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41話 呪いが強まる条件

 リブリースがダクを貰うと宣言してはや三日。ダクは必死にリブリースの説得を試みた。


 検査。

 検査。

 検査。


 のらりくらりとかわされて、呪いを最大限まで出せだの、どれくらい眠らなくても耐えられるのかだの、体を酷使するような検査ばかりをさせられていた。弱みを握られているダクは無論それに逆らうこともできず、検査が終われば疲れてベッドに倒れ込む日々を過ごしていた。

 窓から朝日が差し込む中、ベッドであぐらをかきながら頭を掻いた。


「ダメだな......説得できる気がしない」


「誰を説得できる気がしないって?」


「うぉあっっ!?」


 後ろに立っていた。扉が開いたのには気が付かなかった。気配を殺すのが上手いのか、いつも背後を取られているような気がする。


「今日も検査か? ......あまり辛いものは嫌なんだが」


「そう言いながらもやってくれるんだろう? まぁ、今回は辛くはないさ。君が何を考えているか......心の検査をしようか」


「心の検査?」


 リブリースがニッと笑う。


「デートをしようか。付き合ってくれるかい?」


「デ、デート?」


「いや、すまない。そう言えば君の生きていた頃には無かった単語だったな。二人で同じ場所に行き、同じ体験をして、心を通わせるということだ」


「それなら全く構わないが」


 あの言い方だと何か他の意味があるような気がしないでもない、とダクは(いぶか)しんだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 ダクはリブリースに連れられて階段を昇る。この洋館の一番高い場所、展望テラスに連れてこられたダクは、外の風景を見て絶句した。


「知っているだろう。これは君の時代にもあったはずだから」


「......あぁ。でも見るのは初めてだ」


 その風景には綺麗に横一線が引かれていた。線から手前側は綺麗に整備された農場。しかし奥側は全く違う。

 荒れた大地に黒色の粒がひしめき合っている。その粒ははるか遠くでそれぞれ動いたり止まったりしており、まるで虫がぎゅうぎゅうに虫かごに詰め込まれているような見た目に生理的嫌悪感が沸いてくる。


「この国は円形状に出来ている。その円の境界線があそこだ。この円の中には人が住み、外には魔獣が棲む。魔獣が国のこちら側に来ないのは母なる大地のおかげ。もとい、この国の大地が微弱な祝福を宿しているからだ。しかし、この魔獣が時折、母なる大地に侵略してくることがある。魔獣たちは浄化されて死にゆく屍を踏みつけて、死体の山を積み上げながら母なる大地を踏み荒らす。その目的は分からない。目的は分からないが──」


 リブリースは黒い粒の大群を睨みつける。


「人類の敵であることは絶対に間違いない」


 知っている。

 嫌と言うほど知っている。


 父は昔、祝福と呪いの研究に国家の予算のほとんどを費やしていた。それは他でもない魔獣に対抗するためであった。その研究を進めるため国民に重税を敷いた結果、一揆が起きた。父は死んだ。セイは残ったが、そこからの苦難の道は想像に難くない。

 そして現在でもその問題は解決していないらしい。魔獣が居ることによってこの国は人口を支えるだけの食料を育てることが出来ないでいる。だから慢性的な貧困に悩まされているということだろう。


「この国を救うためには、あの魔獣たちを倒すしかない」


「ほう。あの膨大な数の魔獣を全て倒す、と?」


「あぁ」


「馬鹿げているな」


「出来るかどうかの話はしていない。しなくちゃならないと思ったんだ」


 ダクは拳を握る。呪いがにじみ出る。


「......やはり君をここに連れてきたのは間違いではなかったようだな」


「......?」


 リブリースはダクの拳を見つめていた。


「ダク、検査で君に最大限まで呪いを出させたね?」


「あぁ。あれは......かなり疲れた」


「まぁ、倒れるまで出させたからね。でも今、君がその拳から零した呪いはその時よりも濃いものだ」


「え?」


 ダクは掌をまじまじと見る。すでに呪いは漏れ出していないが、確かに呪いの残り方がいつもよりも濃い気がする。


「で、これではっきりしたんだが、君は無意識的に出す持影の量をセーブしている。下位の呪いだけでなく、普通弱めることができない上位の呪いでさえも抑えていて、おそらくそれが一日に四時間以上起きていられる理由だろう」


「なるほど......」


「ここからが本題だが、君が呪いのセーブを外すには条件がある。で私の心理プロファイリングが正しければ、条件は『君が心から呪いを出すことを望んでいる時』だ。私に言われて出した時に出せた持影係数はせいぜい-7といったところだろう。今のは-8弱はあったんじゃないか?」


 リブリースは手を握って顔を接近させる。ダクはのけ反る様に距離を取る。こういうことをする時、リブリースが何をしてくるかを知っているからだ。


「君が心から望んでいること。ソレを想う時、君は力を発することが出来る。ソレは何だ? 君は自分がするべきことが何かを知っているはずだ。でもそれを直視しないでいる。本当は分かっているはずなのに」


 心がざわつく。


「君が答えないなら私が代わりに答えてやろう。それはこの世界に居る全ての国民のことだ。全ての国民を助けたいと思う時に君は力を発する。自分の父親を殺した復讐心が高まった時でもなければ、君の唯一の肉親である弟を助けたいと思う時でもない。それは普通の良心ある人間の思考だが、君は違う。君は王様なんだ。血統がどうとか、そういう問題ではなく、心が王様なんだ」


 その言葉を言われて、思い出す。


『僕に祝福を与えた時、一度でも僕を助けようと考えましたか?』


 セイにあの王城の上で言われた言葉。

 確かにセイは不憫だと感じていた。感じていたはずだった。


「君は自分が必要なことだと思った時、迷わずそれを実行しようと思える人だ。だから私は夜に性行為を持ちかけたし、ここに残れと言ったんだ。性行為を持ちかけるのは4の祝福と呪いの検証のために必要だと言えば、君は必ず応じると思ったし、ここに残った方がこの国を助けるのに効率的だと聞けば、君は自分からここに残ることを選ぶだろうと思ったからだ。人間は感情で動く生き物だが、君は理性で動く生き物だからね」


 その言葉を言われて、思い出す。


『理性的ナ狂人ヨ。汝ガ器ナリ。ソノ役目ヲ果タセ』


 理性的な狂人。あの時はその意味が分からなかったが、今その話を聞くと少し理解できてしまう。

 そしてその役目が何かを本能的に理解したから、指近衛に勝てるほどの呪いを出し、呪いの宝具も作り出し、勝つことが出来た。

 あの場であの指近衛を倒すことが国民を救うことに繋がるだろうと思ったからだ。


「でも君は私の申し出を断った。それは君がまだ自分のことを普通の人間だと勘違いしているからだ」


 リブリースはダクの心の中を見通していた。


「君がもしも本当の王様になることを決意するのであれば、君の決断に従おう。多分それはこの国にとっても私にとってもリターンが大きいはずだ。でも君が人間のように振舞おうとするなら、私は君をここに留まらせる。その方がリターンが大きいからね」


 ダクは言い訳ではない本物の言葉をこぼす。


「......ここを出たいと思ったのは、ここを出なければならないと思ったからだ。それが必要だと思ったからだ」


「そうか」


 リブリースはそれがダクの本心であることに気が付く。

 だがその言葉はリブリースを納得させるものではなかった。

 リブリースは席を立つ。


 テラスから部屋に戻る際、振りむいて言った。


「それと、一つ訂正を」


 その表情は問い詰めようとする顔ではなかった。


「魔獣を全て倒すと言った君の言葉を馬鹿にしたが、馬鹿にしたのは君の国民を想う気持ちを確かめたかったからだ。私も魔獣を滅ぼしたいと思っている。そのために研究をしているんだからな。君が馬鹿なら私も馬鹿になってしまうよ」


 リブリースは悲しそうに笑った。

一の呪いの発動条件


これまで一の呪いの発動条件は王族であることだと考えられていた。しかし、唯一王の兄と対談してそうではない可能性もあり得ると感じた。

彼はいわゆる普通の人間ではない。


リブリースの研究ノートより

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