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自作小説倶楽部 第23冊/2021年下半期(第133-138集)  作者: 自作小説倶楽部
第136集(2021年10月)/季節もの「収穫(木の実・果物・茸)」&フリー「切り札(最後の手段・最終兵器・口説き文句)」
14/26

01 奄美剣星 著  収穫 『ヒスカラ王国の晩鐘19』

 *あらすじ


 勇者とは、超戦士である大帝を討ち果たすことができる王国唯一の超戦士のことをさす。二五年前、王都防衛戦で帝国のユンリイ大帝と刺し違えた指揮官ボルハイム卿がそうだ。やがて二人の超戦士がそれぞれ復活。暫定的な講和条約が破綻しようとしていた。そして、大陸九割を版図とする連合種族帝国が、最後に残った人類王国ヒスカラを併呑しょうとする間際、一五歳の女王は自らを依代に勇者転生を決断した。


 ヒスカラ王国女王単身での帝国潜入意図やいかに。


挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星「ハンチング帽のオフィーリア」

    19 収穫


 城壁に囲まれた市街地の外側は水田になっている。

 稲穂はたわわに実って頭を垂れた格好になっていた。

 運河に浮かんでいる穀物を満載した交易船は喫水の浅い帆船が多く、蒸気船は少ない。そういう蒸気船というのは、海軍の管轄にある河川用軍艦〈砲艦〉が大半を占めていた。

 一隻の小さな交易船が、砲艦とすれ違った。

 鉄道が敷設されるまで、運輸の主役は運河だった。列国は、大陸の隅々まで大小の運河を開削し、各都市動脈のように結び、市街地内の運河はさしずめ網の目のようになっていた。一〇トン級の川船が、赤煉瓦倉庫が建ち並ぶ岸辺に接岸されていた。倉庫からはトロッコ・レールが、市内にある工場群まで延びていて、忙しく軽便鉄道の気動車が数両の貨物車を牽引し往復していた。

 僕・トーマは、倉庫で待ち合わせをしていた人物を、密かに貨物車に乗せ、工場に行く途中にある信号所小屋で降りた。

 だがそこには、州公安局捜査員が、我々を逮捕しようと待ち伏せしていた。

「全員、投降しろ。武器を捨てて、頭の後ろ手をやるんだ」

 貨車を取り囲んだ制服捜査員たちは亜人だった。単一ではなく、狼やら鹿やら鷹のような頭部をした者達が混在している。

 僕に同行している〈客人〉は、トレンチコートに丈の高くないブーツ、ハンチング帽を被っている。長い髪を後ろで結っている。華奢なところから若い女だと判る。

 当局は、我々の結社を非合法組織とし、ときたま同志を拘束してきた。捜査員の数から、この若い女は恐らく、幹部の一人なのだろう。

 結社の仲間は十名いた。彼女を逃がすために、ある者は囮となり、またある者は敵包囲網を強行突破して、彼女と案内役の僕とを逃がしてくれた。

 僕らの結社は、こういう非常時に備えて、市内のあちこちに避難場所を用意している。

 街外れにある地下墓所もその一つで、そこには電話回線まで敷かれている。僕はそこで、この件の指揮をとる組織幹部と連絡をとった。

 聖像が付いた大理石の棺の蓋が少し開いている。カンテラを近づけると、中に遺体はなく代わりにアルミの小箱があった。そいつを開けると折り畳んだ地図が出てきた。

 地下墓所は地下水路に通じている。地図は地下水路網を表している。

 街の地下に、蜘蛛の巣を張ったかのように複雑に拡がる水路の全容を把握する者は、市民ですらごく一部である。

 〈征服者〉たちならなおさらだ。

 そういうわけで、僕は抜け道を使って彼女を、指定された場所に案内することができたわけだ。


 未明。

 たどり着いた先は三階建ての木組み建物で、モア市に残留した人類を代表する議員宅だった。

 ドアをノックすると、執事だという男がのぞき窓でこちらを見やり、屋敷の主人の書斎がある三階に案内した。

 書斎机のもたれ椅子に腰かけた議員は小肥りしている。彼は僕たちに煙草を勧めた。

「ノスト大陸の覇権を争った〈ノスト大陸戦争〉で、連合種族帝国に対抗しうる人類の最終勢力がヒスカラ王国のみとなった。我らがガウディア王国が滅亡した直後、両者の間に休戦協定が結ばれた。祖国を失ったガウディア人の半ばは、亜人たちに支配されることを嫌い、西の友邦ヒスカラに逃れた。だが、我々は歯を食いしばって屈辱に耐え、地方議会参加まで許され、今日の地位にまで回復した」

「モア市長と要職、市議会議員の多くは亜人が占めている。自治権というにはほど遠いですけどね」

「トーマ君と言ったね。まだ道半ばというところ。事を急ぐとロクなことはない」そう言った、議員が若い女の〈客人〉に、恭しく挨拶した。

「ようこそ、ヒスカラ女王オフィーリア陛下。手筈は整っております」

 青い髪、青い瞳、華奢な体躯。ランタンが照らす見た目には、どう見ても十五、六歳の少女のようだった。

 単身で敵地に乗り込んできたというのか、本当だとすれば無謀過ぎる。


 ヒスカラの女王が、ここまで案内してくれた僕に食事を出してやるように頼むと、屋敷の主人が、「おやすいご用です」と微笑んで、

「厨房に、夕餉の残り物のスープに、パンとチーズくらいあるでしょう。召使いどもに、すぐにご用意させましょう」

「ついでにワインも頼む」女王陛下が付け加えた。

「もちろん」

 執事に案内された僕は、階下の食堂に行ったわけだが、女王陛下は屋敷の主人と重要な話しがあるとのことで、一緒には来なかった。

 このとき、新たな〈客人〉が訪ねてきた。

 亜人だった。

 猫象族二人で、初老の婦人と若い娘だ。最初は母娘と思ったが、連れの娘が年長の婦人を「おば様」と呼んでいたから、叔母と娘なのだろう。それから丈が高い、背にトンボのように透けた翅がある青年とすれ違った。美麗ではあるが彼も亜人には違いない。

 旧ガウディア王国復権派の大物が、亜人族どもと交流しているというのか?

 食事を終えたころ、僕は公安局の制服職員たち十人に取り囲まれた。

「あの女、僕をはめたのか!」

 すると、警部と名乗った一団の指揮官が、フンと鼻を鳴らした。

「女王陛下を売ったのはおまえだよ」

「どういことだ?」

「詳しい話は署のほうでしてやろう」

 玄関外の街路に、パトロール・カーが停車していた。


 数日後。

 当局に逮捕された僕は、大陸極北凍土地方にある流刑地に、鉄道敷設作業員・囚人として送られることになった。

 どこまでも続くライ麦畑のただ中を、北上する貨物列車の中で、僕は、警部の説明を思い出した。

「活動家トーマ君、君が案内したオフィーリア女王の前世は、テオという猫象族男性医師だった。テオは帝国魔導士が、ヒスカラ王国の勇者を封印するため、憑代家系である少年時代のテオに転移させた。テオが流行り病で急逝すると、魔導士の手違いから、魂魄がヒスカラ王国に還ってしまい、オフィーリア女王が勇者の魂魄の憑代になった。君が議員の屋敷の廊下ですれ違ったのは、テオの家族たち。さらに言うならば、皇帝陛下は、テオの息子を憑代にしている。ヒスカラの女王にも、われらが皇帝陛下にも、少しは憑代本体の記憶があるのだろうな。帝国と王国が秘密交渉をして、今回、感動の家族再会を果たそうとしていたところに、君は水を差したというわけだ」

 なんてこった!

 毛皮のオーバーを着込んだ僕だが、貨物車の中は冷える。

 蒸気機関車に牽引された二〇両編成貨物列車は、絶え間なくガタゴト音を立てて揺れていた。

 車掌によると到着は二週間後だという。


          ノート20211030        

挿絵(By みてみん)


〈ヒスカラ(人類)王国〉

01 オフィーリア・ヒスカラ三世女王……転生を繰り返す王国の英雄ボルハイム卿の依代。ボルハイム卿は25年前の王都防衛戦総司令官となり、帝国のユンリイ大帝と相討ちになった。卿は、その後、帝国辺境の町モアで少年テオを依代に復活、診療医となるも流行り病で没し、女王の身体を依代に、再び王国側に転生した。ヒスカラ暦七〇二〇年春現在15歳。

02 アンジェロ卿……灰色猫の身体を依代に、古の賢者の魂魄を宿す王国護国卿。事実上の王国摂政で国家の最高決定権がある。ボルハイム卿の移し身も彼が執り行ったものだ。巡洋艦型飛空艇パルコを居館代わりに使用している。/十年前に異界工房都市の〈量子衝突〉実験で事故が生じて〈ゲート〉が開き、男女十人からなる異界の学者たちが迷い込んできた。学者たちは、ノスト大陸の随所にある飛行石鉱脈を採掘し、水素やヘリュウムの代わりに、飛行石をつかった飛行船の一種・飛空艇を開発した。/アンジェロ卿は彼らを自らのブレーンにした。ヒューマノイドのレディー・デルフィー、ドン・ファン大尉のロシナンテ戦闘機飛行中隊の戦闘機シシイも、異界学者たちが製作したものだ。

03 レディー・デルフィー(デルフィー・エラツム)……教育・護衛を職掌とする女王顧問官で、年齢、背格好、翡翠色の髪まで似せたヒューマノイドだ。オフィーリア女王の目が大きいのに対し、レディー・デルフィーは切れ長になっているのは、彼女の製作者が女王との差別化を図ったためである。レディーは衣装を女王とそろえ、寝台も同じくしているが「百合」関係はない。さらに伊達眼鏡を愛用する。

04 ドン・ファン・デ・ガウディカ大尉……二五年前、連合種族帝国によって滅ぼされたガウディカ王国国王の息子。大尉の父王は、滅亡直前にヒスカラ王国に亡命してきて客分となり、亡国の国王はヒスカラ王族の娘を妃に迎えて彼が生まれた。つまるところオフェイリアの従兄で幼馴染、そして国は滅んでいるがガウディカ王太子の称号がある。女王より二歳年長のドン・ファンは、「オフィーリアを嫁さんにして、兵を借り、故国を奪還するんだ」というのが口癖。主翼の幅一〇フット後部にエンジンを取り付けたシシイ型プロペラ戦闘機の愛機に「ロシナンテ」と名付け、同名の飛行中隊20機の指揮官に収まっている。

05 マーコ・シオジ博士………一〇年前の量子衝突実験失敗でノスト大陸に転移してきた都市、軍都2040(別名、第三工廠)の主席研究員で、同都市の市長兼務。ヒスカラ王国賢人会議会員。親族は「災害」で生き残った姪シズク・シオジ(一〇歳)。

06 ムラマサ少尉……シオジ博士に連絡役として推挙され、ヒスカラ王国の侍従武官となった。ややBL趣味があるものの、有能。秘密警察「王ノ目」に所属。

07 カミーユ……ヒスカラ王国の宮廷侍童。もともとは敵対する連合種族帝国の重戦車型生物兵器「カブトガニ」だったが、両国が国境紛争で小競り合いをした際、女王オフィーリアに篭絡され、寝返った。平時は、シオジ博士を首班とする調査隊により、軍都二四〇〇の廃墟で発掘されたヒューマノイドを依代とし、王宮の侍童として仕えるようになった。




〈連合種族帝国〉

01 ユンリイ大帝……一代でノスト大陸9割を征服し大帝国を築き上げた英雄。あまたの種族を従えていた。25年前の王都攻略戦で、ボルハイム卿の奇襲を受け相討ちになるも、帝国臣民に復活を待望されている。比類なき名君。

02 フィルファ内親王……大帝が不在となった帝国を預かる摂政皇姉にして大賢者。王国の勇者ボルハイム卿に対するアンジェロ卿のようなもの。黄金の髪、青い瞳、透けた背の翅が特徴的な有翅種族女性。火の粉が降りかかれば払うが、弟と違って戦いを好まず、戦禍で荒れた土地の迅速な復興など内治に功績がある。

03 テオ・バルカ……帝国の版図に収まった辺境都市モアで診療所を開いていた猫象種族。帝国側道士によってボルハイム卿の魂魄が移し身されるとき10歳の少年だった。すでに両親はなく、看護師の姉ピアに愛情深く育てられた。本来は大帝復活のための依代であったが、大帝の遺言により、ボルハイム卿が王国側で復活しないようにするための措置で、テオはボルハイム卿の依代となった。町から出ることを許されず、事実上の軟禁状態にあった。その後25年後、流行り病で没し、共同墓地に葬られた。猫象種族の妻を娶り、二男三女をもうけた。

04 ジェイ・バルカ……テオの息子・猫象種族。両親を流行り病で亡くし、弟妹たちとともに伯母ピアに育てられる。少年兵で従軍し戦地で上等兵となるも、王国軍の捕虜になる。捕虜交換で帰国後、士官学校入学の名目で帝都に召喚され、ユンリイ大帝転生に際し、依代となる。戦友はガンツ上等兵。


挿絵(By みてみん)

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