表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第23冊/2021年下半期(第133-138集)  作者: 自作小説倶楽部
第134集(2021年08月)/季節もの「レジャー(山・川・キャンプ・水着)」&フリー「事件(死体、判事、ダイナマイト、砥石、手形)」
8/26

03 紅之蘭 著  事件 『ガリア戦記 26』

【あらすじ】

 共和制ローマ末期、南仏・北伊・アドリア海北端からなる三属州総督カエサルは、本国で三頭政治の一席に着き元老院に対抗。他方でガリアに侵攻。ライン川をも越えた。次の標的は……


挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星「ガリアの娘達」

    第26話 事件 


 前年冬に、ローマ本国の元老院へ報告書を提出したカエサルが、年が明けた紀元前五四年春、アルプスを越えて戻って来た。ガリア戦役五年目、南仏・北伊・イリリア(アドリア海の袋小路)の三属州総督のカエサルは四六歳になった。出迎えたのは、腹心であるブルータス、デキムス、弟キケロら将官だ。青年クラッススは、カエサルの盟友である父クラッススを助けるために袂を分かった。

 北仏海岸のローマ軍拠点イティウス港には、輸送船五八〇隻 戦闘船二八隻が停泊し、そこに五個軍団とガリア騎兵二千が乗り込もうとしていた。第二回ブリテン島出兵を用意ができ、今や出航というときになって、密偵が、「ライン川に近いガリア北部に住むトレヴェリ族に、不穏な動きがあるという知らせを伝えに来た。


 ――トレヴェリ族はガリア人の中で、最も精強だとされている――


 禿げ頭で大柄なカエサルが、帷幕に諸将を集めた。

「諸君、トレヴェリ族が本当に叛意があるか知りたい。知恵を貸してくれ」

 地図を広げたテーブルを囲んで座る諸将の一人に弟キケロがいる。彼が答えた。

「ローマと盟約したガリア族長会議を開けばよい。奴らがそれに不参加だったら詰問の使者を送る。恭順の意をしめさなければ、そのときはブリテン島攻略を来年にして、まずは目先の敵を攻撃して潰す。――という策はどうだろう?」

 カエサルが、「弟キケロの策や好し」として、イチィウス港にてガリア族長会議を開くと、果たして、トレヴェリ族の族長は来なかった。


 カエサル麾下の将軍デキムスが密偵を放った。戻ってきた密偵の報告によると、トレヴェリ族が、イチィウス港のローマ海軍艦船が出航したところを、ブリテン島のケルト人たちと連携して蜂起し、背後からイチィウス港を襲うというものだった。彼ら部族は、大量に食糧備蓄をし、タタラ製鉄と類似した塊練製鉄で大量の武器を製造、その数は、ブリテン島に派遣する兵士の数と比べて、あまりにも数が多い。

 カエサルはトレヴェリ族に軍使を送って、詰問した。

 トレヴェリ族の族長はチンジェトリクスだ。謀反の嫌疑がかけられた彼は、すぐさまカエサルに使者を送り、恭順の意を伝えた。


 カエサルは、ブルータスによく言ったものだった。

「私はガリアを文明化する」

 要は、ローマ人たちを征服したガリアの土地に、大量に移民させてローマ化するということだ。

 共和制ローマ末期の軍団は財閥会社のようなものだ。CEOタルカエサルが、ローマ本国で明確なヴィジョンを示したので、投資家たちは莫大な資金を彼に投資した。投資家というのはローマ市民権を得たギリシャ人たちだ。かつてカエサルは、三頭政治の盟友クラッススに何度も無心したものだが、そういうことをしなくとも、カエサル軍団は人気銘柄となったので、豊富な資金を得ることができた。カエサルはその資金で自軍の軍備を充実させるとともに、ローマ市民の支持を得るため、三頭政治の盟友クラッススやポンペイウスに合わせて、ローマ市内のインフラ整備事業にも携わった。市民を手名付ければ、執政官や総督といった要職に、居座り続けることができるというものだ。


 カエサル麾下ローマ軍陣営は、トレヴェリ族が、ローマに再び従属したことで一安心できたかと思っていたら、黒幕が発覚した。同部族の傘下には群小な支族がおり、族長チンジェトリクスの他に、有力者インドゥティオマルスという男があり、どちらかというと後者のほうが血気盛んだった。

 カエサル麾下ローマ将軍の弟キケロが、有力者インドゥティオマルスの元へ赴き、彼を説得した。

 インドゥティオマルスが、狡猾そうな目をしながら、弟キケロに訊いた。

「それで、講和条件にどれだけの人質を出せばいい?」

「二百人だ」

「多いな。普通、人質は百人だろ?」

「人質がローマ傘下の他部族に比べて倍になったのは仕方あるまい。おまえはマジで謀反を起こそうと企てていた」

 インドゥティオマルスは、ちっと舌打ちして、契約書にサインをした。

 人質の多くは良家の子弟である。彼らはローマの上流階層の家に預けられ、教育を受ける。いわば留学だ。そうすることで、外国人子弟留学生が母国に帰国すると、親ローマ勢力となるのである。


 かくしてトレヴェリ族問題を解決したカエサル麾下ローマ海軍は、後顧の憂いなく、北仏海岸のローマ軍拠点イティウス港を出港。ドーヴァー海峡を渡った先にある対岸を目指した。恐らくは七、八時間もすれば、船団は入り江に錨を降ろすことができることだろう。第二回ブリタニア遠征はこうして始まる。


          つづく

【登場人物】

カエサル……後にローマの独裁官となる男。平民派として民衆に支持される。

クラッスス……カエサルの盟友。資産家。騎士階級に支持される。

青年クラスス……クラッススの子。カエサル付き将校になる。

ポンペイウス……カエサルの盟友。軍人に支持される。

ユリア……カエサルの愛娘。ポンペイウスに嫁ぐ。

オクタビアヌス……カエサルの姪アティアの長子で姉にはオクタビアがいる。

ブルータス……カエサルの腹心 

キケロ兄弟……兄キケロと弟キケロがいる。兄は元老院派の哲人政治家で、弟はカエサルの有能な属将となる。

デキムス……カエサルの若く有能な将官。

ウェルとイミリケ……ガリア人アルウェルニ族王子と一門出自の養育係。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ