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自作小説倶楽部 第23冊/2021年下半期(第133-138集)  作者: 自作小説倶楽部
第134集(2021年08月)/季節もの「レジャー(山・川・キャンプ・水着)」&フリー「事件(死体、判事、ダイナマイト、砥石、手形)」
9/26

04 らてぃあ 著  レジャー 『海の底』

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星「マングローブ」

 ――A君の証言――


 中学生になった最初の夏だ。遊泳している友達の下まで潜って足を引っ張る遊びが流行った。みんな身長だけ伸びてまだ子供だったのだろう。幼稚で残酷な遊びだ。

 その日も暑く、僕は友達4人と泳ぎに来ていた。地元の海だから、顔見知りがあちこちにいる。しばらく泳いでいると友達の一人が目配せをした。視線の先を見るとクラスの女子たちの姿があった。10人くらいの集団だ。みんな学校指定の水着ではなく色とりどりの女の子らしい水着をまとっている。

 誰が言いだしたのかわからない。あるいは男子5人もいて女の子のグループに掛ける言葉も、話しかけようとする勇気も無かったのだろう。僕たちは各々潜水すると泳ぎ出した女の子たちの足元まで行った。

 僕が狙ったB子は女子の中でも一際泣き虫でおとなしい女の子だった。しかし地味でも涙を溜めた瞳は美しく、その顔を何度も盗み見ていた。

 足元まで行くとさすがに女子たちも異変を察知したのか浅瀬のほうに移動しようとした。B子の白い足がつるりと僕の手をすり抜ける。僕は逃がすまいと両手で足の一本をつかみ、砂地を前に蹴って深く潜った。何かに頭をぶつけてバランスを崩し、海の中で仰向けになると口を開けてしまい、もがき、危うく溺れるところだった。そのまま上を見るとB子が逆さまに海を漂い、僕を非難のこもった瞳でじっと見ていることに気が付いた。美しかった瞳は血走り、怒りと恐怖で濁っていた。

 彼女はパニックを起こして溺れ、水を飲み、死んでいた。

 僕はずっと後悔して、海を避けていました。しかし、ある時、事情を知らない新しい友達と海に行き、海に潜った時、上にB子が漂っていることに気が付いたのです。それ以来、僕は毎年、海に行って彼女の姿を探しているんです。


 ――B子さんの証言――


 始まりは友人の一人の水着自慢だったと思います。中学生になって、あと少しで素敵な大人の女性になれるんだって、みんな心のどこかで信じていたんです。そして皆で可愛い水着を披露しようって話になりました。それでいて集合場所が地元の町の浜辺なんて今では笑ってしまうけど。

 男子のグループが来ていることはすぐに気が付きました。でも変に意識してお互い無視。特にA君は小さなころ遊んだこともある仲なのに何だか苦手な相手でした。成長するにしたがい言葉をかわすことは無くなり、遠くから私をじっと見て来ることが多くなりました。ひどく内気だった私はそうした行動の意味を問い詰めることも出来ず、泣いているところを助けようともしない態度を恨みました。

 泳いだりボールで遊んでいるうちに男の子たちのことは忘れていました。

 しかし、少し深い所まで来た時、友人の一人が急に悲鳴を上げて水の中に沈みました。私の足にも何かが触れ、慌てて逃れます。頭に男子たちの水中遊びのことがよぎりましたが次の瞬間、強い力が左脚に絡みつきます。私は無我夢中で水の抵抗に逆らい、「それ」を蹴りました。力が緩み、再度蹴り、私はバランスを崩して顔から海に倒れ込みました。

 うつぶせに海を漂い。目を開けると海の中で私とは上下反対にA君が沈んでいるのが見えました。鼻血を流し、濁った目で私をじっと見つめていました。

 気絶したA君はそのまま溺れ死んでしまったんです。

 それから私は海を恐れました。でも、ある時、友人に誘われて海でボートに乗る羽目になりました。水面を覗くと、そこにA君の姿を見たのです。それから私は再び海で泳ぐようになりました。A君の姿を探しているんです。


 ――ある怪談――


「景色もいいし、混まなかったし、穴場ね。楽しかった」

 彼女の嬉しげな顔を見てすべての疲労は吹っ飛んだ。

「じゃあ、夏のレジャーの締めで怖い話をひとつ、この海でさあ」

 悪友が突然話し始める。しまった、眼を離すとろくなことは無い。しかし俺が止める前に、彼女の友人が「私もここの海の幽霊話を聞いた」と手を上げた。

「へえ、どんな話?」と彼女。

「足を引っ張って来る男の子の幽霊」

「海に浮かんで睨んでくる女の子の幽霊」

 それぞれの話は似通って正反対だった。どちらが正しいのか論争になり、騒がしく、ロマンスとは程遠い夏の夜になってしまった。


                    了

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