118 メディア・スケアリィな世である
時間なーい!
新たに手にしたアクセサリーもとい、忍者の懐シリーズを身に着け、扱いになれていた最中のことだった。
こちらの不手際であらぬ方向へと飛んでいった手裏剣が、後方で隠れていた男の度肝を貫いた。
「お前……いやあんた、白夜か!」
「あ、えっと……ほんとすみません。まさかこんなところにプレーヤーがいるとは」
あまり嬉しい形とは言えないが、多くのプレーヤーに周知されている名であることは確かであろう。だからこの男性にその名を呼ばれたことにそこまで驚きはしなかったが、それでいても違和感が残るものいいだ。
この場は陳謝の語を述べるのを優先したが、二の次にその疑問をついた。
「あの、もしかしてどこかでお会いしましたでしょうか?」
寝転ぶ男を見下ろす形のまま、白夜は話す。今更この場面の違和感にどうしたものかと硬直するのだった。
=☆☆=☆☆=☆☆=
アルデンテの街へと帰還した二人は、雑談がてらカフェへと赴くことにした。
このゲームにおいて、食事は娯楽という印象が強く事実そのとおりなのであろう。空腹という概念はあるものの、携帯食で十分賄える他、空腹時にデバフを受けることにはなるが何かしらの効果が上乗せられることもない。
正直ギルド設立から個人としての金策はほどんど行っていなかったので、こういったところでの無駄遣いは避けたい所存だ。
「ゲームを辞めたって噂もあったが、あれから大丈夫だったのか」
「ここに来るまで何度も話しましたが、心配いりません。身を隠す手段なんてたくさんありましたから」
「そうは言ってもなー。みんなドラゴンの情報に対して執着がすぎるんだよ。何をそんな焦ってたんだか」
「隠れていたので体感、迷惑も何もなかったですけどね」
「あれだけ散策されて見つからないっていうのもすごいけどよ。かといって、まだ顔を出さないほうが良さそうだけどな」
「…………なにか、そうしなければいけない明確な理由があるのですか?」
「確証はないけどよ……」
話すべきかどうか迷うような表情で唸り悩む彼の表情は、決してふざけてるものにも見えなかった。
ジャンとの関係は、一度ダンジョン攻略に付き合ったきりであり、顔見知りなだけの他人であった。それを踏まえた上でこうも心配されるとは思いもしなかった。
こうして黙り込んだ空気をなごますかのように、入り口のベルが鳴った。
「やっほージャンー。集合場所ここで合ってるかにゃー?」
「あ、ミケか。別に来なくていいってメールしただろ」
「新人に飢えたバカどもが、どうしてもってぇせがむからね〜。形だけでも来たってわけだよ」
「ああ、そういえばギルド勧誘して回ってたんでしたっけ」
ジャンがあの場にいたのも、優秀なプレーヤーを勧誘するために飛び回っていたからだそうだ。先程まで話していた事情もあり、後ろ盾にしては弱いギルドに入ることにジャン自身も賛同はしていない。
それを知っての上か、さきほど来た猫耳ことミケも形だけと言葉にしてくれた。
「ほんと、飢えに目がくらんで他人の事情も知らず勧誘なんて。顔の第一印象が悪くて人が来ない……! って嘆く割には、その他の原因を把握しない無能の集まりよの」
「悪意があるわけでもなく、ゲーマーとしての実力も確かだから一概に無能とは言い難いけどな。ただ向き不向きがあるだけで」
「うちらも顔が良いだけで、勧誘が得意ってわけじゃないでしょうがー!」
テーブルに突っ伏して力無きストレスを口にする様子に、目を点にしてしまう。それに気づいてかミケは顔を上げこちらに話を向けてくる。
「かんゆーするつもりはないけどさー、話ぐらいじゃしていいよね。なんで今更、表に顔をだすのさー?」
「……リアルの友達に誘われて、アルケミナ大図書館の鉄扉攻略の助力を頼まれたからです」
「ふーん。意外に日常的な理由だったね。でも気をつけたほうがいいよ。ストーカーどころじゃない、まるで珍獣を探すかのように躍起になるプレーヤーが少なからずいる。さらにどの過ぎた噂では現金が絡んでるって声も聞く」
「いやいや、ちょっと待ってください。少々話が飛躍的すぎませんか?」
「確かに根拠の少ない噂なのは確かだよー。でも、一概に否定できない噂ってのも確かにゃのよ」
「なんで……」
「確かにゲームに金を使う輩はいくらでもいるけど、現金が動くってなると話が変わってくるのよね。そう考えると、炎竜うんぬんに留まらず、白夜っていう一個人を求めてるって言われたほうがしっくりくるのよねー」
「それは真実だったらの話じゃないのですか?」
「その通りさ白夜君。でもこの話に真実味を帯びさせてるのは君の行動にあるんだよ」
「え……?」
困惑が絶えない。かくいうジャンも同様の感情を抱いていた。それでも構わず、ミケの質問攻めは続く。
「噂の通り炎竜の件から一度も姿を表さなくなったのは、その情報を求める輩がいたからだろうね。本来はぶっちゃけてしまったほうが楽なのに、それを独占しようとした。でもそんな意地悪な性格には見えない。多分なにか理由があったんでしょう?」
「…………」
「というか、姿をくらました期間を考えると現金が動くような大事になるって少なからずわかってたんじゃない? 隠れなきゃいけない根拠がまだあったんでしょ」
「……っ!」
どれもこれも図星でしかない。初対面だからこそ彼女がどこまで知りうる人物か見当がつかない。
何より抱かれている感情を視てすら、その素性が明確に読み取れない。ジェフリーとはまた違った恐怖が身を包む。
「……正直、そんなこと言われて返答に困りますね。何よりその噂も初めて聞きましたし」
「にゃんだー、ならしょうがないかにゃー。まあ、無理にってわけでもないよ。てことで時間取っちゃったねあとは好きにしていいよ」
「わかりました」
重苦しい空気やっと開放され晴れ晴れした気分だ。ジャンがなにか言いたげな様子だったが、呼び戻される前に白夜はそそくさと去って行った。
「なあミケ。さっきの話、本当なのか?」
「しらんよ」
「え?」
「ショセン根拠もないただの噂にゃー。嘘も八卦真も八卦だよー」
「占いの話でもしてたんですか?」
「でも私は真実だと思ってるよ。今日確信した」
「それはなんでですか」
ミケは一度呼吸を整え、白夜が口をつけなかった水の入ったグラスを口に運ぶ。
「白夜は一度、どこかしらのバーでその姿が目撃されてたらしい。なにも偶然か、あのホムラとでくわして話をしてたそうだ。その次の日だったか、伝説のサーバー落下事件が起こってたね」
「そう、だったんですか」
「うん。だから過剰なまでに姿を隠す理由があったって推測だと、少し矛盾してるのよね。つまり、裏もなく密かにゲームを楽しんでいたって言えば、アタシの思い込みだったで済む話だったのよ」
「つまり、カマをかけてたってことですか」
「そう。それでいて彼は否定しなかったそれが確信に通じた所以だよ」
動向の狭まったその眼光は獲物を見る目。その視線はただ、先程までに白夜の座っていた席を眺めている。
「情報ギルド狛猫の一員として、これ以上ない美味な案件だよ。この我々に情報を握らせない、まさしく忍者。そんな彼の尻尾をつかんだからには逃さないよ」
「……てか白夜って男なんですか。さっきから彼って」
「そこからかい!」
どこか愉快な人がここにも。情報やギルド狛猫は、たったの一日も絶えず情報をかき集めている。その執着はどこから来ているのやら。
頑張れ自分ー。頑張って書けーー




