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自作小説倶楽部 第23冊/2021年下半期(第133-138集)  作者: 自作小説倶楽部
第133集(2021年07月)/季節もの「風(台風・扇子)」&フリー「異界(仏・骸・死後の世界・夢)」
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01 紅之蘭 著  風 『ガリア戦記 25』

【あらすじ】

 共和制ローマ末期、南仏・北伊・アドリア海北端からなる三属州総督カエサルは、本国で三頭政治の一席に着き元老院に対抗。他方でガリアに侵攻。ライン川をも越えた。次の標的は……


挿絵(By みてみん)

挿図/ⓒ奄美剣星「森の戦士」

    第25話 風


 一抱えほどもある丸太を多数、ライン川の両岸に集めて先端を尖らせ、一本一本を川の深さに合わせて調節。滑車や打ち込み機を巧みに操り川底に撃ち込んで橋脚をこしらえていく。ケルンとボンの間に、いくつかの橋が構築された。それに要した日数は、わずかに十日だった。

 これでカエサル麾下のローマ軍は、ウシペディー族及びテンクテリ族といった二部族の残兵を掃討。さらには、ライン川の北岸にいたいくつかのゲルマン部族を篭絡し、大多数のゲルマン部族との分断に成功。その結果、現在のベルギーや北フランスに相当する地域は、安定した。

 早々にゲルマン人の動きを封じたカエサルと麾下の兵士たちは、物資的にも、時間にも余裕が生じた。


 カエサル麾下の八個軍団は、ガリア北部にある、殲滅したモリニ部族旧領の港町イティウスに集結。例の如く瞬く間に、空堀と木柵で囲った駐屯地を設営した。彼の英雄の帷幕に、各軍団の部将たちが集結し、今後の方針を聞いた。

「総督、ブリタニアへですと?」ブルータスは素っ頓狂な顔をした。

「軍船九六隻、二個軍団約一万の兵を従えて行くことにする」

 ローマの船団は潮流に乗ってドーバーあたりまで流され、軍船八十隻に搭乗させた歩兵からなる第一陣で、上陸を試みる。


 新石器時代から青銅器時代初期にかけて、ブリタニアの地でストーンヘンジを構築したのは、ブリトン人と呼ばれている人々だ。ブリトン人は、その後に、大陸から渡ってきた、ケルト系のビーカー人たちがもちこんだ伝染病で全滅し、異界〈妖精の国〉へと旅立った。

 ケルト人の戦術的特徴は、戦闘用馬車〈戦車〉だ。


 ブリタニアの海岸線で待ち伏せしていたブリタニア人戦士たちは、文字通りの水際防御をした。血気盛んなローマ兵たちが輸送船から浅瀬に飛び降りていき、海岸で隊列を組もうとすると、ブリタニア兵は、戦車を飛び降りて、腰まで海につかり、向かってくるローマ歩兵を討ち取る。だから容易に上陸させてはくれない。

 ローマの輸送船はドーバー海峡沿岸部に住む原住民たちがよくつかう帆船で、風に流されやすいという欠点がある。そこでカエサルは、操船の容易な、オールを使用するガレー船を波打ち際まで寄せ、そこから投石機で、海岸にいるブリタニア兵の隊列に石弾を投げつけて陣形を崩し、混乱に乗じて友軍輸送船を海岸線に近づけ、ローマ兵を一気に上陸させた。これにはたまらず、ブリタニア兵は内陸に逃げ込むよりほかない。

 ところが、ここでアクシデントが生じる。

 第一陣に続き、イティウス港を経った第二陣十六隻が、嵐にあって押し戻され、ブリタニアに上陸できなかった。この嵐で、輸送船八十隻の大半が損傷し、修繕する工具類も流されてしまった。状況を知ったブリタニア兵は、ローマ人の陣城に押し寄せては引き揚げた。カエサルは損傷がない船一隻を、密かに大陸側のイティウス港に送って、船の補修に必要な工具類を積んで戻らせた。他方で、ローマの陣城に攻め寄せて来るブリタニア諸部族を撃退しては、その都度に休戦協定を結んで時間を稼ぎ、時が熟するや否や、修繕が間に合わない十二隻の船を打ち捨て、残る六十八隻に全軍兵士を搭乗させ、一気に船団をガリア・イティウス港へ撤収したのだった。


 紀元前五四年、カエサルが四六歳のとき、前年末に主力軍団を現地に冬営させるたカエサルは、例のごとく、南仏・北伊・アドリア海北端といった管轄下の三つの属州を巡回。さらには、イタリア本土に出向いて、盟友のポンペイウス、クラッススといった実力者と会見した。元老院の議場は時として法廷にもなる。カエサルがローマに戻って来ると、早速、カトーを筆頭とする元老院派議員たちが弾劾した。彼らは、演壇に立ったカエサルに詰問した。

「いかに野蛮人とはいえ、使節を斬るとは何事か! 文明国ローマの所業ではない」

 だが、カエサルはせせら笑ってやり返した。

「先に手をだしたのはゲルマン騎兵だ。ゲルマンによりローマ騎兵七五騎が撃たれている。ゆえに報復したまで」

 そうカエサルに言われると、カトーたちは、まともな反論ができない。


 冬、カエサルの母親が没した。カエサルは、春を待って、彼の忠実な軍団のいる北方の地へ戻っていったのだった。

 そうして第二回ブリタニア遠征が始まる。


          つづく

【登場人物】


カエサル……後にローマの独裁官となる男。平民派として民衆に支持される。

クラッスス……カエサルの盟友。資産家。騎士階級に支持される。

青年クラスス……クラッススの子。カエサル付き将校になる。

ポンペイウス……カエサルの盟友。軍人に支持される。

ユリア……カエサルの愛娘。ポンペイウスに嫁ぐ。

オクタビアヌス……カエサルの姪アティアの長子で姉にはオクタビアがいる。

ブルータス……カエサルの腹心 

キケロ兄弟……兄キケロと弟キケロがいる。兄は元老院派の哲人政治家で、弟はカエサルの有能な属将となる。

デキムス……カエサルの若く有能な将官。

ウェルとイミリケ……ガリア人アルウェルニ族王子と一門出自の養育係。

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