87 決断を
ジェフリーにとある一通のメールが届く。
『ジェフリー様、大事なお話がございます。青空騎士団を代表し、再びお話をしに伺いたいのですがよろしいですか?』
そのメールには、すぐ返答が帰ってきた。
『問題は無いよ。時間、空けとくからね』
メールでのやり取りはこれで終わり。
寂しくもあれば切なくもある。でも今は、友達として会いに行くのではなく、使者として向かうのだから。
「それでも、これが最後に会えるチャンス。せめて、サヨナラは言いたいな」
その言葉が誰かの耳に入ることはなかった。しんみりとした空気の中、ラットはスラム街に向かうのだった。
=☆☆=☆☆=☆☆=
「これから自分は学校に向かいますが、ジェフリーさんはこのままゲームを続けるのですか?」
日が変わり、早朝。今ギルドの中にいるのはピエロと狐の二人だけだった。
とはいえ、狐影はやるべきことを今の内に済ませ、ログアウトする直前であった。
「今日は、かれこれ仕事も何もない日でネ。こっちの用事を優先するノネ」
「そうですか。頑張ってください」
そう言い、狐影はログアウトした。
それを見計らったかのように、天井からラットが飛び降りてきた。音を立てず着地する姿は『プロ』を連想させる。
「やあ。またせたかネ?ラット君」
「別に、待ってはいない。あと、いつから気づいてた?」
「天窓を開けて入ってきたときからだヨ」
「ほぼほぼ最初からじゃないですか」
「まあ、そう興奮することじゃないヨ。そうだね〜気晴らしに散歩にでも行こうか?」
「は?」
「ついてきてネー」
「ちょっ、待ってください」
大事な話があるというのに、外に出るなど怠慢である。
さらに、外はスラム街。犯罪プレーヤーがはびこる無法地帯である。いくらそこにギルドを持つ者とはいえ、あまりにも危険だとヒヤヒヤしてしまう。
己の身も安全ではないと承知していながらも、ラットは、ジェフリーの後を追った。
「待ってください。危険じゃないですか!?」
「さては、地理ばっか調べてプレーヤー達を見てなかったネ」
「え?まあ、必要ありませんでしたし」
「イヤ、そこそこ!とても大事なところだよー!」
「大事?」
「みんなここを危険な場所と呼ぶけどネ〜それは違うのサ。みんな、ここ特有のルールを守り、密かに暮らしているのヨ」
「ですが、許可なき者にはいつだって制裁がくだされる。犯罪者も真っ当な人であっても……」
「それは、賞金目が眩んだ欲深い人間のことさ」
「欲深い……人間」
ラットは、心の奥底で引っかかる何かを感じた。かと言って、彼が嘘を言ってる様子はない。
この慣れぬ感情に戸惑いながらも、話を聞き続けた。
「そもそも、赤いピアスという犯罪者の証は結構最近に実装された物サネ。でも、実装時点ですでに余罪がある者全てにも付けられてしまった。ワタクシ、その事実がとてもキニイラナイ!」
「きゅ、急に大声出さないでください」
「ラット君も、その被害者なんだと推測するヨ」
「………っ!?」
彼の言うことに間違いはない。
改めて、ジェフリーの観察眼には驚かされた。話してないこと、隠していたことを見抜いてしまう。
凄いと思うが、同時に怖くもあった。だが、彼なりに配慮しているとは感じていた。
「ピエロはいつだってスマイル。それは、観客を笑わせるためにわざとそうしている。いつ何時だって、仮面や化粧を用いて安い笑顔を提供している。苦しい感情を一切表に出してはならないのさ」
「また同じようなことを言う。もう、聞き飽きた」
「でも、君はまだ理解していない」
「理解してる」
「じゃあ、答えを言わせてもらうケド……騎士団との不可侵条約は断らせてもらうよ」
「何で……!?」
「言ったでしょ、ワタクシはいつだって笑顔の味方。たとえそれが、犯罪プレーヤーだとしても、笑顔を葬る行為は断じてユルサナイ!」
表情は変わらない。しかし、可視化するかの様に怒りの思念が吹き出してくる。
同時に周りの者達は、NPCプレーヤー構わず逃げの衝動にかられていった。
「少しばかり、じゃれ合いといこうか」
ジェフリーの笑顔に恐怖を覚えた。
謎めいたピエロによって、初めて見られる戦闘。
彼と対峙するする鼠の運命やいかに!?
次回、土曜日




