深海の魔女は呪うのがお好き
呪いと祝いは紙一重と聞いたので。
さらっと読んで楽しんでいただければ幸いです。
深海の魔女は呪うのがお好き
国のとある森に棲む魔女
今日も魔女は世界を呪う
深海の魔女は呪うのがお好き
森に入った子供を見つけた
魔女が子供に呪いを紡ぐと
子供は森から姿を消した
「行方不明だった子供がいきなり門の前に現れたらしいよ」
「そう。無事に帰れて良かったわね」
「僕は今夜は帰りたくないな」
「お帰りください」
「あれーっ」
深海の魔女は呪うのがお好き
街で寄り添う男女を見つけた
魔女がいちど眉をひそめると
男女は喧嘩をして別れてしまった
「広場でカップルの派手な殴り合いがあったんだ。なんでもお互い浮気してることが発覚したってさ」
「あら、お互い様ならいいでしょうに」
「僕は君の青い瞳に一途さ!」
「お帰りください」
「きゃーっ」
深海の魔女は呪うのがお好き
天高く飛ぶ鳥を見つけた
魔女がそれを嫌がると
鳥は真っ逆さまに墜ちていった
「この前ヤバイ人喰い怪鳥が現れて大騒ぎだったんだけど、すぐ落ちて死んだんだ。縄張り争いで弱ってたのかな」
「知らないわ。ところで何故貴方またここに来てるの」
「君の美しい顔が見たくなって」
「お帰りください」
「ひゃーっ」
深海の魔女は呪うのがお好き
街道をゆく荷馬車を見つけた
魔女が小さく呪いを吐くと
荷馬車は馬が逃げて立ち往生した
「巡回中の騎士団が立ち往生した馬車を見つけたんだけど、中身が輸入禁止品ばかりでそのまま捕縛したらしいよ」
「この国も随分不穏になったわね」
「大丈夫、僕がいれば何も怖くないさ!」
「お帰りください」
「ほぁーっ」
深海の魔女は呪うのがお好き
病で死にかけた老人を見つけた
魔女は鼻で笑って呪いを紡いだ
その苦しみが少し長く続くように
「領主が孫の顔を見て死ねたと喜んでたそうだよ。産まれるまではもたないだろうと言われていたのに」
「あら、苦しみが続いて喜ぶなんて世も末ね」
「僕は君さえいればだいじょ」
「お帰りください」
「せめて最後まで言わせてーっ」
深海の魔女は呪うのがお好き
強き王が住まう城があった
魔女が欠伸とともに呪いを吐くと
城は一瞬で崩れてしまった
「隣国に現れた魔王の城が崩壊したって大騒ぎなんだよね。魔王が復活したってみんな怖がってたけど」
「どうせ突貫工事の違法建築なんだからどうでもいいじゃない」
「まぁ僕も魔王討伐に行く必要がなくなってありがたいよ」
「そう」
「おかげで君に毎日会えるね!」
「お帰りください」
「そろそろレパートリーないよーっ」
深海の魔女は呪うのがお好き
「僕、他国に婿入りするかもしれない」
「そう」
「そうしたらここに来れなくなるね」
「……そう」
「……お帰りください、って言わないの?」
深海の魔女は呪うのがお好き
見目麗しい王子がいた
魔女がたった一言呪うと
王子は森から出られなくなった
「僕の美しい奥さん! 薬草ってこれでいいの?」
「毒草よそれ」
「うーん、難しいな。よしもう一度」
「先にお帰りください」
「戦力外通告ーっ」