を食いしばりながらもちゃんと血は流れ出た。血のついたナイフをひよこの前に掲げると、ひよこは吸い寄せられるようにそれに近づき、ぺろりと一なめした。


「ぴ?」


「わわっ!?」


 ひよこはむくむくと膨れ上がる。片手で掲げていた彼女はすぐに持ち上げることが難しくなって両手で抱きかかえた。すぐに立派なにわとりになる。そしてもう一なめ。今度は彼女の腕の切り口から直飲みする。

 にわとりはプルプルと震えた。そして卵を産み落とす。


「あっと!!」


 生まれた鶏の卵がそのまま地面に落ちそうになる。ラスコが手を伸ばして受け止めようとしたが、それでも間に合わなかった。


 卵が割れた。中からはひよこが出てきた。

 そこからは早かった。生まれたひよこが地面に垂れた血を飲んで大きくなっては卵を産み、中からはひよこが産まれた。足の踏み場もなくなって羽毛がバサバサと空を舞った。

 商人も私たちもただその光景を黙ってみていた。


 アリーシャさんはその中をよいしょと抜け出た。両手には最初の一羽のにわとりを抱えていた。


「この鶏を先ほどの金額で買い取っていただけないでしょうか」


 ごくりと商人が唾をのむ。


『普段なら絶対に成立するはずのない取引だ。でも、この衝撃的な光景を見た後なら感覚がマヒする。たとえどれだけ高い値段の取引だったとしても、この取引は成立する。なぜなら、ここで欲を張るよりも目の前の聖女との繋がりの方が何十倍も大切だからだ』


 商人はじゃらりとお金の入った袋を差し出した。


「ありがとうございます」


 驚くほどうまくいっている。私もダク様の言葉でなければ信用していなかった。ダク様の言葉でなければ最初にレジスタンスの全財産を賭けられなかった。それほどまでにこの取引は無謀に聞こえた。


「第二段階もクリアです」


 これならもしかしたらここからの展開もうまくいくかも......


「それでなのですが」


 アリーシャさんが商人に声をかける。

 気が付けば他の商人も遠巻きにその姿を見つめていた。


「私は現在、大地教の人々に狙われています。どうか少しの間、匿っていただけますでしょうか」


 商人はそう言われるなり辺りを警戒し始めた。確かに大地教の人々がその光景を見てそのことを伝えるためにどこかに行くのが見えた。


「任せんさい! やんな! みんな!?」


「おう!!」

「もちろんやで!!」

「嬢ちゃんの頼みや! 死んでも守ったる!!」


 面白い具合に食いつく。


『商人たちは商機を逃さない。彼らにとってアリーシャは最上級の金づるだ。ここまで金帝の牙城を築いた実績があるからその重要性を理解している。その金づるを手に入れることができたら、いずれは自分も金帝になれるかもしれない。そう思うだろう。大地教の人間がそれを奪おうとしている今の状況は()()()()()


 商人たちが私たちを誘導する。

 そしてその途中でその出来事は起こった。


「大地教の人間たちだ!! 徒党を組んでやってくる!!」


「死んでも奴らをここに通すな!!」


『途端に暴動がおこるだろう。金帝のおひざ元の商人たちと、聖地にのさばる大地教の教徒の大合戦だ』


 すべて言う通りになった。

 読み通りだった。

 すごい。

 あの月光のデートの日から、団長の死や、団員の脱退を経て、ダク様は驚くべき速さで成長している。人の心を読むのが得意になったし、それを手に取るように操ることができるようになった。

 きっとこれが彼が本来持っていた王としての素質なのだろう。

 本当に、

 彼に付いてきてよかった。


 これなら最後のこちらの役目も成功する。


――――――――――――――――――――――――――――――


「見ろ、状況が変わり始めた」


 指さす先には慌てふためく傭兵の姿があった。


「おい!!! 何がどうなってる!?」


「いや、おひざ元の方で暴動が......何やら聖女が現れただのどうだので......」


「聖女!? 養豚場は!? いや、そんなことより制圧だ!? 全兵終結!! 直ちに暴動の鎮圧に迎え!!」


 傭兵が慌てながら最低限の館を守る兵を残してその場を離れる。

 守りが堅かった館も今ではすっかりもぬけの殻になってしまった。


「どうやら作戦は成功したみたいだ」


「つまんねェ。お前、俺とここで戦わねェか? そっちの方がよっぽど面白そうだ」


「まだ本命が中に残ってるだろ?」


「これで金帝が強くなかったらマジで殺すからな」


 俺たちは堂々と正面から館に押し入ることができた。

聖女


金帝の養豚場には聖女が居るとされている。彼女は四の祝福を持っており、金帝のためにその身を削って働いている。大地教はその姿を尊く思っており崇めている。


ある男の手記より

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