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自作小説倶楽部 第23冊/2021年下半期(第133-138集)  作者: 自作小説倶楽部
第133集(2021年07月)/季節もの「風(台風・扇子)」&フリー「異界(仏・骸・死後の世界・夢)」
5/26

04 らてぃあ 著  風 『隣の事件』

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星「ミス・リード」

 私と母が住んでいた古くて狭い3階建てのアパートは風の強い日などガタガタと建材がきしむ音がしていつ崩れ落ちても不思議のないようなボロ屋でした。引っ越しが決まった時は母もホッとした顔をしていたので、貧乏のためにやむおえないとわかっていても母自身も危機感を抱いていたのでしょう。

 きっかけは私が風邪をひいて小学校を休んだことです。

 目が覚めると静かな部屋に一人布団をかぶって寝ていました。仕事に出かけた母がお昼ご飯を用意してくれたはずですが、胃袋は砂でも詰まっているかのように重く食事など受け付けそうにありません。しかし喉の渇きを感じたので起き上がって水を飲むかどうしようか考えていると、頭の上で話し声が聞こえました。正確には私の頭と枕は壁と数センチの間隔しかなく、隣室の壁際で男が電話で話をしているのです。

「あと少しだ」と男は言いました。

 隣人は前の週に引っ越してきたばかりで、母によれば「奥さんは美人だけど旦那は得体が知れない」とのことでした。首だけ動かして目覚まし時計を見ると昼の一時です。二人は共働きのはずで、今、部屋に居るのは不自然です。

 私は耳をそばだてました。

「いちおくえんくらいは」

 一億円? 聞きなれない金額に驚いて目が覚めます。

「妻にかけた保険金を手に入れる」

 起き上がって頬をつねります。痛い。熱による悪夢ではないようです。隣室の男は奥さんを殺して保険金を得ようとしているのだ。

 私は布団から這い出ると流しで汲んだ水をごくごく飲み、着替えて外へ出ました。宛てはあります。交番のスガちゃん。菅原という苗字ですが、垂れ眼に愛嬌があって子供たちにはちゃんづけで呼ばれている人気のあるお巡りさんです。

 交番に飛び込むとスガちゃんが、驚いた顔で私を見ました。

「どうした? 顔色が悪いよ」

 私はつっかえながらも隣室に越してきた悪人のことを説明しました。

 スガちゃんは目を丸くしたかと思うと急にそわそわし出しました。

「どうしたの?」

 私が聞くと、スガちゃんはまくしたてるかのように言いました。

「君はとりあえず家に帰るか、ああ、悪人がいるからダメか。友達の家に、いや、病院へ行こう。送っていくよ」

「こうしている間にも奥さんが殺されるかもしれないよ」

「大丈夫だ。後でちゃんと手配するから」

 明らかに事件に向き合わず私を追い立てようとする態度に不安は増すばかりです。私は急にスガちゃんを別人のように感じて、怖くなって交番を飛び出しました。スガちゃんが何か叫びましたがかまってる暇はありません。

 頭は重く、行く当ても無くなったためか気が付くとアパートの前に戻っていました。二階の自分の家のベランダを見ると、隣室はカーテンが閉められています。その隙間から望遠鏡が覗いていました。隣人の悪人は私はアパートから出たのをあの望遠鏡で覗いていたに違いありません。黒い絶望が胸に広がりました。

「ちょっと、あなたどうしたの? 学校は?」

 振り返ると。隣室の奥さんが立っていました。どういうわけか地面がぐにゃりと歪みました。

「殺されますよ」私は声を絞り出します。

「奥さんに保険金を掛けているの」

「ちょっと、あなたどうしてそのことを知っているの?」

 視界が暗転し、倒れた私を奥さんが抱き留めたのがわかりました。


 一週間後、各新聞の見出しに〈保険金殺人〉という文字が並びました。

 逮捕されたのは隣人、と言ってもアパートの隣人ではなく、アパートの向かいにある豪邸のご主人でした。事業を起こしては失敗し、たまたまなのか、最初の妻が死亡した時に入った保険金に味をしめ、二番目の妻に保険金をかけ殺害しようとしていた。と報道されていました。

 そしてアパートの隣人はいつの間にかいなくなり、交番のスガちゃんには「隣の夫婦は実は警察関係者」とわかったようなわからないような説明をされた。

          了

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