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70話 結託

「会いたかったぜェ!! ダク様ァ!!!」


「指近衛......!」


 最悪のタイミングだ。やっと光明が見えたと思ったら最悪の形で閉ざされた。

 俺が呪いを使おうとしから位置がバレたのだろう。どうやったのかは分からないが。


「さぁ、この場で一番強ェ奴は誰だ?」


 ギロリとあたりを見渡し、俺の対戦相手を見つけて眉をしかめる。


「まさか、お前......」


「覚えていて頂けましたか。私、大地教の教皇をしておりますヒトバシラ=ツグトと申します。指近衛様の前でこう名乗るのは恐縮ですが、巷では教帝とも呼ばれております」


 ジッと見つめる指近衛の男と目をパチパチとさせる教帝。一見して教帝が指近衛にオドオドしているように見えるが、実のところこの男は指近衛を恐れていない。

 その証拠に、指近衛の前で教帝という言葉をはっきり口に出している。教帝という言葉は「唯一王から権力を持つことを認められている。認めざるを得ないほど唯一王にとって脅威となる存在である」という意味を持っている。それを指近衛に言えるということは指近衛を恐れてもいないのだ。つまり弱者のふりをしているだけ。何が恐縮だ。


「とてもとても、指近衛随一の武闘派で知られるリバー様には(かな)いませんよ」


 嘘くさい態度。たとえ武力で適わなかったとしても、この男は強い。


「チッ......お前みてェな奴は嫌いだぜ。俺が殺せないのをわかって言ってンのが最高に腹が立つ」


 多分、大地教の教皇をここで殺すことは出来るのだろうが、殺せば数多の部下が動くのだろう。殺した時点から国家転覆までのカウントダウンが始まる。だから殺せない。


「あーあ、興が削がれちまった」


 俺はこの男の言動にほんの少しだけ感心していた。目の前の相手にならどんな状況でも殴り掛かる戦闘狂だと思っていたが、戦っていい相手とそうでない相手はわかるらしい。相当不服そうだが。

 待てよ。

 それが判断できるのであればもしかしたら......


「潰すわ。教皇以外は全員この場で潰す。そうすれば『全員やろうと思えば出来た』って言えるから、俺が最強だ」


 リバーが拳を振り上げる。


「待て」


「あ?」


「お前は一番強いやつを倒したいんだよな?」


 リバーの拳が止まった。


「俺はこれからある奴と戦おうとしている。そして俺がその相手を倒せるかと言われれば、現状では難しい。そいつを倒せば、俺よりもそいつよりも強いことになる。違うか?」


「で、そいつは誰なんだ」


 リバーの向こう側にいる教帝の目が丸く見開かれる。この状況が予想できていなかったみたいで驚いている。


「貴族領の領主、デモートリュース。金帝だ」


「......は????」


 拳に込められていた祝福がふにゃふにゃと抜け落ちるのが分かった。リバーの思考が追い付いていない。

 教帝はこの状況が面白いと思っているのかにやにやと笑っている。


「いや、金帝って、そりゃ無理だろ。御屋形様も戦ったらダメだって言ってたぞ!」


「それはデモートリュースがこの世界の食肉の流通の全権を握っているからだ。それがなくなった今、金帝を倒すことができない理由はない」


「なくなったってお前、まさか......!!」


 俺は聖女に指をさし、リバーにこくりと頷いた。

 リバーの口の端が緩む。にやりと笑っている。

 こいつが戦闘狂でいてくれてよかった。


「それって......マジか。うぉぉおおおお、アガって来たゼ......!」


「何ならセイに聞いても良いぞ」


 ソレイユからタケミカヅキを受け取り、ちらつかせる。


「これがあればセイと話せるんだろ? 俺はまだそこまでは出来ないけど、お前からこれを奪った時に確信に変わった。お前らは宝具を通してこれを作ったセイと話すことができている」


 リバーがにやりと笑う。おそらく正解ということだろう。


「交換だ。お前が奪った牙とこれを交換しよう。そしてお前は一時的に俺と同盟を組み、金帝を倒す。それで良いか」


「それは──」


 リバーが牙を俺の方に放り投げ、タケミカヅキを手繰り寄せる。


「御屋形様がそうしろと仰せなら、それに従うぜ」


 タケミカヅキを指にはめる。


「良いってよ」


 あっけらかんと言い放つ。契約は恐ろしいほどスムーズに取り付けられた。

 一連のやり取りを見ていた教帝がちょっと待ったと横に入る。


「えっと、水を差すようで申し訳ないのですが、その聖女をもとの場所に返せばまだ戦いは避けられるでしょう? そういうことをしようとは思わないのですか?」


「なっちまったもンはしょうがねェわな。今更後戻りもできねェよ」


「まだできるって言ってるんですけどね......」


 教帝は呆れたように首を振った。どうやら話が通じないことが分かったらしい。


「ではこれ以上僕は関わらないことにしますよ。どうやら、この話は僕が思っているよりもあまりに大きすぎるようです」


 教帝は自分の手に負えないということを理解するや否やそそくさと帰っていった。レジスタンスだけなら勝機はあると思っていたようだが、指近衛が加わった時点で戦力が足りないのは明白だ。


「さて、と。それじゃ作戦会議をするか」


「あの......」


 ラスコが恐る恐る手を挙げた。


「もしかして、先ほどの金帝を殺すというのは本当に行うんですか......?」


「そうだ」


「本当に......?」


 確かに現実離れしているといわれれば現実離れしている。相手はあの三権の一人だ。


「覚悟はできてなかったか?」


 だが、ラスコは聖女を助けるためならなんだってやると言った。

 俺はその言葉を信じている。

 ラスコは覚悟を問いかける俺の言葉をかみしめ、深く頷いた。


「いえ、やります。僕の命を預けます」


「良いねェ! 肝が据わってるやつは好きだぜ! まぁ、弱ェなりに頑張りな!!」


 ゲラゲラ笑いながらリバーが背中をたたく。

 俺たちは作戦会議のためにラスコの家に再び戻ることにした。


―――――――――――――――――――――――――――――――


「リバーがダクと共に金帝を倒すそうだ」


「はぁ!?!?!?!?」


 黄泉の棟の最上階にハートの大声が響き渡る。


「それをお許しになったので???」


「あいつがそうしたいと思ったのならそれでいい。それに......」


 唯一王の表情にふわりと幼さの面影が映る。


「兄さんにできないことなんてない」


「はい?」


 ぼそりとこぼれたその言葉はハートの耳には届かない。すぐに幼子は唯一王に戻った。


「それにこれでリバーへの疑いは晴れた。もとよりリバーを疑ってはいなかったが、もしもやつが『そう』ならここで疑われるような行動はとらないだろう」


「疑い......ですか」


 ハートは何の意味か分からず、頭の上に疑問符を浮かべる。


「レジスタンスの侵入。宝具を奪われこそしなかったが、あまりに手際が良すぎた。おそらく内部の構造を知っていたのだろう。もしかしたら指近衛の配置から役割まで知っていた可能性がある。ここの中に入ることができるのは限られたものだけなのに。それ以外にもやつらは多くの場面において知りすぎていた」


 ハートの顔が青ざめていく。


「つまり、ここには内通者が居る」


「わ、私は決して内通者などではありません! 胸に誓って!!」


 唯一王はその宣言を鼻で笑った。それは誓うという行為がとても信じられないものだったからか、それとも裏切るわけがないと知っているからか。

 どちらにせよ、内通者が居るという彼の確信はその一言で揺らぐことはなかった。

リバー


指近衛の一人。豪胆にして豪快。指近衛髄一の武闘派であり、その実力は戦闘センスだけなら唯一王に勝るとも劣らないと言われている。強いものと戦えればそれでいいという独特の価値観があるため、指近衛でありながら唯一王の指示を無視することがある。


ある男の手記より

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