76 名を示せ
一通りスラム街の探索を終えた狐影はギルドに戻ることにした。
「えっと、お邪魔しまーす」
「おかえりー!」
「そしてフワフワー!」
早速ログインしたての双子クロムとノアルが尻尾に飛びついてきた。
「オイオイ、自身の所属するギルドにお邪魔しまーすって言うのは変じゃなーい。もっとどうどうと入ってきなヨ」
部屋の中心に設置された円卓には、ジェフリーがうつ伏せに倒れていた。椅子に座ってもたれているのではなく、円卓の上で倒れていた。
「あのジェフリーさんがふざけてる」
「ふざけてはないヨ。ただ、ちょっと忙しくて疲れてるだけサ」
「確か個室があるはず……なのですが」
この空気に狐影が馴染んできたところで、ジェフリーが本題を話し始めた。
先程まで尻尾に癒やされていた双子もその場を離れ、席についた。
「さて、決めることはギルドのプロフィール作成ダネ。ここの名前や役割決め、活動方針を固めて公開することで本格的にギルドが完成するよ」
「わかりました。まず何から決めるのですか?」
「役割決めダネ。手始めにリーダーを決めて進行してもらうよ。やっぱりここは人望のある者を決めるためにも推薦でいいんじゃないカナ?」
「「意義ナーシ」」
双子の元気のいい返事が響く。
真面目な話をしているというのにこののんきな表情。相変わらずぶれないものだ。
最初にも言ったように和ましい空気が充満しており、自然と肩の力が抜ける感じがした。
今思えば、こういった話し合いはあまり経験が無かった。基本自分は余り物で、話し合いもまともにできなかった。話すのが怖かった。
「じゃあ、リーダーは狐影で決定ダネ」
「「やったー」」
「……え?」
「狐影が考え込んでるうちに多数決で決まったヨ。満場一致でネ」
「え?え?いつの間に……てか自分でいいんですか?」
「そもそもこのギルドは狐影のために設立するようなものだからネ。クロムもノアルも君が好きだからついてきてくれるし、僕も君を信じてるから助けてあげたいのヨ」
「………」
言葉が出なかった。
どうしてここまでしてくれるのか分からなかった。なにか裏があるんじゃないかと疑ってた。
でも違う。心の底から自分のことを信頼して来てくれたことに気づけた。
悪意が一切ない純粋にきれいな感情。
今だけ、あのジェフリーの信頼の念がかすかに見えた気がする。
「ど、どうしたんだい?狐影。泣いてるヨ!?」
「あわわわわ、どうしよう」
「あわわわわ、どうにかしないと」
「いや大丈夫、嬉し涙だから。にしても、そうやって慌てて心配してる様子始めてみたかも」
「そりゃ、会ってまだ間もないしね」
「の割にはすごい信頼度が高いけど」
「逆にみんな疑い過ぎなのさ。ここゲームであり楽しむ場所であり、思念飛び交う現実とは違うのヨ」
「それもそうだね、そうあるべきだよね本当は。じゃあ改めまして進行させてもらいます」
信頼してくれる仲間がいる。
それを受け入れてくれる世界にいる。
でもそれを受け止めてくれない人もいる。
自分はこの世界で白霊狐の秘密を探っている。
だけど、それ以外にやりたいことができた。
ゲームでぐらい、心から楽しんでいきたい。
そう思った。
このギルド『狛狐』で。
孤独が嫌だった 孤独でいたかった
期待できなかった 期待したかった
信用されたかった 信用できなかった
『本当にやりたいことってなんだろう?』
その疑問のヒントを見つけられた気がする




