114 あの日の過去に
例のワクチン事情で、予定より遅れて投稿することになりました。流石に8度まで上がるとゲームもままなりませんね。
実のところ、こうして関わったことは過去にも一回だけある。
時は遡り、狐白がまだ正式に転校して来る前のことだった。その当時は春休みでありながらも、クラブやらその他諸々の用事があったようで、人は多かった。
そんな中、フォーミラ改め関口沙羅は校舎裏のうさぎ小屋前に呼び出されていた。
呼び出した相手はこの時点でわかっていなかったのだが、ロッカーに呼び出す文面の手紙を置いてあったことから察するに、告白するつもりなのだろう。
野次馬として、羊のメービィーもとい澤口菜野香が済でこっそりついて来た以外は予想通りの展開だった。
いや、向こう側にも野次馬が二人。ソワソワしているからか余計に目立っていた。まだ茂みで羊に擬態している菜野香のほうがマシな隠れ方だ。
「……毛皮をわざわざ身にまとう必要ある?」
「しっ!ばれちゃうメェ」
「いやいや、不自然極まりないよ。まったく」
少々おふざけの入った傍観者がいるとはいえ、相手はまだ真剣な様子だっだ。相手の名は金谷煉という、当時同じクラスであった人である。
顔立ちも出生も良く多くの女性に好かれていたが、一途の相手がいるとだけ言い告白してくる者をフッててきた人物である。
「で、何の用よ」
「まあ、察しが付いてるかもしれないが……いや空気を壊す発言は良くないな」
「わざわざそれをこの場で言うものかしら」
「こう見えて緊張してるから」
「結構あからさまよ」
「まじか、ホント格好つかないな」
幼なじみとまでいかなくとも、小学生から仲良く遊ぶ友達ではあった。だからこうして崩した物言いもできる。
だが、煉の気持ちを落ち好かせるその呼吸音が再び真剣な空気へと変えた。目を合わせて口を開き、彼は答えた。
「俺の彼n「本当にパンダみたいな模様してる」れ!」
「「「「…………」」」」
「……は?」
「ん……? あれ、告白の場面?」
この学校には大きな人気を集めるパンダ模様の兎が飼育されている。しかも、幸運をもたらすとのもっぱらの噂で、煉もその幸運を願ったからこそ告白の場をここに決めたのだろう。
しかし、それは仇となる。
「………こん…の!」
「……あ、なるほど。ヤバいな」
純粋な言葉で告白の台詞を遮ったその少年は、こちらを見て察したのか、一目散に駆け出して行った。
間髪入れずあの煉も鬼の形相でかつ無言でそれを追っていった。
この間約二秒といったところだろうか。そのためか他人が口を挟む間もなく、事は過ぎ去ってしまった。
「……フフッ……フフフ」
ただその残された静粛に耐えきれず、ついつい笑ってしまった人がいた。その声につられ隠れていた野次馬達も身を乗り出して笑っていた。
「誰だよあいつ。てか、速いなー」
「煉の奴も過去に見ない速さで追って行ったけど、それから逃げるあいつもヤバいな」
「あやつ何者メェ!?こっちの様子にも気づいてはなかったけど、足音もたてず近づいて来たメェ!」
「何その意味深な物言い」
「ちょっとぉ言ってみたかっただけだよぉ!」
「なんかすみませんでしたね」
なんの前触れもなく、先程の少年の顔が背後に現れた。いや、少しばかりか育ちが悪い細身の体付きのせいか、華奢な少女にも見えた。
「うおっ!もう校舎週しれきたのかよ!」
「本当に謝るべき人は敵意むき出しで迫って来るのでアレなのですけど、とりあえずここで謝っておきます」
「はぁ、まあ面白かったからいいけど」
「では、お騒がせしました。失礼します」
嵐が戻ってきたかと思いきや、謝った後にまた走り去って行った。それも、菜野香の言う通り足音をたてずに。
すると彼の目の前に、逆をついてやってきた煉が目の前に立ち塞がってたが、小柄なその身を捕まえることは叶わず避けられた上に豪快すっ転んでいた。
「フフっ……まるで小動物みたいね。新入生とかかしら」
「あぁ、もしかして噂の転校生かもぉしれないよぉ」
「だとすると、何か手続きにでもしに来てたんだろうか」
影の様に訪れて、獣ごとく足早に去って行った。その姿はなんとも微笑ましく、ただ少数であれどささやかな不快感を覚えたようだが、なんにせよ印象深いそんな日になったであろう。
=☆☆=☆☆=☆☆=
あの日の過去で覚えているのはパンダ柄の兎ぐらいだった。それでも、いつの日かの過去を聞いた今、ある事実に気づくことができた。
「もしかして、煉がことあるごとに突っかかって来たのは、その日の恨みがあったからですか?」
「多分そぉだねぇ。そのそいでぇ、狐白君と仲良くなりたかった人たちを追っ払う形になってぇ、酷い虐めにも発展するかもって先生たちも心配してたのよぉ」
「心配してるなら止めればいいのに」
「今の煉たちはぁ、反応が面白いからってぇ理由でちょっかいをかける形に変わっていったけどねぇ」
「不本意」
「あれを素でやってるなんてすごいと思うわよ。いつもいつもコントのような会話は聞いてて飽きないものだわ」
「それは……いや、否定はできないです」
嫌なものは嫌だった。それでも、会話の中でいじられ軽く馬鹿にされても、頼ろうとしてくるようにもなってきた。
もとより父は、友達とより仲良くなるためにとあのゲーム機を贈ってくれたのだ。その思いが今のような理想形を形作てくれたのだ。ただただ、嬉しくそれでも、どことなく寂しく思えてしまう。
「なんか、いつの間にか色々変わっていたんですね」
「何その思いふけった言葉。人って結構変わるものよ、思春期の今頃は特に」
「そうですか……」
口にしようとして、でも唇を噛んで止めた。
それはなにか不都合になるわけでもなく、馬鹿にされるものでもないだろう。でも何かと恥ずかしかった。
『自分も変わりたい』
今ほど、周りを羨ましく思った日はなかっただろう。
初めて気づく、青春の温かさ……




